16.兄ちゃん、料理を教える
「そういえば、お兄ちゃんの名前は何て言うの?」
僕はこっそりノアとノエルに聞いてみた。
「俺はレオだ!」
聞き耳を立てていたのか、少年は自ら名前を教えてくれた。
ジーッと見つめられているところを見ると、僕も自己紹介しろってことだろう。
「僕はソウタだ。よろしくね!」
「おう!」
名前を聞いて納得したのか、レオは色々と教えてくれた。
まず、彼の年齢が10歳と見た目よりも歳が若いことに驚いた。
この世界は成長が早いのだろうか。
それに10歳の少年が頑張ってお店をやっているって思うとつい涙が出そうだ。
こういう家族の感動的な話に弱いんだよね……。
ちなみに弟のノアと妹のノエルは双子で5歳と僕の見た目年齢とそこまで変わらないようだ。
ってなると僕もそれぐらいの年齢なんだろうか。
僕たちが自己紹介をしている間に、エルドラン団長とエリオットさんには、先に掃除を任せていた。
あれだけ庁舎の掃除をさせたら、もうできるようには――。
「エルドラン団長、サボらずホコリを落としてくださいね!」
「うっ……」
拭いているふりをしているエルドラン団長に喝を入れる。
やっぱりこの人たちは掃除が苦手なんだろう。
「ここはいくら擦っても取れないな」
「エリオットさん、これを絞ってもらってもいいですか?」
ずっと同じところを掃除してるエリオットさんに声をかける。
完璧主義なのか、汚れが落ち切るまで拭き掃除をしていた。
そんなことをしていると、夜になっても終わらないだろう。
適宜声をかけないといけない二人に僕はどっと疲れが出てきた。
「「ソウタ、おわったよ!」」
そんな二人とは異なりノアとノエルは自ら動く働き者だ。
兄の姿を見て、何か手伝いたいと思っていたのだろう。
見た目の歳は近いのに、優しく素直な姿に僕もついつい抱きついてしまう。
やっぱり幼い子は癒しだよね。
まぁ、僕も見た目だけは幼いんだけどね……。
しばらくパンをフレンチトーストの液につけている間にできるだけ店の中を綺麗にしておく。
きっと明日も営業はするだろうしね。
「よし、ある程度は片付いたかな?」
しばらくすると、目で見てわかるほどの汚れはだいぶ減った。
これを毎日続けていけば、お店も綺麗になるだろう。
ノアとノエルにもそれを伝えると、これからも毎日すると言っていた。
ノアとノエルの手はまだ小さいけれど、窓を拭いている姿はやけに頼もしく見えた。
それに比べてうちの弟妹……いや、騎士と言ったら――。
「早くソウタのご飯が食べたいな!」
自分の役目を終えたエルドラン団長は、フレンチトーストの液につけたパンをジーッと見つめていた。
あれはあれで素直なんだろうが、大人としてどうなのかと思ってしまう。
「俺も早く食べたい!」
「ノアも!」
「ノエルも!」
そんなに楽しみにされたら、ついつい嬉しくなってしまう。
「やっぱり取れないな……」
今もムスッとした顔で掃除をしているエリオットさんはしばらく放置しておこう。
気になることがあると無視できない性格らしいからね。
僕は急いで調理場に向かって、フレンチトーストを焼くことにした。
「フレンチトーストに重要なのは、低温で時間を火にかけながらゆっくりと裏返すことが重要だよ」
コンロがないこの店では、火の管理が一番重要になる。
「なら俺がやってやろう!」
どうしようか迷っていたら、レオが胸を張っていた。
どうやら火の管理をしてくれるようだ。
僕は厚めのフライパンに油を引いてから、液に浸したパンを焼いていく。
すぐに心地良い「ジューッ」と焼ける音が調理場に響いている。
「うまそうだな……」
卵とミルクの香りが、熱でふわりと立ち上がる。
エルドラン団長は、焼かれるパンを見てよだれが垂れそうになっていた。
どこか憎めないその様子に、思わず頬が緩んでしまう。
やっぱりあの人はハスキー犬だな。
硬いパンが主流なこの世界では、きっとフレンチトーストを食べたらびっくりするだろう。
本当はバターがあればよかったけど、売っているのかわからないからね。
やがて焼き面にほんのりと色がついてきた。
表面はカリッと、内側はまだふっくらと柔らかい。
「これぐらいになったら、ひっくり返します」
「わかった!」
僕の説明をレオはしっかりと聞いている。
その後も焦がさないように気をつけながら、蒸し焼きにするために蓋をする。
初めから蓋をしてもいいけど、表面をカリッとさせたいため、後から蓋をした方が焼き目がしっかりとできる。
「最後は綺麗に盛り付けをしたら完成です」
ほのかに甘い匂いが鼻の奥をくすぐる。
外はカリッと、中はフワッとしたフレンチトーストが完成した。
先にノアとノエルに食べさせるように、エルドラン団長に頼み、僕はレオと一緒になって次々とフレンチトーストを焼いていく。
焼きながらも仕事に出かけているジンさんやゼノさんの顔を思い浮かべる。
騎士たちも甘いデザートは好きかな?
簡単なケーキを作ったら、喜んで食べてくれるかな?
僕は自然と会ったばかりの騎士たちのことを、弟妹のように感じていた。
「お前ら、食べる時はちゃんと手を合わせるんだぞ」
「あわせる?」
「こうやって、いただきますだ」
「「いただきます!」」
部屋の方からはエルドラン団長たちの声が聞こえてくる。
ノアとノエルにしっかりと挨拶を教えているようだ。
「「おいしい!」」
「ソウタが作ったやつは、世界一うまいからな!」
エルドラン団長も大袈裟だね。
さすがに世界一はないだろう。
ただの少し料理が得意なレベルだと僕は思っている。
「うまっ!? うおおおおお! ソウタおかわり!」
すぐにお皿を持ってエルドラン団長が戻ってきた。
「団長、食べたんですか!?」
「いや、俺は味見しただけだ」
「「たべたそうにしていたから……」」
どうやら物欲しそうにエルドラン団長が見ていたのだろう。
僕は先にノアとノエルのお皿に追加でフレンチトーストを載せる。
「エルドラン団長は後ですよ。それに食べすぎると夕食が入らないですからね」
「いや、俺はいくらでも食べられるぞ!」
真顔で伝えられると本当に食べられそうな気がする。
さすがに今まで一日一食だった人が、急に三食おやつ付きになったら太ってしまいそうだ。
「せめておやつは野菜のデザートにするか……」
「野菜のデザートも作れるんですか!?」
あぁ、野菜料理を作ったらそれはそれで喜ぶ人がいるね。
「また今度の話ですよ」
「楽しみにしておきますね」
キリッとしたエリオットさんの顔もどこか嬉しそうだ。
「エリオットさんの分もできたので食べましょうか」
フレンチトーストを焼き終えると、みんなで食べることにした。
ノアとノエルも食べ足りなかったらちょうど良いだろう。
「「「いただきます」」」
みんなで手を合わせて早速フレンチトーストを食べていく。
「なっ……なんだこれ!」
「美味しい?」
僕がレオに声をかけると、彼はハムスターのように頬に溜め込んで頷いていた。
喜んでくれたならよかった。
僕も一口食べてみる。
「んー、初めて羊乳で作ってみたけど、カスタードっていうよりはミルクプリンのようなチーズに近い濃厚さだね」
「「「初めて!?」」」
「うん、初めてだよ?」
なぜか騎士の二人とレオは驚いていたけど、牛乳と羊乳って少し味が変わるだけでそこまで変わらないからね。
「ノアとノエルも美味しい?」
「「うん!」」
二人は嬉しそうに頷いていた。
本当に弟妹を見ている気分で僕も嬉しくなる。
「母さんにも食べさせたいな……」
レオがボソッと呟いていた。
お皿の上にはフレンチトーストはもう残っていなかった。
やっぱり母を思う子の気持ちはみんな同じだね。
もちろんそんなことは想像ついている。
「フライパンにお母さんの分も残しているから、後で食べさせたらいいよ。きっと食べやす――」
「ソウタアアアアア!」
気づいたらなぜか僕はレオに抱きしめられていた。
それを見てノアとノエルも抱きついてくる。
ただ、フレンチトーストを作っただけだけど、僕は心が温まり良いことをした気分になった。
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