15.兄ちゃん、フレンチトーストを作る
「まず、お客さんにいきなり突っかかるのはダメでしょ?」
「……なんだと?」
喧嘩する気だったのに、突然文句を言われて少年は眉間にシワを寄せていた。
でも、ちゃんと教えないといけないことははっきり言わないとね。
「そもそも、掃除も行き届いてはいないし、お客さんを迎える準備もできていないよね」
「うっ……」
「そんな状態で出てくる料理が美味しいって、本気で思ってるの?」
「「ギクッ!?」」
少年に注意をしたはずが、なぜかエリオットさんまで気まずそうな顔をしていた。
今まで汚い部屋の中で生活していたもんね。
「もちろん汚くても美味しいお店はあるけど、それは珍しいこと。まずはお客さんにどうやって気持ちよく過ごしてもらうのかってところから考えてないと……食べる以前の問題です!」
僕は少年に詰め寄ると、なぜか目をウルウルとさせていた。
さっきまでの喧嘩腰の態度はどこに行ったんだ……。
「だって俺、掃除したことないもん……」
「へっ!?」
聞こえた言葉に僕は呆然とする。
この世界の人たちは掃除をする習慣がないのだろうか。
「料理も見よう見まねで――」
「見よう見まねで作ったのに、あそこまでパンが作れるの!?」
「うん……」
母親が病気で働けないと聞いてはいたけど、ほとんど見よう見まねでやっているとは思わなかった。
それならあの料理は納得できる。
むしろちゃんとパンになっているし、この世界で食べたパンの中では美味しいほうだ。
「そっか……強く言ってごめんね。よく頑張ってるね」
僕は背伸びをして少年の頭を優しく撫でた。
きっとこの子は怒られるのではなく、優しくされたいのだろう。
今もお母さんのために頑張っているんだもんね。
「くっ……別に頑張ってない……」
今にでも泣きそうだが、少年の後ろには弟妹たちが心配そうにこっちを見つめていた。
兄なりに心配かけないようにしているのだろう。
彼は料理を始めたばかりの昔の僕に似ている。
あの時はお父さんは出張で、お母さんが高熱を出していたっけ。
お母さんに迷惑をかけないように、弟妹たちに初めてご飯を作ったことを思い出した。
「おい、牛乳と卵を買って……何があったんだ?」
どうやらエルドラン団長は本当に牛乳と卵を買ってきたようだ。
街の中を歩いている時に牛乳と卵を見かけなかったため、売っていないと思っていた。
思ったよりも食文化は発達していなくても、食材はいろいろと売っている世界らしい。
「牛乳と卵は町外れに売っていますよ」
僕の気持ちを読んだのかエリオットさんが教えてくれた。
牛や鶏を飼うのは、町の中では難しいもんね。
ただ、この世界の鶏はかなり大きかったが、そんな大きな鶏が近くにいるなら見てみたい。
「何もないですよ! 僕が美味しいものを作るから待っててね」
「うん」
僕は少年に声をかけると、少し恥ずかしそう頷いていた。
まずはパサパサなパンを有効活用するアレンジ料理を作らないとね。
「庁舎の調理場とはだいぶ違うね……」
いざ、料理をしようと思ったらコンロやシンクが庁舎の物とは違っていた。
「うちで使ってるのは魔道具だからな」
どうやら普通の家庭では、手をかざしただけでは水や火は出ないらしい。
本当に大変な中、少年は一人でやっていたのだろう。
今も僕にレシピを教わろうと付いてきた。
やっぱりしっかり者のお兄ちゃんだね。
「さっきはごめ――」
「謝るのはやめろ! 俺たちのために何か作ってくれるんだろ?」
少年は僕の口を押さえた。
僕が小さく頷くと、彼は嬉しそうに笑っていた。
きっと誰かにご飯を作ってもらうのも久しぶりなんだろうな。
健気な少年に段々と僕の方が泣いてしまいそうだ。
「水は井戸から汲んでくるし、火はいつでも準備できるぞ!」
わからないことは少年に手伝ってもらう方が良さそうだな。
泣いている暇もないしね。
「まずは食中毒にならないように牛乳を温めます」
僕はエルドラン団長が買ってきた牛乳を温めようとしたら、エルドラン団長は申し訳なさそうな顔でこっちを見ていた。
「ソウタ、すまない」
「どうしたんですか?」
「今は牛乳が少ないらしくて、羊乳しか手に入らなかった」
どうやら牛乳だと思っていたものは羊乳らしい。
使ったことはないが、牛乳とさほど変化はないだろう。
「きっと美味しいものができると思うので大丈夫ですよ」
せっかく楽しみにしてくれているのに、ここでできないとは言えない。
味は後で調整するから問題はないだろう。
殺菌のために羊乳を沸騰しない温度まで温めていく。
表面がふつふつしてきたタイミングで、火から離せば低温殺菌はできているだろう。
「卵を綺麗にしてきたぞ」
「ありがとうございます」
エルドラン団長には、卵を綺麗に布で拭くように伝えた。
水で洗ったら殻の表面から細菌が入ってしまう。
「牛乳や羊乳は病気の原因になるので、火を通さないとダメなんです。ただ、今回作るのは火を通してない状態で使いたいので――」
「ソウタ、それはどういうことですか? 火を通していない状態で使いたいのに、羊乳を温めていましたよね?」
「これは低温殺菌と言って、病気の原因を倒すんです」
エリオットさんは真剣に僕の話を聞いていた。
一方、少年やエルドラン団長は首を傾げていたため、難しくてわからないのだろう。
「羊乳を混ぜながら冷やしている時に、卵を入れていきます。卵は羊乳の温度が高いと固まるので、人肌ぐらいの時に入れるといいですよ」
卵を入れたら、あとは砂糖で味付けをしたら完成だ。
味見をすると羊乳の風味が強かった。
どことなく濃厚でバターやクリーム感が強いって言った方がわかりやすいかもしれない。
なので、少しだけ塩を入れて調整する。
「あとはパンを食べやすい大きさに……まだ完成じゃないですからね!」
少年とエルドラン団長はジーッと僕の方を見つめていた。
まさかフレンチトースト液を食べようとしていたのだろうか。
パンを切って、できたばかりのフレンチトースト液に浸して準備完了。
「よし、その間に掃除をしましょうか!」
「「「えー」」」
パンを浸している間に掃除をすることにしたが、やはり掃除は嫌いなんだろう。
だが、そんな中近づいてくる影があった。
「ノアもそうじしたらたべれる?」
「ノエルもそうじする」
僕よりも少し小さめな男の子と女の子が寄ってきた。
ずっと隠れていた少年の弟妹だろう。
弟の方がノアで妹がノエルらしい。
「一緒に掃除しようか。あの大きなお兄ちゃんたちはいらないらしいからね」
「「「なっ!?」」」
僕はノアとノエルの手を引っ張り、隣の部屋に移動する。
「掃除をしない人にはフレンチトーストは食べさせないからね?」
僕の言葉に従って、三人は急いで掃除に向かった。
それを見たノアとノエルは声をあげて笑っていた。
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