36.団長、黒翼騎士団立ち上がる ※初めレオ視点
「どうしよう……ソウタが……」
俺は母さんに押さえつけられ、大事な友達が連れ去られるところを見ることしかできなかった。
店の中は汚れ、あるのは床に落ちたパンとスープだけ。
毎日必死に作ったものが、〝貴族の騎士〟という理不尽な存在に汚されていく。
「「レオにい……ソウにいが……」」
隠れていたノアとノエルが急いで駆け寄ってきた。
二人ともケガはなく、どうやら無事だったようだ。
「母さん、俺エルドラン団長のところに行ってくる!」
俺は店を後にして黒翼騎士団の騎士を探しに行くことにした。
エルドラン団長の顔は怖いが、不器用なだけで心優しい人だ。
ソウタを俺のところに連れてきたのも、エルドラン団長の優しさだと思っている。
今、この状況を変えられるのは黒翼騎士団ぐらいだろう。
だって、ソウタを連れて行ったやつらは俺らから嫌われている青翼騎士団だからね。
そもそも騎士団の印象を悪くしたのはあいつらが原因だろう。
あんな横暴な姿を見せられたら、誰も関わりたくないのは皆同じだ。
街の中を歩くと、話は俺の店の出来事で溢れ返っていた。
「レオくん、無事だったのね!」
「おばさん! ソウタが誘拐された!」
俺の声にさらに街の中はざわめき出す。
「ソウタは大丈夫かしら?」
「でもあの子も黒翼騎士団の一員なのよね?」
「私たちじゃ、どうすることもできないわ……」
みんなから心配する声が聞こえてくるが、相手が貴族の騎士だと何もできない。
そもそも貴族の騎士は、本人も貴族なのが問題だ。
貴族に俺たち平民が刃向かったら、最悪殺されてしまう。
だから、母さんも俺が飛び出さないように、声を潜めて抑えつけることしかできなかった。
「黒翼騎士団の人を見ていないですか!」
「せめて黒翼騎士団員を探しましょう!」
おばさんも一緒になって声を上げる。
次第に街の人たちが黒翼騎士団を探すが、返事が返ってくることはない。
「黒翼騎士団の見回りがいないわね……」
「普段ならどこかにいるはずだけど、最近は見てないぞ?」
「どこに行ってるのかしら……」
普段なら黒翼騎士団が街の警備や見回りをしている。
それなのに今日に限って、黒翼騎士団員を誰一人見ていなかった。
「黒翼騎士団の家に行ってみる!」
「それはやめた方がいいわ」
俺はすぐにおばさんに止められた。
黒翼騎士団の庁舎は、一般人が近づいていいところではない。
それが平民たちの認識だ。
だが、このままだとソウタが何をされるかわからない。
きっと今の黒翼騎士団員なら問題ないだろう。
それにソウタは黒翼騎士団の仲間だからな。
「どっかで団員をみたら、声をかけてください」
「えぇ……」
おばさんの反応からして、まだ黒翼騎士団員に声をかけるのは苦手なようだ。
俺は無心で黒翼騎士団の庁舎に走った。
♢
魔物の討伐を終えた俺たちはソウタが待つ庁舎に帰っていく。
今日のお弁当も相変わらず美味しく、力がみなぎってたくさんの魔物を討伐できた。
ソウタが来てからは、団員全体のやる気も上がり、昔の黒翼騎士団とはまるで別物だ。
「エルドラン団長、今日は何が食べたいですか?」
「あー、俺はトンカツが食べたいな」
隣で副団長のエリオットが話しかけてくる。
彼も何がきっかけになったのかはわからないが、以前より距離が近くなった。
少し前まではツンケンしており、何を考えているかわからなかったからな。
きっと今は――。
「また揚げ物ですかって顔をしているな」
「昨日もエルドラン団長のわがままでゆーりん……ちーでしたっけ? 鳥の唐揚げ似のやつが出てきたじゃないですか」
「俺が団長だから仕方ない」
ソウタは毎朝早起きした人に夕食のメニューを聞く癖がある。
だから、俺は酒もやめて毎日早起きするようになった。
他の騎士団員も似たようなものだが、俺が起きた後はみんなの部屋の前に荷物をひっそりと置いたりして邪魔をしている。
前に雑巾がけ勝負で邪魔したのを覚えているからな。
「なんか町の方が騒がしいですね?」
ジンが町の異変を感じたようだ。
そういえば、ソウタが来てからは街にも変化があったな。
みんな俺たちを怖がらなくなったし、声をかけられることが増えた。
この間は見回りのお礼に野菜をもらった。
さすがにソウタに怒られると思って返したけどな。
どれも全部ソウタのおかげだ。
あいつは誰かまわず話しかけるし、その辺のおばさんと長いこと立ち話するくらい仲が良い。
この間、夫に家事を手伝わせるにはどうしたら良いかと、ソウタに聞いているおばさんもいた。
俺らはそんなソウタを眺めていることが多い。
俺たちはそのまま庁舎の前に向かうと、入り口に小さく丸まって座っているやつがいた。
「黒翼騎士団に何か用か?」
声に反応して、ビクッとする。
俺は周囲を見渡して、ソウタがいないか確認する。
こんなところをソウタに見られていたら、今頃怒られていただろう。
顔が怖いから荒っぽい言葉は使わないようにって言われているからな。
「団長!」
立ち上がって近づいてきたのは、宿屋のレオだった。
ソウタがいるはずなのに、庁舎の入り口に座り込んで何をしていたのだろうか。
「ソウタが……ソウタが大変なんだ!」
普段は明るいレオのこんな姿は見たことない。
「ソウタがどうしたんだ?」
ソウタに何かあったのだろうか?
普段ならいつものように調理場で俺たちの帰りを待っている時間帯のはずだ。
「騎士団に誘拐された!」
その言葉に俺は……いや、俺たち黒翼騎士団の時間が止まった。
「それはどこの騎士団だ?」
「ヒィ!?」
俺の声が低く沈むと、レオはその場で怯えたように震える。
あれだけソウタにビビらせないようにと言われていたのに、俺は約束を破ってしまった。
でも、今はそれどころではない。
レオは涙を滲ませながら答えた。
「青色の服を着た騎士たちだ」
一瞬、空気が張り詰めた。
次の瞬間、いつもは無表情なエリオットが大声で笑い始めた。
「ははは、兄さんは何をやらかしてくれたんだ!」
感情を表に出さないエリオットの笑いに、俺は冷静になる。
エリオットの兄は青色騎士団の副団長を務めている。
そして、エリオットがこの黒翼騎士団にいるのは、その兄に手柄を横取りされたからだ。
それと同時に全く覚えのないミスを兄になすりつけられて、黒翼騎士団にやってきた。
その当時は爵位の発展のためと言われ、無理に納得していたが、今は違う。
「次は許さない」
「俺も一緒に行くっす!」
「ははは! 今すぐにそんな奴らは皆殺しにするから待っててね……」
エリオットが剣の柄を手にかけると、ジン、ゼノとともに走り出した。
ゼノに関しては、今すぐに止めないと危ない気がする。
ソウタが来てから、ゼノはおかしくなった。
まるで自分の大事な番を奪われた狼のようだ。
それに怒りと決意が、騎士団全員の瞳に宿っている。
「ソウタを奪われたままで、黙っていられるか!」
「行くぞ黒翼騎士団! どんな手を使ってでもあいつを取り戻すぞ!」
三人を追うように他の団員も足を動かす。
「知らせてくれて助かった。もう大丈夫だ」
俺はレオの頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。
俺たちを怒らせたら、どうなるのかを思い知らせてやろう。
折れた黒い翼は仲間を助けるために再び空へ舞い上がる。
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