26.兄ちゃん、騎士のお風呂事情を知る
「ゼノさん、僕はまだ入らないので……」
「私はいつでも大丈夫だよ?」
「うん、せっかく服を脱いだんなら入ってきてください」
ゼノさんはすぐに服を脱ぎ捨てると、僕も一緒にお風呂場に連れて行こうとする。
「ソウタがいないと入らない」
「はぁー」
僕は大きくため息をつく。
そういえば、弟妹も小さいころは一緒に入らないと駄々をこねていたな。
さすがに今お風呂に入っていたら、パンが過発酵になるかもしれないし、僕はどうしようかと悩んでいたら、エルドラン団長とジンさんと目が合う。
「美味しいパンを作るには今入ってたら――」
「「ほら行くぞ!」」
「ソッ……ソウタアアアア!」
美味しいパンと聞いたら、エルドラン団長とジンさんに引っ張られるようにゼノさんは連れて行かれた。
騎士たちが脱いだ団服は山のようになっていた。
人数が多いと洗濯も大変――。
「うん……やっぱり汗臭い」
僕は一枚団服を手に取り、匂いを嗅いでみた。
動くことが多い騎士なら、当然団服は汗臭くなる。
それにそのまま川に入っていると言ったが、体もしっかり洗えてないし、団服なんて濡らしただけになる。
「やめろおおおお!」
「おい、ゼノ逃げるな!」
お風呂場ではしゃぐ騎士たちは、弟妹よりも相当恐ろしい存在だ。
僕は団服を集めて、裏庭に持っていく。
もう夕方だから洗濯は明日することになるだろう。
調理場に戻った僕はパン作りを再開する。
「一次醗酵は済んでいるから、あとは形を……アルノーさんどうしました?」
視線を感じたと思ったら、アルノーさんが僕の作業を覗いていた。
存在感が薄いから、一瞬幽霊のように見えた。
「何か手伝おうかと思って……」
「あっ、それなら一緒に作ります?」
「うん……」
少しだけ虚ろな目に光が灯ったような気がした。
まるで頼られるのが嬉しそうな子どものようだ。
「そういえば、木筒を持ってきてくれてありがとうございます」
「うん……みんなに取られちゃったけどね……」
「それでもみんなアルノーさんが持ってきたと思っていそうですよ」
騎士たちは誰一人として自分が持ってきたと主張する人はいなかった。
そのほとんどが木筒を持ってきたら、たくさんお弁当を食べられるという食いしん坊のような発言だった。
「あっ、もう少し伸ばしてから丸めないと丸々したロールパンになっちゃいますよ」
「これでいい……?」
「アルノーさん、上手ですね! これからはパン係に任命します!」
正直、一人で料理を作るには人手が足りないし、時間がかかってしまう。
騎士たちが各々自分たちで作れるようになったら、僕の仕事も楽になるからね。
「パン係か……」
それにアルノーさんもどこか満更でもなさそうな顔をしていた。
形を整えたら二次発酵している間に窯の準備だ。
ここの窯は火を使わないから、いまいち使い方がわからない。
「おーい! ソウタ出たぞー!」
「パンは焼けたか!」
さっきお風呂に入ったばかりのエルドラン団長とジンさんが走ってきた。
もう洗って出たのだろうか。
烏の行水よりも早いぞ……。
「おっ、俺でもアルノーの姿が見えるぞ……」
「本当だ……」
調理場にいるアルノーさんを見て、二人とも驚いたような顔をしていた。
確かに嬉しそうに作業をしていたアルノーさんは、朝よりも見やすくなった気がする。
ただ、それよりも僕には気になることがあった。
「二人ともちゃんと拭いてきてから戻ってきてください!」
髪の毛からポタポタと水滴が落ちてきている。
「それに……パンツ!」
エルドラン団長とジンさんは体を拭き切れていない状態で、全裸のまま調理場に来ていた。
さすがに全裸で調理場に来るのは危ないからね。
「そういえば、俺の服がなくなったんだ!」
「ソウタ、知らないっすか?」
何も着ていなかったのは、単に替えの服を用意していなかったからだ。
団服を僕が洗おうと裏庭に持っていったから、これは僕が悪かったね。
「臭かったので明日洗おうと裏庭に持って行きました」
そう伝えると、エルドラン団長とジンさんはお互いに視線を合わせていた。
「ジン、お前臭かったって?」
「それはエルドラン団長じゃないですか?」
どうやらお互いに臭いのは認めたくないようだ。
ちなみに全員の団服を集めている時に、全ての匂いは勝手に鼻を突き抜けていた。
二人の団服はなかなか汗臭かったからね。
唯一良い匂いがしたのはエリオットさんとゼノさんの団服ぐらいだ。
やはり貴族出身の二人は匂いには気をつけているのだろう。
「ソウタ、私の服を知りませんか?」
「ソウタ、私のことが好きだからって服を隠して――」
「もう! みなさんの服は洗濯します!」
次から次へと騎士たちが服がないと騒ぎながらやってきた。
ゼノさんなんて僕が服を持って行ったことに気づいているのに変な勘違いをしている。
それに――。
「まずは拭いてから来てください! ご飯抜きにしますよ!」
全員が濡れた状態で戻って来るから、パンを焼くどころじゃない。
僕がいつものようにそう伝えると、急いで騎士たちは部屋に戻って着替えを取りに行った。
ちゃんと拭いてから着替えを取りに行ったのだろうか……。
そう思いながら、アルノーさんと共にパンを窯に入れていく。
「これで後は焼けるのを待つだけですね」
「ここに……います」
「なら、僕は少し掃除をしてきますね。きっと床が水浸しになっていると思うので……」
アルノーさんは焼き上がるのを嬉しそうに窯の前で待っていた。
オーブンの前で弟妹たちが待っていた姿を思い出す。
「毎日が楽しい思い出だったな……」
過去のことを考えても、もう会えることはないのにね。
それに今はやることがたくさんあるから、クヨクヨしてられない。
まずはお風呂の後でベチャベチャになった床の拭き掃除だね……。
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