27.兄ちゃん、魔法の仕組みを知る
「やっぱり濡れている……」
お風呂場から調理場まで床がベチャベチャに濡れていた。
「ソウタ、美味しいパンはできたのか?」
エルドラン団長が着替えて部屋から出てくるが、まだ髪の毛は濡れていた。
「エルドラン団長、ちゃんと髪の毛は乾かしてください!」
「そんなの自然と乾くぞ?」
「風邪を引いたらどうするんですか!」
僕は椅子に座り、地面をトントンと叩く。
「ここに座ってください」
「おっ……おう」
エルドラン団長は戸惑いながら、椅子の前に座る。
僕は布でエルドラン団長の髪をガシガシと勢いよく拭いていく。
「うぉおおおおお! これは気持ち良いな!」
あまりの気持ち良さにエルドラン団長は僕に体を預けようとする。
「エルドラン団長……重いです……」
「あぁ、すまない」
僕が椅子に座ってもエルドラン団長の方がわずかに大きい。
そんなエルドラン団長がもたれてきたら椅子ごと倒れてしまう。
「エルドラン団長って思ったよりも柔らかい癖毛なんですね」
「そうか……?」
普段は髪の毛をきっちり固めているから、濡れて下りている髪型は新鮮だった。
どことなく髪の毛がクルッとなっているから、ゆるふわなパーマがかかっているようだ。
ずっと頭を洗ってなかったのかな……って頭をよぎったが考えない方がよいのだろう。
日本人は毎日お風呂に入るのが常識だったけど、海外の人はそうではないって聞いたこともあるしね。
「よし、これぐらいでいいですね」
「おっ、ありがとな」
エルドラン団長は嬉しそうに立ち上がると、今度はジンさんが僕の前に座った。
「えーっと……」
「俺もよろしくすっ!」
どうやらジンさんも髪の毛を拭いてほしいらしい。
エルドラン団長とは異なり、どこか固めの直毛でツンツンしている。
水も弾きやすいのか、エルドラン団長よりもすぐに乾いた。
「ははは、ソウタが乾かしてくれるならお風呂もいいっすね!」
そう言って、ジンさんも立ち上がり調理場に向かっていく。
「あっ、お二人ともちゃんと床は拭いてくださいね?」
「「うっ……」」
掃除が嫌いだからか、二人はそのまま立ち去ろうとしていたのだろう。
他の騎士たちもせっかくだから髪の毛を拭いてもらおうと待機していたが、僕の言葉に逃げようとしていた。
「せっかくなら雑巾掛け勝負をするのはどうですか?」
「なんだそれ?」
やっぱり掃除をする習慣がなければ知らないのだろう。
僕はレオたちにやったように簡単に説明をする。
これなら弟妹みたいな騎士たちなら興味が湧くはずだ。
「ってことで、ここからお風呂場まで行って帰ってきた人が優勝です!」
まずは数人の騎士を横並びにさせる。
僕のわがままに付き合ってやろうという顔をした騎士がチラホラといるが気にしない。
やはりこれだけだと騎士たちのやる気は出ないよね……。
「あっ、一位の人には明日のお弁当のメニューを選べるようにしますね」
「うおおおお! やる気が出てきたぜええええ!」
「俺が一番になるんで、エルドラン団長は手加減してくださいね!」
「お前らエルドラン団長には負けるなよー!」
お弁当のメニューを選べるだけで、ここまで盛り上がるとは思いもしなかった。
髪の毛を乾かした騎士から順番にトーナメント戦のように雑巾掛け勝負が始まっていく。
「位置について……よーい、ドン!」
僕の掛け声と共に騎士たちの必死な雑巾掛け勝負が始まった。
弟妹たちやレオたちがやっているときは何も思わなかったけど、いざ騎士たちがやっていると迫力がある。
「ソウタ……私の髪の毛も拭いて」
「ゼノさんは髪の毛が長めだから大変ですね」
他の騎士は髪の毛が短めだからすぐに乾くが、ゼノさんはしっかりと拭かないといけない。
ゼノさんが座ると早速髪の毛を拭き始めた。
「あのー、ゼノさんはなんでこっち向きなんですか?」
「ソウタに抱きつきたいから」
みんなは僕に背を向ける形で座っていたのに、ゼノさんに限っては向かい合っているからさらに拭きにくい。
それに髪の毛も長いからなかなか乾かない。
反対向きにしようとしたが、心地よさそうな顔で僕の太ももに顔を置いているから言いづらいし……。
「ソウタ、掛け声いいか?」
「あっ……位置について……よーい、ドン!」
気がついたら一回目の雑巾掛け勝負が終わったようだ。
僕の声で再び騎士たちは雑巾掛けをしていた。
ちなみにさっきはエルドラン団長をみんなで邪魔して、ジンさんが勝ったらしい。
「そういえば、ゼノさんの風魔法ってどんな感じですか?」
「へへへ、ソウタちゃんと見ていてよ!」
そう言って、嬉しそうにゼノさんは顔を上げた。
「あっ、できれば弱めの風でお願いします!」
「弱め……?」
「部屋の中が汚れると大変なので」
「私の魔法は不便だよね……」
ゼノさんはショボーンとしていたが、僕の周囲に風がフワッと舞い上がる。
体を浮かせることもできるって言うくらいだから、強さを調整できるのだろう。
「この風って温かくできますか?」
「温かく……?」
ゼノさんは首を傾げていた。
僕がゼノさんの風魔法を見たかったのには理由がある。
それはドライヤーが欲しかったからだ。
ゼノさんの髪の毛が乾かないから、エリオットさんみたいに風魔法が使えないかと思った。
「たぶん難しいかな……」
「私もお湯を出してと言われてもできないかもしれないです」
ちゃっかり雑巾掛け勝負に参加していたエリオットさんも話に入ってきた。
やはり魔法はそこまで万能ではないようだ。
「僕のイメージだと魔法って想像すれば自由に変わるものだと思ってました」
よくあるお話だと魔法って何でもできる便利なものというイメージがあった。
だから、少なからず温度を変えるぐらいできるかと……。
「あっ……できました」
「へっ……?」
エリオットさんのほうに視線を向けると、隣でグツグツと沸騰している水が浮かんでいた。
「エリオットさん、どうやったんですか?」
「いや、想像すればって言われたので、鍋にある水をコンロで温めるのを想像したらできました」
「魔法の常識が変わるじゃないか! さすがソウタだね!」
エリオットさんだけではなく、ゼノさんも驚いていたからよほど珍しいことなんだろう。
「いや、やったのはエリオットさんだけどね……」
「そうだぞ」
だけどこれで風魔法がドライヤーになることがわかった。
「じゃあ、ゼノさんもやってみてください」
「わかった……」
後はゼノさんがどうやって想像するかにかかっている。
僕は温かい風が吹くのをしばらく待った。
「どう?」
「んー、あまり変わらないですね」
ふわりと風が吹いたが、さっきとそこまで変わらなかった。
きっと風を温める仕組みやイメージがわからないと難しいんだろうね。
「私はエリオットさんよりも使えない……。ソウタには必要ない人間です……」
ゼノさんはさらに落ち込んでしまった。
いつもは元気なのに、僕のことになると落ち込みやすいのは何でだろう。
何も手伝えないことに落ち込む弟妹を見ているようだ。
「あっ、ゼノさんこっちにきてください!」
僕はゼノさんの手を引っ張って調理場に向かう。
ちょうど温風を学ぶのに良いものがあった。
「アルノーさん! そろそろパンは焼けそうですか?」
「色がついてきたよ」
それならちょうど良いタイミングだ。
僕はそのまま窯の前にゼノさんを立たせる。
「ソウタから手を繋いでくれた……」
なぜかすでにゼノさんは機嫌が良さそうにニコニコとしている。
「ゼノさん、いきますね!」
「えっ……なにを?」
僕はアルノーさんに頼んで窯の扉を開けてもらった。
その瞬間、中の温かい空気とともに香ばしいパンの匂いが広がっていく。
レオのところは扉がなかったため、風は常に抜けていた。
だけど、扉を開けたことで新しい逃げ道ができて温風が吹いたのだ。
「これなら温風を意識しやすいですよね!」
「あぁ……やってみる」
ゼノさんは小さくうなずくと、小さな声で何かを呟いていた。
「パンパンパンパンパンパン」
明らかに怪しい呪文のようなものを唱えていたけど、それで想像しやすくなるなら気にしない。
しばらくすると、温かい風がふわりと僕を守るように周囲をクルクルと回っているような気がした。
「ゼノさん、成功です!」
僕の言葉にその場で魔法が消えると、ゼノさんは僕に抱きついてきた。
「これでソウタの役に立てる……」
「ふふふ、大げさですよ」
ゼノさんはなぜか全身が震えていた。
そんなにゼノさんが思い詰めていたとは思わなかった。
どうしようかと思ったけど、調理場の外から他の騎士たちは笑ってゼノさんを見ていた。
決して僕が泣かしたわけじゃないからね?
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