20.兄ちゃん、パンを作る
「ゼノさん、起きてくださいよ」
「んー、ソウタと寝る……」
「寝ないの!」
僕はゼノさんに抱きつかれながらも、ゼノさんの髪の毛を整える。
寝癖で髪の毛が跳ねるのかと思っていたが、寝癖にプラスして天然パーマだった。
手ぐしで綺麗にまとめないとすぐにアホ毛のように束で髪の毛が飛び出てしまう。
「みなさんも準備できましたか」
「ああ、お弁当も持ったぞ!」
今日はエルドラン団長とジンさんたちが魔物の討伐に向かうらしい。
町の警備はエリオットさんとゼノさんの仕事だ。
「あっ……アルノーさん! また木筒があれば持ってきてください」
ひっそりとしているアルノーさんに声をかけると、こくりとうなずいていた。
「ソウタって……魔力持ちですか?」
エリオットさんは少し探るような視線を向けてきた。
「魔力……?」
「いや、魔力を使ってアルノーを見つけていると思ったからな」
エルドラン団長の言葉に僕は首を傾げた。
「いえ、僕は魔力ないですよ。そもそも魔力が何かわからないですし……」
「そうか……。ならどうやって見つけてるんだ?」
アルノーさんって一回どこにいるかわかれば、比較的目で認知しやすい。
それに少し慣れたのか、僕にわかりやすいように何かしらの合図があるからね。
「んー、勘ですかね?」
僕の言葉に騎士たちがさらに悩み出した。
「まぁ、そういうこともあるよな! 俺も勘が鋭い方だからな!」
納得していたのはジンさんくらいだ。
確かにジンさんって僕が何かをしようとしたら、すぐに後ろを付いてくる。
「ご飯は早いですよ」って伝えると、トボトボと帰っていく姿をよく目にするぐらいだ。
五感が鋭いから、そういうのにすぐに気づくのだろう。
僕からしたら、ご飯をもらいにきた柴犬にしか見えないけどね。
「みなさん、時間は大丈夫ですか?」
時計をチラッと見たら、すでに10分ぐらいアルノーさんのことについて話していた。
「あぁ、行ってくる!」
「お弁当楽しみっす!」
エルドラン団長やジンさんを中心に騎士たちは各々の仕事に向かっていく。
アルノーさんは少しだけ話題にされて、嬉しそうに姿を消した。
突然姿を消すのも魔法の一種なのかな?
「ほら、ジンさんも仕事に行きますよ!」
「私もソウタに付いていく……」
「もう! レオのお店までですからね!」
僕は今日もレオたちが気になってお店に行くつもりだ。
ちゃんとフレンチトーストができているのかも気になるし、パンを少しだけ改良できないかと準備をしている。
「ほらゼノさん……ちゃんと歩いて!」
「うん……」
僕はゼノさんの手を引いて町の中を歩く。
昨日エルドラン団長と街の人たちに謝った影響もあるのか、今日はなぜか視線が優しい気がする。
「ははは、今日は兄ちゃんの手を引っ張ってるのか?」
「ゼノさん朝が弱いのでいつもこんな感じなんです」
「いやー、騎士たちも思ったより人間味があるんだな」
「……人間ですよ?」
商店街の人たちは騎士たちをどんな目で見ていたのだろうか。
どこからどう見ても人間……いや、大きな子どもたちにしか見えないよ。
「おっと、兄ちゃん寝そうだぞ!」
「ほら、ゼノさん行くよー」
「はーい……」
ゼノさんは目をこすりながら、ゆっくりと僕に付いてくる。
エリオットさんにゼノさんの仕事について聞いてみたら、元々起きないから勝手に起きたタイミングで働かせていたらしい。
ゼノさんだけフレックスタイム制で働いていたとはね……。
みんなから文句が出ないのは、お互いにどこかで支え合っていたのだろう。
「ソウタ、起こしてくれてありがとう」
しばらく歩くとゼノさんも次第に目を覚ましたのか、背筋をピシッと伸ばして歩き出した。
オンとオフの差が一番大きいのはゼノさんなんだろう。
働いている時はかっこいいのに、朝にこれだけベタベタとされたら女性が勘違いするのも仕方ない。
「じゃあ、お昼過ぎには帰りますね」
「その時に買い物にでも行きましょうか」
エリオットさんと帰る時間を合わせて、夕食の買い出しをする約束をした。
「私もソウタと働き――」
「エリオットさん、お願いします!」
「ソウタアアアアアアア!」
目を覚ましてもずっと僕の手を繋いでいたゼノさんを引きはがして、エリオットさんに連れて行ってもらった。
これでやっと僕も一安心だ。
「おはようございます!」
「「おはよー!」」
扉を開けると、ノアとノエルが走ってやってきた。
「おっ、やっと来たか!」
「ゼノさんが離してくれなくてね……」
レオも店の中からしばらく様子を見ていたらしい。
なかなかゼノさんが離れなかったもんね。
僕たちはすぐに調理場に行って、今日出す予定の料理を準備する。
「昨日のパン生地は腐ってなさそう?」
「んー、少しぷつぷつとしているけど大丈夫か?」
「それで問題ないよ!」
僕が事前に用意していたのは、前日に用意したパン生地だ。
レオに聞いたらこの世界にはドライイーストのような酵母菌を使ったパンを作っていないらしい。
そのため、パンは焼きたてのみ柔らかめでその後は固くなってしまう。
しかも、発酵させずに高火力で一気に焼いて水分を飛ばしているからね。
薄力粉を増やして、ナンみたいに薄めに作るものであれば上手にできるけど、それも知らないのだろう。
そこで思いついたのが、前日のパン生地を使って酵母を増やすことだ。
小麦粉や水には元々菌が存在している。
時間を置くことで生地の中で発酵させて、酵母として使うことができる。
表面がぷつぷつとしているのも菌が増えている証拠だ。
「でも使うのはほんの少しなんだけどね」
一握り分だけを新しく作る生地に混ぜ合わせていく。
割合として10%程度しか使わない。
「そんなに少なくていいのか?」
「基本的には発酵させるためだけに使うからね」
前日のパン生地をそのまま使うことはできる。
ただ、発酵が進みきっているとどこか酸っぱい匂いがしたり、しっかり膨らまなかったりする。
こうやってパンの生地を繋いでいって作る方法を〝パートフェルマンテ〟って言うんだけど、夏の自由研究でパンの酵母を作るという内容でやったのが始まりだ。
パン生地を発酵させている間にスープの準備をしていく。
「フレンチトーストは作ってみる?」
「材料は買ってきたけど、スープもまだできてないぞ?」
どうやら僕が来るまで作るのを待っていたらしい。
昨日食べたのは野菜スープだから、今日は違うやつの方が良いだろう。
「せっかくだから羊乳を使ってみようか」
「えっ!? せっかく買ったのに?」
フレンチトーストを作るために買った羊乳をスープに使うことにした。
パンが柔らかくできたら、フレンチトーストをわざわざ作らなくてもいいからね。
「美味しいのができるから大丈夫だよ!」
少し心配そうに見つめるレオの隣で僕は羊乳を使ったポタージュ作りを始めていく。
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