32.兄ちゃん、ここは任せろ!
「まさか孤児院がそんな場所だったとは思いもしなかった……」
僕ができることを考えながら、路地裏からレオたちがいる店に向かうと、店の前にはわずかに列ができていた。
「おっ、小僧! 元気か!」
「あっ、おはようございます! 今日も元気ですよ!」
僕はすぐに切り替えて微笑む。
声をかけてくれたのは肉屋の店主だった。
「あれ? お店はいいんですか?」
「今日は妻が店番をしてくれている。昨日小僧に言われた通りにパンを買いに来たんだ」
どうやらこの列はパンを買いに来た人たちらしい。
昨日の宣伝効果から口コミもわずかに広まったようだ。
「レオ、お客さんが――」
「おおおおお! ソウタおせーぞおおおお!」
店の中に入ると、すぐにレオが駆け寄ってきた。
その表情はどこか焦っているような気がした。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「いや、外に客がいるのにパンが思ったようにできないんだ!」
「へっ!?」
僕は急いで調理場に入ると、生地が大きく膨らんでいた。
「朝から作ったやつは膨らまなかったのに、今度はすぐに膨らんだんだ!」
「あー、結構早起きして作ったのかな?」
「あぁ……」
どうやら朝の冷え込みで昨日よりも気温が低く、最初の生地はうまく一次発酵できなかったらしい。
その後作り直した頃には店内も暖まり、今度は逆に発酵が進みすぎていたようだ。
「昨日と作る時間も違うし、気温も変わるからね」
「ソウタ、どうしよう……。せっかくお客さんが来てくれたのに……」
レオは目に涙を溜めてウルウルとしていた。
頑張ったのに報われないって悲しいもんね。
「ここはお兄ちゃんに任せなさい!」
「へっ……? お兄ちゃん……?」
レオはどこか困惑した顔で僕を見ていた。
つい前世の癖が出ちゃった。
確かにレオから見たら僕の方が年下だもんね。
「「ソウにい!」」
「そうそう! ノアとノエルがそうやって呼ぶからね!」
すぐに言い訳をすると、レオはクスクスと笑っていた。
「じゃあ、今日もソウにいに助けてもらおうかな!」
「任せなさい!」
僕はすでに過発酵している生地を軽く指で押す。
生地が柔らかく、少しベタつく。
だけど、刺激臭はなく、どことなく酸っぱい匂いがするような程度だ。
「フラットブレッドならできるかな……」
僕は生地を手に取ると、調理台の上に投げつけた。
「おっ……おい! ソウタが壊れちまったぞ!?」
急にそんなことをしたら、おかしくなったと思うだろう。
ただ、フラットブレッドにするなら、空気は邪魔でしかない。
「レオ、手伝って!」
「おっ……おう……」
レオは恐る恐る生地を持って調理台に叩きつけた。
「弱い! もっと鬱憤を込めて!」
「鬱憤!? この……勝手に大きくなりやがって!」
「もっと!」
「朝早くから起きたのが無駄になったじゃないか!」
何度もレオは調理台に生地を叩きつけた。
次第にガスが抜けると、小さく切って少しだけ休ませる。
「これでパンができるのか?」
「うん! また昨日とは別のやつだけど、きっと美味しいよ!」
休ませた生地を指で薄く平たくなるように伸ばしていく。
全くロールパンと作り方が違うため、レオも困惑しているが見よう見まねで手伝ってくれた。
「よし、すぐに焼くよ!」
窯の準備ができたら、すぐに焼いていく。
ロールパンと違って火力はやや強めで、部分的にプクッと膨らめば完成だ。
「これはパンなのか……?」
「フラットブレッドだから、見た目は違うけど美味しいよ!」
僕は手で千切って、レオの口に入れる。
一口味見してみたが、表面は香ばしく焼けており、中はモチッと少し詰まっていた。
ほんのりと酸味が鼻を抜けるような感じがするが、これがフラットブレッドの特徴だ。
「美味い……ソウタすごいな!」
「だから、お兄ちゃんに任せないって言ったでしょ!」
僕は少し嬉しくなって胸を張った。
失敗しないかドキドキしたが、ちゃんとできて一安心だ。
「ノア、ノエル! お客さんを入れてもらっていいかな?」
「「はーい!」」
僕の言葉に従ってノアとノエルは入り口の扉を開けにいく。
「いらっしゃいませ! 中で食べて行きますか? それともお持ち帰りしますか?」
「おっ、中で食べてもいいのか?」
「大丈夫……だよね?」
すぐにレオの方を見ると、小さくうなずいていた。
「じゃがいものポタージュだけど大丈夫か?」
「ちょうど良いね!」
どうやらじゃがいものポタージュはうまくできているようだ。
すぐに準備をして、お客さんの元へ持っていく。
「これが聞いた美味しいパンってやつか?」
「あっ……昨日のやつとは違う種類のパンになりますね」
お客さんは少し心配そうにフラットブレッドを一口食べる。
「なっ……なんだこれは!?」
「じゃがいものポタージュに浸しても食べやすいのでオススメです」
食べ方を説明すると、お客さんは美味しそうにパンを頬張っていた。
どうやらフラットブレッドも気に入ってもらえたようだ。
「小僧、これはどうやって食べるのがおすすめなんだ?」
肉屋の店主がフラットブレッドを手に取り、興味深そうに眺めていた。
昨日はロールパンだったから、形が全く違うもんね。
「あっ、それならお肉屋らしく脂があるお肉を挟んで食べるといいですよ」
「おっ、そうか! それならいくつか買っていくか。また他の客にも伝えておくからな!」
「ありがとうございます!」
どうやらお肉を買いに来た人に宣伝してくれるようだ。
こうやって街の人たちで支え合っているんだろうね。
今日はお弁当に簡単なロールパンのサンドイッチにしたけど、明日はフラットブレッドにお肉を包んだ物の方が騎士たちも喜びそうだな。
「ソウタ、嬉しそうな顔をしてどうしたんだ?」
「ふふふ、ちょっと考えごとをしていてね」
気づいたら自然と弟みたいな騎士たちのことを考えている僕がいた。
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