23.兄ちゃん、貧富の差を知る
できたばかりのロールパンとポタージュスープを持って僕たちはテーブルに移動する。
焼きたてのロールパンから立ちのぼる甘い香りが、部屋にも広がっていた。
よほど早く食べたいのか、みんな素早く移動して椅子に座っていた。
野菜にしか興味なさそうなエリオットさんもちゃっかり素早く移動していたくらいだから、よほど匂いに釣られているんだろうね。
「「「いただきます!」」」
出来たてのパンを手に取り、一口だけ食べてみる。
バターがないから甘さは少ないが、小麦の香りが口いっぱいに広がり、素朴なパンらしさを味わえる。
ふかふかな食感で口当たりはいいが、改良する点はたくさんありそうだ。
どちらかと言えば食事に合ったパンってイメージだね。
その反対にじゃがいものポタージュスープは濃厚だけど、しっかりじゃがいもの甘さを感じる。
どちらもまだまだ完璧とは言えないけど、美味しかったから僕としては満足だ。
チラッと視線を上げると、なぜかみんなの手が止まっている。
「美味しくないですか?」
「いや、もう食べ終わった」
「へっ……」
「「おいしかった!」」
レオだけではなく、ノアやノエルもあまりの美味しさに食べ終わっていたようだ。
エリオットさんとゼノさんなんて、なぜか泣いていたからね。
「パンがこんなに美味しいとは思わなかった……」
「私たち貴族出身なのにな……」
貴族出身でも硬いパンしかないのだろう。
それならここのパンが世界を変えちゃうかもしれない。
あとはレオがしっかり作れるように教えるだけだ。
「じゃあ、あとでお母さんにも食べさせてあげてね! パン生地と宣伝のためのパンを少しだけもらっていくね!」
帰ったら今度は外の仕事から帰ってきた騎士たちにパンを食べさせてあげたいからね。
そのためにパン生地を少しだけ分けてもらった。
「そういえば、お弁当はどうしたんですか?」
魔物討伐の騎士以外にも、お弁当は騎士の人数分だけ用意している。
昨日散々エルドラン団長が喚いてたからね。
お店の中でお弁当を食べる様子はなかったけど……。
「もう食べました」
「ソウタみたいに可愛かったです」
二人ともどこかで食べてから、僕を迎えに来たらしい。
僕も自分の分は一応持っているけど、お腹いっぱいだし、食べないならレオたちに渡せばよかったな。
「ひょっとして、レオたちと作ったものを食べるつもりでした?」
「今日もかき揚げがいいですね!」
「さぁ、買い出しにいこう!」
僕の話に答えることなく、二人ともどんどん先を歩いていく。
エルドラン団長やジンさんよりも食い意地が張っていないと思ったが、ダントツに二人が突き抜けていただけで、エリオットさんとゼノさんも食いしん坊だった。
「あっ、ちょっと待ってくださいよ……」
僕も急いで二人を追いかける。
だけど、体力がないんだよね……。
「はぁ……はぁ……」
気づいた頃には僕は置いてかれてしまった。
騎士だから体力が有り余っているのだろう。
僕は一人でトボトボと街の中を歩いていく。
しっかり街の中を見たことがなかったが、建物の隙間に座り込んでいる人は少なくない。
きっとホームレスのような人たちなんだろう。
単に僕が黒翼騎士団に保護されただけで、あの時助けてもらえなければ僕もあの中にいただろう。
「兄ちゃん、お腹空いたよ……」
「我慢しろ! 食べるものがないんだ」
「うっ……うえええええん!」
「うるさい! 泣きたいのは俺も同じだ!」
レオたちはまだ住むところもあるが、お母さんが亡くなってしまえば、数年後はあの子たちみたいになってしまうのだろう。
二人とも弟妹たちと同じくらいの年頃だ。
胸が張り裂けそうに痛くなる。
そう思ったら、自然と僕の足は動いていた。
「パンでよければ食べる……?」
僕はレオからもらったパンを泣いている小さな少年の前に差し出す。
宣伝用にもらったパンだけど、きっと大人よりもお腹を空かせた子どもが食べた方が良いだろう。
「えっ……いいの?」
少年は手を出そうとするが、その手を隣にいた兄が振り払った。
「やめろ! そうやって騙して、みんな奴隷にするんだ!」
「奴隷……ですか?」
僕の方を見て睨みつけるように僕を見ていた。
奴隷って歴史の授業で聞いたことのある奴隷のことだよね?
この世界にも奴隷制度があるのだろうか。
「お前みたいな優しい顔したやつが一番危ないからな! 子どもを使って飯を配って、金が払ないとわかれば……」
「お金がないから奴隷にされるってこと……?」
「そうだ! 死ぬまで奴隷なんて俺は嫌だ!」
きっと以前にも同じようなことがあったのだろう。
みんなを奴隷にするってことは、お友達も奴隷にされたのかもしれない。
あまりにも生きていた世界が違いすぎて、僕ではどうしようもできないようだ。
何もできない自分に自然と涙が溢れて出てくる。
「ごめんね……でも、今は食べてくれると嬉しいな。ここに置いておくからさ」
僕は真っ黒なハンカチを取り出した。
騎士団の庁舎にあったから借りてきたものだ。
そっとその上にパンを置いていく。
さすがにパンを入れたバスケットはレオに返さないといけないからね。
それに間違えて焼いてないパン生地を食べたらお腹を壊すかもしれない。
「そんなのいらねーよ!」
それでも兄は意地を張っているようだ。
弟の方は今にもよだれが垂れそうになっている。
「兄ちゃん……僕食べたい……」
「うるせー! お前静かに……」
「よかったらこれも食べてね」
お弁当も食べていないから、せっかくならこの子たちに食べてもらおう。
せめて今の僕にできるのはこれぐらいだ。
「じゃあ、またね!」
僕はその場を立ち去ることにした。
きっとこの場でいる限り、僕が怪しい人だと思って食べないだろう。
チラッと振り返ると、泣きながらパンを必死に口に詰めている少年たちの姿があった。
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