41.兄ちゃん、仕事を依頼される
「おい、コンラッド……何をほざいているんだ? もう一度言ってみろ」
「あぁ、ソウタくん。青翼騎士団に入団――」
「断るううううう!!!!」
エルドラン団長の唸り声が大きく響く。
あぁ、やっぱりこの人ってハスキー犬なんだと納得しそうだ。
「さすがに相手がコンラッドさんでも、容赦しないですよ」
あれ?
あまり感情を表に出さないエリオットさんまでわかりやすいぞ。
「くくく、それなら私の妻に――」
「コロオオオオオオオス!」
どこからかゼノさんが転がってきた。
一体どこから入ってきたのだろうか。、
周囲をキョロキョロしていると、天井の空気口の蓋が外されていた。
あそこからずっと見ていたのかな?
まるで忍者じゃ……あっ、アルノーさんもいた。
僕が手を振ると、嬉しそうに振り返してくれた。
「青翼騎士団は俺ら黒翼騎士団とやり合いたいようだな?」
「エルドラン団長、この人を殺してもいいですか? 私のソウタを奪うやつは誰であっても殺していいという決まりがあるので」
「それなら兄さんの不正を青翼騎士団を脅す材料にして、一生活動できないようにした方が効率的かと……」
あぁ……やっぱりうちの騎士団って悪役にされがちというか……本当の悪役なんだと実感してきた。
さすがに止めないといけない気がするけど、コンラッド団長は楽しそうに笑っている。
「本当に黒翼騎士団は物騒だな」
あれはこの状況を楽しんでいるタイプだぞ……。
思ったよりもコンラッド団長は手強いようだ。
「みなさん、ひとまず落ち着きましょう。まずは理由を聞いた方がいいですからね」
「理由? そんなもんソウタの飯が食いたいに決まってるだろ!」
「いや、それは間違いです。この変態はソウタを愛しているんです! だから……殺す!!!」
なんかどっちも違うような気がするんだけどな……。
それにエルドラン団長とゼノさんが威嚇しているから、話すのにも話しにくい環境だ。
「二人ともおすわり!」
「「へっ……?」」
エルドラン団長とゼノさんはキョトンとした顔で首を傾げている。
とりあえずは静かになったから、これで話しやすいだろう。
僕は一歩前に出る。
ただ、コンラッド団長を睨みつけているのが、視界に入っているから邪魔だな……。
「二人はここに座っていてください」
「「はい」」
エルドラン団長とゼノさんは床にちょこんと正座をしていた。
二人とも僕に怒られると思っているのか、チラチラとこっちを見ている。
特に怒っているわけでもないのに、内心やりすぎたと自覚しているのだろうか。
悪いことをしたら正座をするように教えてから、度々こういう姿を見るようになった。
「ははは、あの猛獣騎士団を手懐けているとは……さすがだね」
「猛獣……ですか?」
「あぁ、黒翼騎士団は気品や品格のかけらがないって言われているからね」
気品や品格はないのは僕も理解はしている。
けれど、猛獣というよりは可愛い犬に近い。
それに僕にとっては弟にしか見えないからね。
「猛獣騎士団というよりは、ふれあいパークに近いと思うんだけどなー」
「ふれあいパーク……?」
「ほら、エルドラン団長とか大きな犬に見えないですか?」
「「「……」」」
なぜか部屋の中は静かになった。
誰一人息する音も聞こえず、僕だけがこの空間に残されているような気分だ。
「ソウタは俺のこと犬だと思ってたのか……?」
「はい! 人懐っこいですし、美味しいそうにご飯を食べているところは……大型犬しかないです!」
「おっ……そうか……」
エルドラン団長は少し戸惑いながらも、恥ずかしそうにしていた。
また何か僕はやらかしてしまったのだろうか。
「ねねね、ソウタ私は何犬ですか?」
その中でもゼノさんだけはノリノリだ。
「ゼノさんは……変な人です!」
「犬でもないのか……。いや、人ってことは婚約できるってことですね!」
ゼノさんは嬉しそうに僕を抱き寄せて、ギュッと抱きしめていた。
ついでに頬をすりすりしているが、犬というよりは変な人でしょ?
「エリオットさんは――」
「いえ、私は遠慮しておきます」
せっかくエリオットさんの良さを伝えようとしたら、断られてしまった。
「やっぱり君は面白い子だね。ぜひ、うちに欲しいけど……」
「「ダメだ!」」
「ダメです!」
相変わらず三人の反応が早くて見ていて面白い。
それはコンラッド団長も思ってやっているのだろう。
「そう言われると分かっていた。ぜひ、その代わりにうちの騎士を鍛えてほしい」
「鍛えるんですか……?」
僕が騎士を鍛えるより、僕が鍛えられる方だろう。
いまだにあまり長いこと走れないし、自分の足に引っかかって転びそうになることだってあるからね。
「ああ、キッシュ入ってくれ!」
コンラッド団長が美味しそうな名前を呼ぶと、部屋にある騎士が入ってきた。
「ソウタ……先輩! よろしく頼みます!」
「へっ!?」
入ってきたのは、この間じゃがいもを使って料理勝負をした騎士だった。
どうやら彼が美味しそうな名前の騎士のようだ。
「青翼騎士団の専業シェフであるキッシュに料理を教えてほしい」
「それって僕にメリットはありますか?」
タダで教えてほしいと言われても、素直にうんとは言えない。
だって、青翼騎士団はレオの店を汚した人たちでもあるし、キッシュさんは喧嘩を売ってきた人物だ。
心を入れ替えていたとしても、どこかでぶつかる可能性がある。
「ほぉ、ソウタくんは頭の回転も早いようだね。そうだな……自由に貴族街に入れるようにしよう」
「遠慮しておきます!」
きっと貴族街に出入りできるように青翼騎士団へ所属させる魂胆だろう。
それに貴族街って良い材料が売っていたとしても、僕のお金で買えるわけではないからね。
「平民は貴族街に入れるだけで喜ぶはずなのに……ますます君が欲しい」
やっぱり貴族と平民では根本的な考えも違うのだろう。
僕の周りには貴族街に入りたい平民はいないからね。
ジーッと見つめてくるコンラッド団長に僕は視線を外す。
「あっ、それなら彼に教える対価をもらえませんか?」
「対価とは……?」
「お給料です!」
エリオットさんがお金を管理しているが、僕自身の使えるお金はもらったことがない。
そもそもどういう仕組みで賃金を払っているのか聞いたことがなかった。
「ほう、それなら講習費として全てソウタくんに渡るように調整しよう。エルドラン団長もそれでいいかね?」
「ソウタがいいって言うなら問題ない」
これで路地裏にいるあの子たちに心置きなく料理を渡すことができる。
正直、黒翼騎士団のお金を使っていることに罪悪感もあった。
エリオットさんは少し気づいていそうだったしね。
それに――。
「力がない僕にお手伝いさんができてよかったです」
僕はニヤリと笑う。
料理のレシピや味付けはできても、大きな鍋を振ることはできないし、揚げ物は危ないからね。
かぼちゃを切る時なんて、結構命懸けなんだからね。
最近はみんなで魔物の討伐とかに行ったりしているから、ボディガードにもなる後輩ができて僕は安心した。
「俺たちは必要ないって言われた気がするけど……」
「私にソウタは必要ですからね? ねぇ、ソウタ聞いてる……?」
エルドラン団長とゼノさんはずっと何か言っていたけど、頼んできたのはコンラッドさんだ。
「僕は頼まれただけです」
僕は知らぬ顔をして、掃除をしているだろうと思う他の団員に会いに行くことにした。
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