38.兄ちゃん、料理勝負をする
鍋やフライパンを洗ったら、すぐに調理に取りかかる。
じゃがいもがメインの料理なので、じゃがいものガレット、じゃがいもポタージュ、じゃがいももち、そしてポテトチップスを作る予定だ。
じゃがいもをいくつか洗って、ざく切りにして、鍋を使った簡易蒸し器で蒸していく。
「ははは、あいつじゃがいもなのに、焼かずに料理しようとしてるのか!」
遠くから僕の調理方法に文句を言っているようだ。
向こうは焼くしか調理方法を知らないのだろうか。
「こっちを見ている時間があるなら、そっちの食器類も片付けてくださいね!」
僕の方には使った鍋やフライパンが置いてあったが、相手の方には洗ってないお皿やカトラリーが山のように置いてある。
せっかくなら空いてる時間に洗い物もやって欲しいね。
「チッ!」
僕に小言を言われることを面倒に思ったのか、その後は文句を言うことはなかった。
ただ、僕に興味を示している人が隣にいた。
「これは何をしてるんだ?」
「じゃがいもは蒸すとレパートリーも増えるんですよ」
年老いた専業主夫が簡易蒸し器を興味津々に見ていた。
蒸したじゃがいもはマッシュポテトやポテトサラダとかにもできるからね。
残りのじゃがいもは薄くスライスしたように切っていく。
小さな体でじゃがいもを扱うって結構大変だ。
いつもは騎士団員かレオに手伝ってもらっていたけど、こういう時のために僕も少し運動した方が良さそうだね。
スライスしたじゃがいも半分はポテトチップスを作るために、そのまま揚げ焼きにする。
残りの半分は少し油を引いたところに、円形になるように並べてガレットを作っていく。
向こうもじゃがいもを焼いているから、ガレットみたいなのができそうだ。
ガレットはじゃがいもにあるデンプンである程度くっついていく。
だけど、今回はチーズを乗せて、相手との差をつけるつもりでいる。
「すごい手際だ……」
僕はいつもの通りに動いていたが、年老いた専業主夫は驚いた表情をしていた。
ガレットをひっくり返したら、上にチーズを乗せて焼けば完成だ。
ポテトチップスもだいぶ揚がってきた。
「しっかり柔らかくなったね」
蒸し器に入れていたじゃがいもを取り出したら、すぐに形が崩れるほど潰す。
油で玉ねぎを炒めたところに、潰したじゃがいも半分と牛乳、水を入れて塩胡椒で味付けする。
そういえば、青翼騎士団はお金が多いのか牛乳が置いてあった。
普段は羊乳ばかり使っているからね。
騎士団によって与えられる運営費は違うのだろう。
「あとは火にかけたらポタージュスープは完成だね」
じゃがいものポタージュスープは宿屋でよく作っていたから、かなり手際が良い方だ。
そして、残りの蒸したじゃがいもは小麦粉を少し入れてよくかき混ぜる。
形を整えて、焼けばじゃがいももちは完成する。
砂糖醤油味と、砂糖を多めにして火を入れたみたらし味もどきの二種類を用意すれば、味の違いも楽しめるだろう。
「全て完成しました!」
30分以内で無事に4品作り上げて、味の違いも用意できた。
それに余った時間で鍋とフライパンも洗えたので、効率的に時間も使えた気がする。
できた料理を騎士たちが待つテーブルに並べていく。
「えーっと……作ったのはそれだけですか?」
30分もあったのに、僕が4品用意したのに対して、対戦相手が用意したのは1品だけだった。
置いてあるのはじゃがいもを焼いて、香草のようなものと塩がかけられているシンプルな料理だ。
――ゴクッ
騎士たちからは唾を飲む音が聞こえてくる。
「早速、食べて――」
「ちょっと待ってください」
僕は皿をすぐに引っ込める。
「何だ?」
「俺たちに食べさせないつもりか!」
「早く食べさせろよ!」
突然止められたことに騎士は苛立ちを隠せないようだ。
だが、食べる前に必ずすることがあるからね。
「手を洗ってきてください! 手を洗わない人にはご飯は抜きです!」
僕が本当にお皿を片付けようとしたら、騎士の三人はすぐに手を洗いに走り出した。
ここは黒翼騎士団員の騎士と変わらないね。
みんな美味しそうなものを見たら、体は正直になるのだろう。
「手を洗うのは大事なんですか?」
年老いた専業主夫が質問してきた。
「手が汚いとお腹を壊しますからね……」
それを聞いてか騎士だけではなく、年老いた専業主夫や対戦相手まで手を洗いに行った。
「「洗ってきたぞ!」」
「ほら、早く食わせろ!」
「専業シェフとして、私も味見させてください」
手が汚いと食べさせてもらえないと思ったのか、僕に手を見せつけてくる。
僕がこくりとうなずいたので、すぐに食べ始めた。
もはやその姿はお腹を空かした弟妹にしか見えない。
そういえば、普段はエルドラン団長が手を合わせて挨拶せずに食べた騎士に怒っていたから、挨拶していないことに気づかなかったな。
「「うんめぇー!」」
「ああ、これは天国だろうか……」
部下の騎士二人は食べる手が止まらないし、年老いた専業主夫に至っては、天国に飛んでいっちゃいそうな反応をしていた。
「やっぱり連れてきて正解だな」
上司の騎士もニヤニヤとしながら食べている。
「くっ……俺の負けだ……」
そして、対戦相手は自ら降参するほど僕の料理は美味しいらしい。
これで無事に料理対戦は終わったようだ。
「美味しく食べてもらえてよかったです。では、僕は帰りますね!」
何か忘れている気もするが、小姑作戦が成功したなら僕はここにいるつもりはない。
そのまま立ち去ろうとしたら、上司の騎士に腕を掴まれた。
「おい、お前は今日からここで働くんだぞ」
そういえば、僕が勝ったら専業主夫になることを忘れていた。
僕はこの人の専業主夫になるのだろうか。
それにその場から逃げようとしても、腕を強く握られて離れられない。
その時――。
――ドオオオオオオン!
大きな音が玄関の方から聞こえてきた。
何が起きたのか戸惑っていると、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「てめぇら、うちのソウタを返しやがれ!」
「お前らのチ◯コ切り落として、貴族街に飾ってやろうか!」
ジンさんとゼノさんが扉を蹴って入ってきた。
なぜか二人とも剣を構えていた。
それにしても、ゼノさんって怒ると怖いんだね。
寝起きの悪いゼノさんをバシバシ叩いて起こしていたけど、これからは優しくしないと僕の股間がなくなっちゃいそうだ。
「ジンさん! ゼノさん! こっちです!」
とりあえず僕の居場所を教えるために、元気よく手を振ると、二人は勢いよく走ってきた。
「あー、ソウタが無事でよかった!」
「ソウタ、今すぐに結婚式をしよう! その前にこの汚物を処理するから待っててね?」
抱きついてくるジンさんとゼノさんの頭を優しく撫でる。
「ジンさんとゼノさんは相変わらずですね」
僕に対しての過保護っぷりがすごいね。
それに汚物はさすがに言い過ぎだろう。
「黒翼騎士団のお前らがなぜここにいる!?」
ジンさんとゼノさんを見て、青翼騎士団の部下二人も警戒心を強めた。
ただ、僕に対してはニコニコしているジンさんとゼノさんだが、後ろの騎士たちに対しては違っていた。
「おい、今すぐその汚い手を放せ!」
「チ◯コ以外に腕も切り落とされたいのかな?」
ずっと忘れていたが、この人たちって悪役になる騎士団の一員だったね。
そりゃー、言葉遣いも荒々しくなっちゃうか。
今すぐにでも斬り掛かりそうな二人を僕はとりあえず止めることにした。
「二人とも……暴れたらご飯抜きですよ!」
その声に二人はピタッと止まった。
なぜか悲しそうな顔で僕を見つめてくる。
まるで待てをされた犬のようだ。
まずは話し合いをするのが大事だからね。
「どうやら僕を専業主夫にしたかったようですが、お断り――」
「はぁん!?」
「専業主夫だって? ソウタは私の嫁になることが決まってるんですよ?」
その場で止まっているものの、ゼノさんの瞳がどこか揺らいでいるような気がした。
青翼騎士団を人間として認識していないようだ。
なぜか今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気になっていた。
「あのー、とりあえず落ち着き――」
「翼が折れた騎士団のくせに何様だ!」
「そもそも自称騎士団の平民が貴族街に近寄るとバカがうつるぜ」
青翼騎士団の部下二人が煽ったことで、ジンさんとゼノさんは見たこともない怖い顔をしていた。
眉は釣り上がり、見開いた目は獣のような異常な鋭さを帯びている。
「はぁー」
そんな騎士たちに僕はため息をつくしかなかった。
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