19.兄ちゃん、見つけるのが得意なんです
今日も起きたらすぐに調理場からフライパンとお玉を持ってリビングに向かう。
すでにエリオットさんは起きていたのか、僕と目が合うと視線は僕の手元に向けられた。
「エリオットさん、耳を塞いでくださいね」
小さく頷くと、エリオットさんは両手で耳を塞いだ。
――カンカン! カンカン!
「みなさん、起きてください!」
朝を知らせる鐘のように、僕はフライパンの底をお玉で叩く。
それでも騎士たちは起きる気配がないようだ。
「それならあの手を――」
僕は再びフライパンの底にお玉を当て、手を引こうとすると、次々と扉を開く音が聞こえてきた。
「「「ソウタ待った!」」」
――キィイイィッ!
甲高い金属が擦れる音が部屋に広がっていく。
短い音なのに、不快さだけはしつこくまとわりつき、背中をぞわりと撫でていった。
「「「ぬあああああああ!」」」
歯の裏を直接引っかかれるような感覚に騎士たちはその場で震えている。
僕も自分で鳴らしながら、思わず顔をしかめた。
「……みなさん起きましたか?」
「はぁ……もう少し優しく起こしてくれないか」
ボサボサな髪でエルドラン団長は困った顔をしていた。
むしろ困っているのは僕の方だ。
「みなさんが起きてくれたら、こんな起こし方はしませんよ?」
「うっ……」
別に朝食やお弁当を僕一人で作れたら、わざわざ騎士のみんなを起こさなくても問題ない。
ただ、今の僕の体だと手伝ってもらわないといけないし、朝の支度をするのが遅いんだもん。
「そういえばゼノさんは……」
「ああ、俺が起こしてきます!」
僕がもう一度フライパンにお玉を当てようとしたら、ジンさんが急いでゼノさんを起こしに行った。
これだけ騒がしくしていても起きないゼノさんは、相当朝が苦手なんだろう。
「今日もお弁当を作るのか?」
「そのつもりですが……」
僕がそう答えると、騎士の一人がコソコソと何かを取り出した。
「これ使える……?」
そこには竹のような木の筒がいくつも置かれていた。
「いらないなら捨てるから……」
「えーっと……」
「あっ……アルノーと言います」
そう言って、フッと消えていなくなってしまった。
まるで忍者のような姿に僕は周囲をキョロキョロとする。
「アルノーは人見知りだからな」
「あのー、昨日もいましたか?」
「おっ……たぶんいたぞ? なぁ?」
エルドラン団長は他の騎士に視線を向けたが、みんな目を合わせようとしなかった。
存在感が薄いのか、それともそういう立ち回りをしているのかはわからない。
ただ、多めにお皿とかを用意しておけば問題はないだろう。
「アルノーさん、使わせてもらいますね!」
僕はとりあえず頭を下げると、部屋の片隅で薄らと手を振っている人がいたような気がした。
手を振りかえすと、アルノーさんは少し嬉しそうに微笑んでいた。
やっぱりあそこにいたんだね。
「やっぱりソウタってただもんじゃないぞ……」
「あのアルノーがどこにいるのか見つけられるとは……」
どうやら他の騎士でもアルノーさんは見つけにくいようだ。
しょんぼりしているけど、僕にはどこにいるのか何となくわかる。
まるで弟妹と隠れんぼしているような気分だ。
よくやっていた隠れんぼがこんなところで役に立つとはね。
家の中で見つけるまで終わらなかったのが懐かしいな……。
「あっ! そんなことより早く準備しないといけないですね!」
僕はすぐに調理場に向かうと、事前に浸水しておいた玄米に火をかける。
「私は何を手伝えばいいですか?」
「……エリオットさん!?」
振り返るとそこにはエリオットさんがいた。
エルドラン団長たちはまだ着替え終わっていないから、一番に来てくれたのだろう。
「ひょっとして私は邪魔ですか?」
「へへへ、手伝ってくれて嬉しいです」
自ら手伝ってくれるって嬉しいことだからね。
それにエリオットさんって料理とかあまり興味なさそうだから尚更嬉しい。
「じゃあ、まずは洗い物をお願いします」
僕はアルノーさんからもらった木筒を軽く水で流すように伝えた。
すると、エリオットさんは小さな声で何かを呟くと宙にぷかぷかと水が浮いていた。
「わぁー、エリオットさんすごいです!」
幻想的な空間に僕はすっかり目を奪われていた。
これが魔法というやつだろうか。
エリオットさんが指先を動かすと、木筒がひとりでにぷかぷかと浮かぶ水の中へ沈み、また勢いよく飛び出してくる。
その様子はまるで木筒がお風呂に入ってはしゃいでいるみたいだ。
「私は役に立ちそうですか?」
「はい! 役に立つどころかエリオットさんがいたらみなさん助かりますよ!」
この調理場でも食洗機を見たことがない。
人数が増えれば必然的に洗い物が増えるから、エリオットがいれば作業はかなり捗る。
正直、洗い物ってめんどくさい。
調理しながらやらないと、食べ終わった頃には山のように溜まっているからね。
「そうですか……それは良かったです」
僕の言葉にエリオットさんは少し嬉しそうにはにかんだ。
どこか気難しそうな人かと思ったけど、やっぱり心優しい人だね。
「おい、今度はエリオットを手懐けたぞ……」
「さすがソウタだ……」
声がする方に目を向けると、エルドラン団長とジンさんが身を乗り出して覗いていた。
僕と目が合うと、呼んだかという顔をしながら調理場に来てくれた。
「じゃあ、朝食とお弁当作りをしますか!」
今日は朝食の定番である卵焼きを作るつもりだ。
あとは菜葉のおひたしとちゃちゃとお肉を焼いて、照り焼き味にすれば三色丼も完成する。
正直たくさんの朝食とお弁当を作るのは難しいから、似たようなメニューになっちゃうのは仕方ない。
僕は卵を割ると、すぐに軽く味付けをして焼いていく。
表面がふるりと揺れたところで、気泡を潰しながら箸でくるりと巻く。
しっかりと油を引いて、次の卵液を流して何度も繰り返すと少しずつ分厚くなってきた。
「よいしょ!」
「「「おおお!」」」
僕が卵を返すたびに三人は拍手をしていた。
これぐらい簡単なんだけどね。
ただ、卵焼き用のフライパンではないからうまくできるか心配だったが、油を引いていればくっつくことはなかった。
できたばかりの卵焼きをまな板に載せて包丁で一口サイズに切っていく。
見た目が良くなるように一つだけ向きを変えたら、綺麗な渦ができていた。
「芸術品みたいですね」
エリオットさんは感心したように卵焼きを見つめていた。
「やってみますか?」
「いやいや、私は焦がしそうなので遠慮しておきます」
勧めてみたがエリオットさんは失敗すると思ったのだろう。
卵焼きくらい失敗しても良いように、お弁当のメニューは決めていたんだけどね……。
「なぁ、俺もやってみていいか?」
「俺もやりたいっす!」
一方、エルドラン団長とジンさんはやる気があるようだ。
僕は隣に立ち、二人に僕がやったようにマネして作ってもらう。
「おおおお! 卵が飛んでいくぞ!」
「こっちは全く巻けないぞ……」
エルドラン団長は卵を巻こうとして飛ばしちゃうし、ジンさんは全く巻けずに焦げそうになっていた。
「じゃあ、全部卵液を入れてぐちゃぐちゃにしてください!」
「ぐちゃぐちゃにするのか……?」
「いいのか?」
心配そうな顔をしながら二人は勢いよく混ぜてスクランブルエッグを作っていく。
ぐちゃぐちゃになっていく見た目に、何度も僕をチラチラと見てくるがそういう料理だから気にしない。
その間に菜葉を簡単に茹でて、水気を取ったら醤油とお味噌汁に使う予定の出汁を少しだけかける。
あとはお肉を照り焼き味で焼けばお弁当の具材も完成だ。
「そろそろ玄米も炊けたかな?」
焦げる一歩手前の香ばしさが混じった、米の甘い匂いが鼻をくすぐった。
土鍋の蓋を開けると、湯気の向こうで玄米がふくらみ、朝の光を受けてつやつやと輝いている。
一度混ぜて、再び蓋をして蒸らしておく。
半分はお弁当用で他の土鍋は朝食用だ。
「みなさんできましたよ!」
全ての料理を盛り付けると、僕の声に反応して、騎士たちは急いで駆け寄ってきた。
全員着替え終わっているのか真っ黒な団服に身を包み、髪もバッチリと決まっている。
やっぱり朝早く起きて支度した方が、見た目もキリッとするから騎士らしい。
それにここにいる人たちって見た目は結構かっこいいから、尚更ちゃんとした方が良いだろう。
「それにしてもゼノさんがいないですね……」
ゼノさんも取りに来るかと思っていたが、顔を見なかった。
まさかと思いリビングに向かうと、椅子の上で小さく丸まるように寝ているゼノさんがいた。
まだ服も着替えていないし、髪の毛もボサボサなままだ。
やっぱりこの人は僕が手伝わないといけないようだね。
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