24.兄ちゃん、異世界の果物を知る
「ソウター!」
「どこだー!」
商店街に向かって歩いていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやら僕を探しているようだ。
「二人とも歩くのが速いですよ!」
「「あっ……」」
そんな二人に僕は近づくと、そっぽ向いて視線を合わせようとしない。
僕を置いて行ったことは自覚しているようだ。
僕は何も言わず、二人をジーッと見つめる。
「そのー、すまないね」
エリオットさんは申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「もうソウタから離れないからね」
「ゼノさんは離れてください」
一方のゼノさんは僕に抱きついて離れようとしない。
迷子になっただけなのに大袈裟だね。
それなら先に歩かず、置いていかなければいいのに。
「そういえば、パンは食べてきたんですか?」
やはりバスケットの中にパンがないことにエリオットさんは気づいたようだ。
「へへへ、転んで落としちゃいました」
僕は何もなかったかのように笑う。
黒翼騎士団が取り締まれば、彼らがどうなるのかはわからない。
まだ黒翼騎士団の仕事を全て把握したわけではないからね。
あの場所から追い出されたら、彼らはどうやって生活していくのだろうか。
ふとそんなことを思ってしまい、今はただ笑うことしかできなかった。
「ソウタ、痛いところはない? 大事な婚約者を傷つけて……そんな危ない地面は今すぐにでも割ってこようか?」
「割ったらもっと転ぶんじゃないですか……?」
「はっ!?」
ゼノさんは本当に地面を割ってきそうだもんね。
それなら地面を整備して平らにした方が、路上だけどあの子たちも住みやすくなるだろう。
「それに僕はゼノさんの婚約者じゃないですからね?」
やっぱりゼノさんは少し変わり者だね。
「エリオットさんも気にしないでください」
「そうか……」
あまり詳しく聞かれると僕も答えてしまうかもしれない。
そう思った僕は商店街の方へ歩いていく。
「おっ、小僧! 今度は兄ちゃんたちを引っ張ってないんだな!」
声をかけてくれたのは肉屋の店主だ。
朝はゼノさんを引っ張って歩いていたもんね。
今日も必要な分だけお肉を買うために、注文をしていく。
「荷物は私が持つよ」
ゼノさんがサラッと荷物を受け取ると、エリオットさんがお金を払ってくれた。
「えらい朝とは違うな……」
「本当に不思議な人ですよね……」
普段のゼノさんは紳士なのに、たまにおかしなことを言うのはなんでだろう。
働きすぎて疲れてるのかな?
「あっ、よかったらこのパンを食べてくれませんか? 感想が欲しいです」
僕は残ったパンを少しだけちぎって渡す。
「どうしたんだ?」
「向こうにある宿屋の子どもたちと一緒に作ったんです」
「おっ、そうか! きっとハンナさんの子どもたちだな」
レオたちの母親はハンナさんと言うらしい。
一人で宿屋を切り盛りしていたのは、商店街でも有名だと教えてくれた。
「今度は子どもたちが宿屋をやるつもりなのか?」
「今もレオたちがやってますよ?」
「ん? そうなのか? 宿屋は大変だから、てっきり休んでいると思ってたぞ」
肉屋の店主すら宿屋がやっていることを知らなければ、お客さんが来ることはないだろう。
唯一のお客さんは黒翼騎士団だからね。
それなら尚更宣伝しないといけない。
「まずはそのパン食べてみてよ! きっと美味しいよ!」
言われた通りにパンを口に入れた店主の表情は一瞬にして変わった。
「んっ、なんだこれは!?」
「美味しいでしょ! レオがちゃんと作れるようになったら買いにきてね!」
やっぱりパンが柔らかいだけで、こんなに反応が得られるんだね。
他の人にも宣伝してもらうように伝えて、僕は次のお店に向かう。
「果物を買ってもいいですか?」
「果物ですか……?」
「騎士はあまり好きじゃないよ」
昨日フレンチトーストを食べていたエルドラン団長やエリオットさんの反応からして、甘いものが嫌いなわけではない。
なのに果物が嫌いな理由はなんだろうか。
「ひょっとして甘くないんですか?」
「「うん」」
どうやらこの世界の果物は酸っぱいものが多く、甘味は少ないらしい。
「ここが果物店ですね」
「何か欲しいものはあるかい?」
果物店は優しそうなお婆さんが店主をしていた。
パッと見た感じ、ベリー系やレモンのような柑橘系の果物が多い。
果物が酸っぱいって認識になるのは仕方ないだろう。
「この中で甘い果物はありますか?」
「んー、これが一番甘いかしら」
渡されたのはリンゴに似た果物だった。
ただ、日本のよりも赤みが薄く、美味しそうかと言われたら微妙な感じだ。
そもそも日本で売っている果物って、海外のよりも甘味が強いって聞いたことがある。
「料理に使うの?」
「んー、天然酵母を作ろうかと思ってね!」
「てっ……てんねん」
「こお……ぼ?」
二人とも首を傾げていた。
チラッと果物店のお婆さんにも目を向けると、同じような反応をしている。
きっと天然酵母って言葉もないのだろう。
「パンを柔らかくするために必要――」
「「ここにある果物全てください!」」
「ダメダメ! 少しでいいです!」
真面目なエリオットさんすら、壊れたように果物を全て買おうとしていた。
二人とも貴族出身と聞いているから、必要と思ったものにお金を惜しみなく使う人なんだろう。
だけど、さすがにお店にある果物全ては使いきれないからね。
「甘いものをいくつかください」
僕はリンゴ、ベリー系、柑橘系の中で甘い種類を選んでもらい買うことにした。
まずは天然酵母が本当に作れるか確認しないといけないからね。
これで買い物は全て終わり、僕たちは黒翼騎士団の庁舎に戻ることにした。
ちなみに果物店のお婆さんにパンを食べてもらった時は、驚きのあまり曲がっていた腰が真っ直ぐ伸びていた。
高齢の方はパンが硬いから食べるのも久しぶりだったらしい。
柔らかいパンには可能性がたくさん秘められているね。
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