34.兄ちゃん、生活が変化しました
この世界で意識を取り戻してから、二週間ほどが経ち、僕の生活もだいぶ変わった。
「お弁当は持っていますか? ちゃんと食べる前は手を洗うんですよ?」
僕は今日も玄関で騎士たちを送り出す。
最近は魔物討伐が増えた影響で、騎士全員が魔物討伐に行くようになっている。
ゼノさんの精神が不安定になるのかと思ったが、特に変わりはなかった。
たぶん人から嫌われることを過度に怖がっているのかもしれない。
「もちろん洗うに決まってるっす!」
「ソウタの弁当は俺たちにとったら大事だからな」
相変わらず今日もジンさんとエルドラン団長は元気だ。
お弁当を持たせるようになってから、魔物討伐が前よりもしやすくなったと騎士たちから聞いている。
しっかり食べるようになって、動きやすくなったのだろう。
ただ、彼らの体もどこか前よりはふっくら……いや、がっしりしている。
「変な人について行ったらダメだからね?」
「もう、ゼノさんじゃないんだから……」
「私はソウタがいたらそれでいい」
いつも僕にベッタリしているのはゼノさんの方だ。
「寄り道はしないように帰ってくるんだよ?」
「レオのお店に行くくらいだから大丈夫ですよ!」
エリオットさんは心配そうに僕の顔を覗く。
最近はエリオットさんまで、僕を心配してくれることが増えた。
「もう、早く仕事に行ってください!」
ゼノさんとの別れの挨拶は特に長く、ジンさんが引っ張るまでは離れようとしない。
ここ最近、騎士たち全員が僕に過保護になっている気がする。
それだけ僕の料理が食べられなくなることが嫌なんだろうね。
街の飲食店にもいくつか行ってみたけど、どことなく味気無かったり、素材の味を楽しむお店が多かった。
日本では毎日違うものを食べる人が多いけど、海外では同じものばかり食べる人もいるもんね。
そのバリエーションの多さに、騎士たちは魅了されているのもあるだろう。
「気をつけてねー!」
僕は騎士たちが見えなくなるまで見送ると、すぐにレオのお店に向かう。
「おはよう!」
「「ソウにい!」」
僕が店の玄関を開けると、すぐにノアとノエルが駆け寄って来た。
相変わらず僕にベッタリして来て、可愛い弟妹だと思っている。
「ちゃんと掃除をしたかな?」
「「ピカピカになったよ!」」
そっと二人の頭を撫でると、二人とも顔を僕にスリスリとしてくる。
体の大きさがそこまで変わらない二人にスリスリされると、僕は押しつぶされそうになってしまう。
「おべんとーは?」
僕は掃除のご褒美に持ってきたお弁当を二人に渡す。
木筒で作ったお弁当箱の蓋を開けた二人は目を輝かせていた。
「わぁー、ピカピカしてるよ!」
「お星様がいる!」
鶏手羽の甘辛煮に入っているにんじんが気になっているのだろう。
にんじんを星型に切って、アクセントとして一緒に煮てみたが、どうやら二人は気に入ったようだ。
「ソウタは本当に何でもできるな」
遅れて出迎えてくれたレオはムスッとしていた。
弟妹が俺にベッタリとして怒っているようだ。
「俺のは……」
「もちろんあるよ!」
「うっし!」
レオはその場でガッツポーズをして喜んでいた。
ただ単に自分の分がないのかと思ってムスッとしていただけのようだ。
レオの分も渡すと、三人は嬉しそうに調理場に戻っていく。
三人を見ていると、本当に弟妹のような感じがする。
実際は僕の方が見た目は幼く見えるんだけどね……。
僕も調理場に向かい、早速準備を始めていく。
「パンの準備は終わっているかな?」
ボウルの中にある白い塊を指でグーッと押す。
「一次発酵はさせたから、後は作るだけになってるぞ?」
「もう立派なパン職人だね!」
パンを作っているのはレオの担当だ。
あれから発酵時間を調整して作れるようになった。
それを可能にしたのが天然酵母だ。
毎日瓶に入った果実と水を振って、ようやく完成した。
天然酵母は前日の生地を使ったパート・フェルメンテより発酵するのに時間がかかる。
朝から生地を仕込んで、僕が来る頃にはちょうど良い発酵具合になっていた。
「そっ……そんなに褒めてもパンと木炭しかあげるものはないからな!」
レオは照れた様子でどこかに行ってしまった。
この間、無意識に頭を撫でて褒めたら、その日は使い物にならないぐらいニヤニヤしていた。
一人で頑張っていたレオには嬉しかったのだろう。
「またレオにいはサボりだね」
「もう、ソウにいをみならってほしいね!」
そんなレオに対して、ノアとノエルは怒っていた。
初めて会った頃より、二人とも成長して今では自分の意見を言うことも増えた。
それに掃除だけしていた二人が、今ではパン作りの手伝いをしている。
「じゃあ、パンを丸めて焼いていこうか!」
たくさんあるパン生地を丸めて、二次発酵させて焼けば完成だ。
お昼の営業までもう少しだから、その間にも違う準備をしていかないといけない。
「今日のスープは何がいいかな?」
メニューは基本的には同じものを提供している。
パンと一緒にサラダ、そして日替わりのスープだ。
前はレオがスープも作っていたが、今は忙しくてパンだけで手が回らない。
「じゃがいも!」
「にんじん!」
子どもは野菜嫌いだと思ったが、ノアとノエルは野菜スープが好きなんだろう。
だけど、じゃがいもやにんじんも細かくして、濾したりすると結構大変だったからな……。
「よし、今日はかぼちゃのスープにしようか!」
「「かぼちゃ?」」
「甘くて食べやすいから美味しいよ」
かぼちゃなら漉さなくても問題ないし、なめらかで口当たりも良くて、子どもたちも好きだろう。
僕はさっそくかぼちゃのスープを作ることにした。
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