17.兄ちゃん、夕食作りは戦場です
「フレンチトーストうまかったな」
「そうですね」
フレンチトーストを食べ終わった僕たちは、黒翼騎士団の庁舎に帰っていく。
僕が話しかければエリオットさんは答えてくれるが、基本的には静かな人のようだ。
「おい、またムスッとした顔をしてどうしたんだ?」
むしろ、エルドラン団長はもう少し静かになった方が良い気がする。
夜にはエリオットさんが好きな野菜料理を作るから、少しは元気になってくれるといいな。
「ただいまー!」
「「ソウタ、おかえり!」」
庁舎に帰ってくると、すぐにジンさんとゼノさんがやってきた。
昨日、騎士たちが帰ってきた時間よりも早く帰ってきたはずなのに、すでに何人かは庁舎に帰ってきていた。
「お前ら、仕事はどうしたんだ?」
二人がいることにエルドラン団長も気になったのだろう。
「もちろん早く帰ってきたに決まっている!」
「二人でソウタを独り占めするなんてセコイです」
そう言って、ゼノさんは僕を抱えて調理場に運んで行こうとする。
単純にお腹が減って、早く帰ってきたのだろう。
「それにソウタのお弁当を食べたからか、魔物が弱かったぞ?」
どうやらしっかりとお弁当を食べたことで、元気に仕事ができたのだろう。
今までパンと干し肉を朝食と昼食兼用で食べていても、満腹感が違えばやる気も変わるはず。
「んっ……ソウタから甘い匂いがする」
運んでいる最中にゼノさんは、僕の匂いを嗅いでいた。
そんなにフレンチトーストの匂いが染みついているのだろうか。
「エルドラン団長とエリオットさんからも甘い匂いがするぞ!」
ジンさんもそれには気づいていたのか、同じ反応をしていた。
本当に犬みたいな行動に僕は笑うしかできなかった。
「また今度作るので、ご飯の準備をしましょうか」
「許す」
ゼノさんは甘いものが好きなのかな?
エリオットさんにも約束しちゃったから、野菜入りの甘いデザートを考えないといけないね。
今日の夕食は野菜をたっぷり使ったかき揚げとご飯、お味噌汁、そしてお腹も満腹になる肉じゃがだ。
副菜ばかりだが、メインにもなる肉じゃががあれば騎士のお腹も満足するだろう。
「今日は二人で料理――」
「ソウタ、俺も手伝うぞ」
「エリオットさんは他にやることがあるって、どこかに行ったよ。夕食までには帰って来るって」
遅れてエルドラン団長とジンさんも調理場にやってきた。
エリオットさんがずっと難しい顔をしていたのは、本当に何か考えごとをしていたのだろう。
「チッ! 邪魔者め……」
ゼノさんはそんな二人を睨みつけるように見ていた。
だが、エルドラン団長とジンさんは全く気づいていないのだろう。
置いてある材料を見て、何を作るのかソワソワとしていた。
「じゃあ、エルドラン団長は今日も揚げ物担当でお願いします」
昨日はエルドラン団長を盾にしたら、揚げ物も楽だったからね。
それに唐揚げも上手にできていたから、かき揚げも問題ないだろう。
「ソウタはいつになったら、私を盾にしてくれるんですか?」
ゼノさんは僕の手を持って見つめていた。
どうやら揚げ物担当がしたいのだろう。
ジンさんとゼノさんにも、同じ作業をさせておいた方が今後も楽になりそうだと思った。
だけど、やる気があるならどこかのタイミングで作業を変えるのも良いのかもしれないね。
「じゃあ、担当はまた今度決めますね」
「担……当……?」
ゼノさんは首を傾げていた。
きっと今すぐに揚げ物担当をさせてもらえると思ったのだろう。
でもゼノさんって玉ねぎの皮がどこまであるのかわからない人だからね。
調理させるのはまだまだ早い。
「私の気持ちが伝わってないのか……? いや、あれだけ言えば普通はわかるはずだぞ?」
「くくく、ゼノが困惑してるぞ」
そんなゼノさんを見てジンさんは笑っていた。
「ジンさんも笑ってないで手伝ってくださいね」
「ほーい!」
遊んでいたら騎士たちのご飯はいつになってもできない。
もはや作る量は大家族を余裕に超えているからね。
部活の寮母になった気分だ。
「これお願いしま……」
「ムッ……なんでお前は動くんだ!」
僕がじゃがいもの皮を切り、一口サイズにジンさんが切っていく。
だけど、相変わらずゴロゴロするじゃがいもにジンさんはイライラしていた。
「ついでに薄切りにしておいてくださいね!」
「ソウタ……俺をいじめるのか?」
ジンさんは次第に絶望に陥った顔をしていた。
そんなジンさんを横目にゼノさんが包丁で素早くじゃがいもを薄切りにしていく。
「ソウタ、できたから褒めて褒めて!」
すぐにゼノさんは僕の元に薄く切ったじゃがいもを持ってきた。
しっかりと言った通りの厚みに切れていた。
包丁捌きはゼノさんの方が何倍も上手なようだ。
「くっ、俺も負けてられねー!」
そんなゼノさんを見て、ジンさんも黙々と作業をしていた。
この二人はライバルみたいな存在なんだろう。
ただ、包丁を扱う時は安全面優先でやってほしいな。
たくさんの材料を切り終えると、肉じゃがとお味噌汁を先に作ることにした。
「この味噌ってやつは美味しいのか?」
「家庭の味って感じかな……毎日食べても飽きなくて、ホッとする味です」
エルドラン団長に聞かれて、僕はついつい家で作っていたお味噌汁を思い出す。
お味噌汁って家庭ごとに味が異なるし、素朴な味がして僕は好きだった。
僕もお母さんからお味噌汁の作り方を教えてもらったが、今回はお出汁がないけど大丈夫だろうか。
ちなみに具材には玉ねぎと薄切りに切ったじゃがいもを入れる予定だ。
「ソウタ、俺は何をしたらいいんだ?」
「じゃあ、エルドラン団長にはかき揚げの準備をしてもらいますね」
「おう! 唐揚げなら任せ……おん? かき揚げは唐揚げと何が違うんだ?」
言われてみたら同じ揚げ物なのに全く違う。
さっきまで普通に返事をしていたのは、唐揚げだと思っていたのだろう。
「唐揚げは下味をつけるけど、かき揚げは天ぷらなので、天ぷら粉をつけますね」
「おっ……そういうものってことだな」
エルドラン団長は考えるのを諦めたのだろう。
小麦粉に水を入れて、かき混ぜてもらう。
その間に僕はじゃがいもやにんじん、玉ねぎを炒めて、肉じゃがの準備は問題ない。
あとは味が染み込むように煮るだけだ。
「じゃあ、その中に小さく切った野菜を入れて揚げましょうか」
僕の言った通りにジンさんとゼノさんがボウルに野菜を入れて、小麦粉と合わせていく。
チラッと振り向き、衣がベチャッとなっていないのか確認する。
「もう少し水を入れた方がいいですね」
最後にほんの少しだけ水を足して調整。
ねっとりせず、ぽろっとした感触になるぐらいがちょうど良い。
「エルドラン団長、よく見ててくださいね」
僕はエルドラン団長にかき揚げの作り方を一度お手本で見せた。
ジュワッと油に落ちる音が響き、香ばしい匂いが調理場に広がっていく。
きっと初めて作る人にとっては、かき揚げは難しいだろうな。
でも、料理に失敗はつきものだからね。
「やっぱりソウタはすごいよな……」
「本当に子どもなのか気になるところだが、私は別に子どもでも――」
「「色々問題があるわ!」」
ゼノさんにエルドラン団長とジンさんがツッコミを入れていたが、僕が子どもだと何か問題があるのだろうか。
今の僕って小さな少年の見た目だから、さらにちょこまか動いているように見えるからね。
それよりも――。
「エルドラン団長、ちゃんと見てましたか?」
「おっ……おう!」
少し心配だけど、エルドラン団長が失敗しても、部下である騎士たちは怒らないだろう。
たぶん……怒らないよね?
それにそんなことを気にしていたら、たくさんいる騎士のご飯の準備が間に合わない。
かき揚げはエルドラン団長に任せて、次々と料理を作っていく。
――ガチャ!
「なんか良い匂いがするなー」
「今日の夕食はなんだ?」
黒翼騎士団ではいくつかチームが存在しており、バラバラで活動している。
きっと別のところに魔物討伐に行っていた騎士が帰ってきたのだろう。
僕は作るスピードをさらに早めて、すぐに準備を進めていく。
「なんかソウタが霞んで見えるぞ……」
「エルドラン団長、急いでかき揚げを作ってください!」
「イエッサアアァァァ!」
その後もテキパキと指示を出して、全員が帰ってくるまでには料理を全て作り終えることができた。
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