40.兄ちゃん、戦うお母さんになる
ストックができたので連載再開します。
僕は学生の時に戻ったような気持ちで、真っ黒な黒翼騎士団の制服に袖を通す。
久しぶりの感覚に身が引き締まる思いだ。
「おはようございます!」
いつものように広間に行くと、すでに他の騎士たちは起きていた。
「ソウタ、今日の夕飯はトンカツがいいな!」
エルドラン団長は挨拶することなく、僕の顔をチラッと見つめてくる。
「エルドラン団長せこいっすよ! 俺は肉じゃが!」
「ソウタがいい……」
いつのまにか団員みんなが早起きをするようになり、夕飯の希望を言う決まりになっていた。
相変わらずゼノさんは朝が弱いから、寝ぼけながらも混ざっている。
結局、ゼノさんは何が食べたいのかわからないね。
でも、これが朝の恒例だ。
「できる限り頑張りますね」
材料の問題もあるし、お金を使いすぎるのはよくないからね。
ただ、今日の問題はそこではない。
「みなさん、青翼騎士団に謝りに行くの覚えていますか?」
「……」
広間は静かになり、誰も返事をしない。
「ゼノさん、寝たふりをしても意味ないですからね?」
「ん……何のこと? 私は悪くない」
「はぁー」
思ったよりも頑固なゼノさんにため息が出てくる。
僕が専業主夫として誘拐された翌日に、僕は数人の騎士を引き連れて、青翼騎士団の庁舎に向かった。
だって、あそこの調理場を見たら、今もどうなってるのかわかるでしょ?
喧嘩で荒れたままの部屋を片付けて、ついでに調理場の掃除とご飯も作ってきた。
まるで専業主夫じゃなくて、通い妻だ。
……いや、通い夫か。
それに僕は専業シェフを専業主夫と勘違いしていたようだ。
バリーさんに連れて行かれたのは、専業主夫ではなく、専業シェフにするつもりだったらしい。
騎士の中でも極力戦いには参加せずに、サポートに徹する騎士が存在する。
その中でも料理に特化した騎士を専業シェフと呼んでいるらしい。
すごく紛らわしいよね。
でも、騎士団にお手伝いさんがいない理由がやっとわかった。
イメージとしては、自衛隊とかに近いのだろう。
「エリオットさん、向こうの騎士団長さんには会えるんですか?」
「そうですね。ただ、あの人も結構癖が強いので……」
エリオットさんが言うほどの癖が強い青翼騎士団の団長さんってどんな人なんだろう。
僕も会いたい気持ちと会いたくない気持ちが交差している。
うちのエルドラン団長みたいな単純な人であればいいけどね。
「ん? ソウタ、どうした?」
「今日も美味しそうに食べるなーって」
「ソウタのご飯はこの世で一番美味いからな」
どこか餌付けしている気もするが、これがこの世界で生きていくには正しいのだろう。
朝食を済ませた僕たちは早速、青翼騎士団に向かうことにした。
街の中をエルドラン団長とともに歩いていく。
僕が先頭にいるのはどこかに行かないためだ。
騎士たちに囲まれていたら、僕がどこにいるかわからなくなるからね。
「ソウタくん、おはよう!」
「おはようございます!」
「今日も立派な騎士ね!」
あれから街の中で僕のことを心配して、声をかけてくれる人がさらに増えた。
それに最近は変なあだ名までつけられるようになった。
「今日も素敵な格好ね! まるで〝戦うお母さん〟だわ!」
「むむむ……」
僕はエルドラン団長の顔をジーッと見つめる。
本人は特に気にしていないのか、目が合うと嬉しそうに笑っていた。
「ヒイイィィィ!?」
ただ、エルドラン団長が笑うと、あまりの怖さに街の人は去っていく。
「みなさんがいるから、こんな格好しなくても大丈夫ですよね?」
「いや、また誘拐されるといけないからな?」
「そうっすよ! ソウタは戦えないんだから!」
確かにジンさんの言うとおり、戦う力は僕にはないけど、さすがにこの格好はないだろう。
「ソウタ、似合ってるよ」
ゼノさんも否定することなく、僕がこの格好をすることを納得している。
鍋の蓋としゃもじを提げ、頭には鍋を被っている。
みんなから武器を持たないと危ないと言われたが、さすがに剣を持つのを躊躇した結果がこれだ。
この姿からか、街の人からは〝戦うお母さん〟と呼ばれ始めた。
誘拐事件から必ず騎士団員と移動しているのに、必要なのかな?
青翼騎士団の庁舎に到着すると、すぐにバリーさんがやってきた。
どこか気まずそうな顔をしているが、エリオットさんは吹っ切れているのか気にしていないようだ。
「バリーさん、元気ないですね?」
「お前らのせいで俺が怒られることになったからな」
どうやら僕を誘拐したことで、バリーさんは怒られたのだろう。
それを聞いたエリオットさんは少し嬉しそうにしていた。
見ている人はちゃんと見ているってことだね。
そう思うと青翼騎士団の団長さんは良い人なのかもしれない。
「俺が副団長だから、お前らを案内してやる」
そう言ってバリーさんは、僕たちを団長さんがいるところまで案内してくれることになった。
まさかバリーさんが副団長だとは思いもしなかった。
これは団長さんも大変な思いをしていそうだね。
――トントン
「コンラッド団長、黒翼騎士団のやつらを連れてきました」
「入れ!」
低く響いたバリトンの声が突き抜ける。
どこか居心地の良いお父さんって感じの声がした。
部屋に案内されたのは、エルドラン団長とエリオットさん。
そして、僕の三人だ。
その間に他の黒翼騎士団の団員には、掃除を任せている。
だって、いつのまにかまた部屋が汚くなっていたんだもん。
夕飯を豪華にしてあげるって言ったら、彼らは雄叫びをあげて嬉しそうに掃除を始めた。
思ったよりも人は変わるんだと、この世界に来て実感するようになった。
きっと今頃は雑巾がけ勝負を騎士団同士でやっていそうだな。
部屋の中は本に囲まれてあり、中央のテーブルにグレーと茶色が混ざった髪色でオールバックにしているおじさんがいた。
ピシッと背筋を伸ばし、どことなくイケオジの言葉が似合う人だ。
「おい、バリー。黒翼騎士団のやつらじゃなくて、黒翼騎士団様をお連れしましただろ?」
「はい、すみません」
バリーさんは一言謝って、部屋から出ていく。
癖があるって規律に厳しいってことだろうか。
それなら僕もそれ相当の態度で接しないといけないだろう。
「この度はお時間を作っていただきありがとうございます。先日もお邪魔させていただきましたが、コンラッド様がご不在で……あれ?」
僕が話し始めるとコンラッド団長は口をわずかに開けてポカーンとしていた。
そんなにおかしなことを言っていただろうか。
「ああ、すまない。こんなに礼儀正しい子とは思わなかったのでつい……」
「いえ、こちらこそ黒翼騎士団の団員がご迷惑をおかけして申し訳ありません。しっかり片付けさせましたが、何かありましたらエリオットさん……いや、エリオットに確認してください。エリオットは素晴らしい団員なので……」
僕はエリオットさんの方をチラッと見たら、驚きながらもどこか嬉しそうにしていた。
エリオットさんって呼んでないから、怒られるかなと思ったが問題はなかった。
確か会社とかだと、取引相手に自社の人をさん付けで呼んだらダメって聞いたことがあるからね。
「コンラッド団長、お久しぶりです」
「ああ、元気にしていたか?」
そういえば、エリオットさんは元々青翼騎士団にいたから、その時からコンラッド団長は騎士団長だったんだね。
「はい、今は楽しく過ごしています」
どこか視線を感じて見上げると、エリオットさんと目が合った。
僕はニコリと微笑む。
楽しく過ごせてるならよかったね。
「そうか……。あの時はあれが最善だと思ったからすまない。エルドランも助かってる」
「ははは、エリオットは俺らにも必要な人材だからな」
どうやらコンラッド団長とエルドラン団長は、元から付き合いがあるのだろう。
だから、騎士団員が殴り合いの喧嘩をしていてもそこまで気にしていなかったのか。
「それで人材の話だが……ソウタくん」
「はい」
突然、コンラッド団長は僕の名前を呼んだ。
「青翼騎士団に入る気はないか?」
コンラッド団長はニヤリと微笑んだ。
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