43.兄ちゃん、一番星に出会う
またお皿を作ってもらうのを約束して、僕たちは黒翼騎士団の庁舎に戻っていく。
「あのー、お二人ともそこまで強く手を握らなくても大丈夫ですよ?」
「迷子になるといけないですからね」
「貴族街はあぶない」
なぜか僕の手をエリオットさんとゼノさんに握られている。
ゼノさんはいつものことだからわかるけど、エリオットさんが率先して手を繋いだ時は驚いた。
自分が便利なのをアピールしているつもりなんだろうか。
さっきから自分は必要ないのかと問い詰めてきたからね。
洗濯機で軟水生成担当のエリオットさんは、必要不可欠なのに何を勘違いしているのだろう。
「そんなに貴族街は危ないんですか?」
「あー、街の治安自体はいいですが、それは同じ貴族同士であって平民相手だと不敬罪で訴えられることもあります」
「最悪打ち首にされることもあるから、ソウタの手を放さないからね?」
エリオットさんとゼノさんは僕を驚かせようとしているのかと思ったが、表情からして本当のことなんだろう。
どうやら思ったよりも貴族街は危ないところのようだ。
確かに道も整備されて綺麗だし、孤児などが住めそうな路地裏も見当たらない。
眼に悪いものを排除するって感じなんだろう。
「それを取り締まっているのが俺たち青翼騎士団だ! まぁ、俺は専属シェフだけどな」
真っ黒な団服に囲まれた青色の団服は目を惹くだろう。
普段は青翼騎士団が貴族街や貴族の対応をしている。
だから、所属できるのは貴族のみになっているらしい。
「他にも騎士団はあるんですか?」
「あとは白翼騎士団と赤翼騎士団がありますね」
エリオットさんの話では、騎士団は制服の色毎に分かれているらしい。
王族を護衛する白翼騎士団、女性貴族のみで構成している赤翼騎士団、貴族街を守る青翼騎士団、最後に僕が所属している黒翼騎士団の4つが騎士団として存在している。
今後も目的に合わせて騎士団が作られることもあるが、滅多にないらしい。
一番最近できたのが黒翼騎士団で、その初代騎士団長がエルドラン団長にあたる。
「話をしていたら赤翼騎士団がいるぞ」
真っ赤な制服に身を包んだ、まるで宝塚の男役のような人たちが歩いてきた。
どこか他の騎士よりも品があり、まるで女性を虜にさせるような魅力を感じる。
「ゼノさん、どうしたんですか?」
突然、ゼノさんは僕の後ろに隠れた。
どう頑張っても隠れられないのに、僕の手を放さないって言ったからだろう。
「ゼノの婚約者が赤翼騎士団にいるんだ」
「元婚約者だ!」
女性が苦手なゼノさんに婚約者がいることに驚いた。
ゼノさんがすぐに否定するぐらいだし、女性が苦手なら婚約も難しいのだろう。
僕たちがジーッと見つめているのが視界に入ったのか、一人の女性が近づいてきた。
「ご機嫌麗しゅう。黒翼騎士団のみなさん、そしてエルドラン団長」
背筋は真っ直ぐに伸び、流れるように一礼する。
長く一つ結びにしている赤髪すら、尻尾のようになびいて気品に溢れていた。
「げっ……」
反応からしてどうやらエルドラン団長を含む、黒翼騎士団は赤翼騎士団のことが得意ではなさそうだ。
黒翼騎士団は子どもっぽいから、女性の相手が苦手なんだろうね。
「ご挨拶させてもらってもいいかな?」
静かに視線を合わせると、そっと片膝立ちをする。
「あっ、綺麗な団服が汚れちゃいますよ」
僕はすぐにポケットから真っ黒なハンカチを取り出す。
うちの団服よりも汚れが目立ちそうだ。
赤色の制服って綺麗にするのも大変だろう。
「……」
驚いた顔をしていたが、僕は間違ったことをしたのだろうか。
ひょっとして平民の僕が先に挨拶しないといけないってルールがあるのかな?
全員貴族の青翼騎士団があるくらいだから、目の前にいる赤翼騎士団員も貴族なのかもしれない。
「ご挨拶遅れました。黒翼騎士団に所属することになりましたソウタです。こんな身なりですみません」
僕は急いで頭を下げる。
被っていた鍋が落ちそうになっていたのを優しく受け止めてくれた。
「あっ、すみません。みんなが危ないからって――」
「なんて可愛らしいんだ……」
赤翼騎士団の女性は僕の手を取り、優しく手の甲にキスをした。
「赤翼騎士団の団長をしているローズと申します。君に会えて光栄だ」
あまりにも綺麗な動きに僕もびっくりしてしまう。
動きに無駄がないというのか、キラキラと輝いているように見える。
女性が沼にハマるってこういうことを言うのだろう。
妹も大人になったら、こういう人たちに黄色い歓声を上げていたかもしれないね。
「僕も会えて光栄です。ローズ団長、お綺麗ですね」
「綺麗……?」
「はい! すごくお星様みたいというのか……黒翼騎士団に囲まれていると、まるで夜空に輝く一番星ですね!」
気づいた時には黒翼騎士団員がローズ団長を囲んでいた。
明らかに嫌そうな顔で睨みつけるから、僕もフォローしないといけない。
さっきから僕の手を握っているゼノさんの握力も僕の手が砕けそうだからね。
「一番星……そんなことを言われたのは初めてだ」
「きっとみなさん恥ずかしくて言えないんですよ。あまりにも綺麗な方だと恐縮しちゃいますからね」
赤翼騎士団の団服のせいで男装しているように見えるけど、身長も高いし、スタイルも良いからモデルをやっていてもおかしくない。
ワンピースとかスリットが入ったドレスを着たら似合いそうだ。
「みんなもそんなに見たら失礼ですよ!」
黒翼騎士団員も段々と睨みが強くなり……目で殺すような勢いで威圧していた。
この顔が原因で悪役にされたのかもしれないからね……。
まるでヤンキーグループに囲まれている少年を助けた女性って感じだ。
「道の真ん中で立ち話をするのもいけないので、これで失礼しますね。ほら、みんな行くよ!」
あまりにも失礼極まりないため、僕はすぐにその場から立ち去ることにした。
「けっ! やっぱり赤翼騎士団はいけ好かないな!」
「俺も苦手っす!」
エルドラン団長とジンさんは露骨に嫌な顔をしていた。
やっぱり女性の相手が苦手なんだろうね。
小学生ぐらいの男の子が無駄に女の子に意地悪する姿を思い出す。
その姿にそっくり……いや、この人たちは大人だったか。
「ソウタの手が汚れた……」
「ゼノさん、そんなに拭かなくても汚れてないですよ」
ゼノさんはさっきから僕の手をずっと拭いている。
「あぁ、やっぱり荒れて赤くなってきてる……」
「いや……それはゼノさんが擦るからですよ」
あまりにも擦るから皮膚が赤くなってきていた。
ゼノさんは座り込みジーッと僕の手を見ている。
「痛くしてごめんね」
そんな僕の手を自身の頬に当てて、スリスリとし始めた。
「ふふふ、ゼノさんって猫みたいですね」
「にゃー」
優しく頭を撫でると嬉しそうな顔をしていた。
元婚約者を遠目に見て、すぐに僕の後ろに隠れていたゼノさん。
わずかに震えていることに気づいたけど、今は何事もなくて一安心した。
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