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【長編】転生したら悪役にされがちな騎士団の“おかん”になってました~この騎士たち、どこか弟に似てて放っておけない~  作者: k-ing☆書籍発売中


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3.兄ちゃん、お世話係になる

 早速、調理場にある保管庫の中を開ける。


「んー、何もないね……」

「そりゃー、俺たちは誰も調理場を使ってないからな?」


 道具だけは揃っているが、使った痕跡のない調理場に材料がなければ、もちろん調味料もない。


「あるのはエルドラン団長のワインとおつまみのチーズ」

「おい、ジンはどこからそれを持ってきたんだ……?」

「もちろん団長の部屋から」


 ジンさんはエルドラン団長の部屋から勝手にワインとチーズを持ってきた。


「それは俺が大事にしてるやつじゃないか!」

「大丈夫です! すでに味見しました」

「そういう問題じゃないだろ!」


 またハスキーと柴犬が戯れている。

 エルドラン団長とジンさんは相変わらずバタバタとしていた。


「本当にうるさいやつらだ……。他にも干し肉と硬いパンならありますよ」


 呆れた顔をしたゼノさんが干し肉と硬いパンを持ってきてくれた。

 外に仕事に行く時に常に持って行くものらしい。

 保存食として使っているのだろう。


「しっかりしたものを作ろうと思ったけど、簡単なスープしか作れない――」

「おいおい、これだけでスープが作れるはずないだろ」

「ビッグスライムにやられた影響があるんじゃないのか?」

「すぐに診療所に行った方が良さそうですね」


 なぜか急に三人はあたふたとしているが、僕は至っておかしくない。

 調味料がなくても、スープぐらいはこれぐらいの材料があれば作ることができる。


「ほらほら、三人はあっちで待っててください! 静かに待たないとご飯抜きにしますからね!」

「「「えっ……」」」


 僕は小さな体で三人を調理場から押し出す。

 このまま近くにいたら邪魔……あぶないもんね!


「はぁー」


 本当に弟妹たちを相手しているような気分だ。

 いつもご飯を待ちきれず、僕の周りをうろちょろしてたからね。


「まずは干し肉とパンを切るか」


 僕は包丁を取り出して、干し肉とパンを小さめに切っていく。


「ソウタのやつ大丈夫か?」

「剣も持てないのに腕を切り落とすんじゃ……」

「あっ、こっちに来ますよ!」


 小声で僕のことを話しているのが聞こえてくる。

 気になりチラッと見た時には、何事もなかったかのようにいなくなっていた。

 さっきまで覗いていたはずなのに、しっかり椅子に座って待っていた。

 静かに待ってないとご飯を抜きにすると言ったのが効いたようだ。


「結構塩が効いてるね……」


 切った干し肉を舐めてみたが、塩味がしっかり効いていた。

 ただ、僕の歯では噛み切るのは難しそうだ。


「火はどこで……うわっ!?」


 コンロに手をかざした瞬間、赤い石が光り、突然炎が噴き出した。

 やはりゲームの世界というべきだろうか。


「大丈夫か!」

「ケガはしていないか?」

「診療所にいく?」


 どうやら大きな声を出したから、びっくりさせてしまったようだ。

 調理場に三人とも押し寄せてきた。

 ただ、僕が振り返るとすぐに急いで席に戻って行った。

 ご飯が抜きになると思ったのだろうか……。


「本当にあの人たちって悪役になる騎士なのかな……?」


 まだ数時間しか一緒にいないが、面倒見の良い大きな男たちにしか見えない。

 今も僕にバレないようにチラチラと厨房を覗いているからね。

 あんなに大きな体だと、何をしてもバレることに気づかないのかな?


 僕は再び調理を始めた。

 フライパンに小さく切ったパンを半分と干し肉を入れて炒めていく。


「水とワインは同じぐらいでいいかな?」


 これまたゲームの世界らしく、蛇口も青色の石に触れると水が出てきた。

 今度は驚いて声が出ないように、口を手で覆ったから問題ない。


 炒めたパンと干し肉に水とワインを入れて煮込んでいる間に、残り半分のパンをフライパンでカリッとするまで焼いていく。

 はじめに入れたパンは、ポタージュのようにトロミをつけるためだ。

 今焼いているのはトッピングに入れるクルトンにするつもりでいる。


「しっかりワインは熱しないとアルコールが残っていたら……あっ、食べるのはあいつらじゃないか」


 いつものように調理していたけど、作っていたのは助けてくれた騎士たちのためだった。

 ほどよく煮込んだら、チーズをフライパンで溶かしてほぼ完成だ。


 僕はスープをお皿に注ぎ、クルトンをいくつか入れる。


「あとはとろーりチーズをかけて――」

「すげーうまそうだな」

「本当にソウタが作ったのか?」

「今まで女性に作ってもらった手料理の中で一番美味しそうですね……」

「うわっ!?」


 突然声が聞こえたと思ったら、三人とも僕の後ろから覗き込むように見ていた。

 作ることに集中して、後ろにいることに気づかなかった。


 チラッと目が合うと、バツが悪そうな顔をしていた。

 そういえば、待たずに調理場まで来ているからね。


「いや……うまそうな匂いがして……」

「お腹と背中がくっつきそうだぞ……」

「「「すみません」」」


 三人はすぐに謝ってきた。

 邪魔になると思い向こうで待ってもらうことにしたが、せっかくだから手伝ってもらおう。


「熱々のうちに食べましょう。運んでください!」


 僕がニコリと笑うと、三人とも嬉しそうにスープを運んでいく。


「はやくいくぞ!」

「ふぇ!?」


 急に僕の体はふわりと浮いた。

 スープを運ぶだけでいいのに、エルドラン団長は僕を脇に抱えて歩き出した。

 よほどお腹が空いていたのだろう。


 テーブルに着くと、三人とも今にも食べたそうにスープを眺めていた。

 本当に騎士で合っているのかと思うほど、子ども……いや、待てをされている犬にしか見えない。


「食べないんですか……?」

「いや、こういうのは家長か作った人から食べる作法があるからな」


 エルドラン団長がまだ食べていないところを見ると、僕が食べるのを待っているようだ。


「それなら……いただきます!」


 僕が手を合わせて挨拶をすると、三人とも不思議そうな顔をしていた。


「えーっと、僕の家では作ってくれた人や食べ物にお礼を言う挨拶ようなもので――」

「「「いただきます!」」」


 説明が終わる前に三人とも手を合わせて、挨拶をしていた。

 それでも僕が食べるのを待ってソワソワとしている。


「挨拶をしたら、お好きなタイミングで食べても大丈夫ですよ? せっかくのチーズも固まって――」


 僕の言葉を聞き終える前に、三人はすぐにスプーンでスープを掬い口に入れた。


「ななな、なんだこれは!?」

「うんっま! 初めてスープが美味しく感じた」

「ああ、これなら毒が入っていてもいいな……」


 三人とも喜んでくれているようだが、ゼノさんの言葉が気になってしまう。


「まるで本当に毒を食べたような……」

「ゼノは酒場の娘に本当に毒を入れられたことがあったからな!」

「おい、勝手なこと言うなよ! あれは宿屋だ!」


 僕が聞く前にジンさんが教えてくれた。

 あまり深くは聞かない方が良いと思ったが、毒を入れられたのは事実のようだ。

 どういう反応をすればいいのか僕はわからなくなり、すぐに話を変えることにした。


「そういえば、お礼を伝えてなかったですね。助けていただきありがとうございます」


 お礼を伝えると、三人とも一瞬だけ手を止めて頷いていた。

 口にスープをいっぱい頬張っているから話せないのだろう。


「少しの間でしたが、お世話になりました」


 これだけ恩返しすれば、助けてもらったお礼にはなるだろう。

 汚かった部屋も今は綺麗だからね。

 これからどうやって生活するか、ちゃんと考えないといけない。

 住み込みで働ける場所があればいいんだけどね……。


――ガタン!


 三人は勢いよく立ち上がると、口を急いでモグモグと動かして僕に近寄ってきた。

 三人とも片膝立ちになり、僕の手をそっと握る。


「ソウタ、もうお前は立派な騎士だ!」

「そうだ! これからは一緒に住めばいい」

「できれば毎日、無理にとは言わないが私のために料理を作ってくれないか?」


 三人に手を握られているが、これはどういう状況だろうか。

 騎士がお礼を伝える動きなのかな?

 まずは言われたことを整理してみようか。


「えーっと、僕は騎士で……一緒に住むことが決まって……ゼノさんの奥さんですか?」

「ええ、私の奥さんでも――」

「「それはさせねーぞ!」」


 エルドラン団長とジンさんがゼノさんの手を引き剥がす。

 本当に騎士たちは仲が良いんだね。

 元の世界に帰れないなら、住むところもない僕にとっては思いがけないチャンスだろう。


「さすがに剣は握れないから騎士はやめておきます」


 僕の言葉に三人とも絶望的な顔をしていた。

 まさかそんな顔をされるとは思いもしなかった。


「その代わり僕はみなさんのご飯を作りますね!」


 一瞬にして三人は嬉しそうな顔になった。

 気持ちがすぐに顔に出てしまう素直な人たちなんだろう。

 僕はこのまま黒翼騎士団にお世話になる……いや、お世話をすることになりそうだ。

 それにしても、どこか大きな弟ができた気分がするのは気のせいなのかな?

お読み頂き、ありがとうございます。

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よろしくお願いします(*´꒳`*)

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