13.兄ちゃん、新しい調理器具を買う
あんなに街の人たちから嫌われるには、何か理由があるはずに違いないと思い、気になっていることを聞くことにした。
「騎士団のお金はどこからもらっているんですか?」
もちろん騎士の中でも頭が良さそうなエリオットさんにだ。
エルドラン団長は……ちょっと心配だもんね。
「基本的には国から支給されています。ただ、黒翼騎士団は、騎士団の中でも財源が少ない方なので……」
「貧乏な騎士団ってことですか?」
「直接言われると心が痛いですね」
エリオットさんが否定しないということは、お金がたくさんあるわけではないようだ。
「なら無駄遣いはダメですね」
ひょっとしてゲームの中ではお金が足りないから、色々な仕事を引き受けて悪役になってしまったのだろうか。
生活するにはお金は必要だからね。
「経済を回すにはお金は使わないといけないから……特に国から支給されているお金は使って還元しないといけないですね!」
僕の言葉を聞いていたエルドラン団長は懐からお金を取り出した。
「これで昨日の分も足りるか? 先に払っておくべきだったな」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに店主にお金を渡した。
やっぱり昨日の材料はもらった……いや、強奪したやつになるのか。
「本当にうちの騎士たちがご迷惑おかけしました」
僕は再びエルドラン団長の背中をバシバシ叩いて、頭を下げさせた。
「くくく、面白いことを聞けたから別に気にしてない。ついでにおまけもしておくぞ」
肉屋の店主は渡されたお金を数枚もらい、エルドラン団長に返した。
まさかおまけしてもらえるとは思わなかった。
「エルドラン団長、おまけしてもらったんだから、お礼はちゃんと伝えないといけないですよ?」
「あっ……ああ。ありがとう」
その場でエルドラン団長はもう一度頭を下げた。
「ははは、黒翼騎士団は見た目と違って良いやつなのはわかった。こちらこそいつも街の見回りをしてくれて助かってる」
肉屋の店主が手を差し出すと、エルドラン団長は驚きながらも熱く握手をしていた。
これで肉屋の店主とは、わだかまりはなくなるだろう。
「次は野菜店に行きますよ!」
昨日の食材の量を考えると、まだまだ謝るお店はたくさんあるからね。
誠意を持って接すれば、黒翼騎士団の良さを知ってくれるだろう。
「エルドラン団長、あそこのお店は何ですか?」
その後もいくつかお店に謝りながら、材料を調達していると、気になるお店が目に入った。
「ああ、あそこは異国のものを扱っているところだ。あれが気になるのか?」
「はい!」
お店の前にはいくつもの調理器具が展示されていた。
庁舎の調理場にはなかった調理器具に、僕は興奮が収まらない。
「あの丸みを帯びた形に耳みたいな持ち手……団長! 土鍋がありますよ! 土鍋!」
まさか土鍋が展示されているとは思ってもいなかった。
調理場に置いてあるのは、大きなフライパンか大きな鍋しかない。
日本以外の国にも鍋は存在しているが、土鍋があるってことは、お米がある可能性があるからだ。
日本人ならお米があるかないかで、料理の幅は広がっていく。
僕は急いでお店の中に入った。
「あそこってあいつがいるところだよな?」
「ええ、ソウタが危ないです」
エルドラン団長とエリオットさんが話していることが耳に入らないほど、お店に釘付けになっていた。
「うぉー! しゃもじに……せいろ……中華鍋まで売ってるよ!」
店内は日本特有のものもあれば、中華料理に使う道具など様々な調理器具で溢れていた。
「ヒヒヒ、こんな珍しいお店に何か用かい?」
お店の奥から出てきたのは、少し怪しげなお婆さんだった。
だが、僕にはお婆さんがキラキラと光って見えた。
それは僕が住んでいたところに帰れるのかと思ったからだ。
会えるならまた弟妹たちに会いたい。
せめてこれからは兄のことは気にせずに元気に過ごしてほしい。
兄としてはそれだけを切に願っている。
「お婆さん、これはどこから買ってるんですか?」
「ああ、土鍋かね。これはジャポーネって国の調理器具だね」
「ジャポーネ……」
だけど、やっぱり返ってきた言葉は僕の求めているものとは違った。
弟がゲームをしている時に、ジャポーネっていう国で侍を仲間にしたと言っていたのを思い出した。
やはり僕はゲームの世界に来ていたんだ……。
もう、家には帰れない。
そう思うと涙が勝手に溢れてくる。
「ソウタ、勝手に入ったら……貴様! ソウタに何をした!」
エルドラン団長は僕を庇うように目の前に現れた。
僕が泣いているからか、何かされたと思ったのだろう。
僕は急いで涙を拭いた。
「ヒヒヒ、若造が何を言っておる」
「魔女め! ソウタを実験に――」
「ちょっと、エルドラン団長!」
エルドラン団長は僕の元気な姿を見て、戸惑いを隠せないようだ。
だが、ここに来るまでにたくさん街の人に謝ってきたのに、エルドラン団長はまた面倒ごとを作る気なんだろうか?
僕はキッとエルドラン団長を睨む。
「ソソソッソウタ!?」
僕はエルドラン団長の腕を引っ張り、お店の縁に引っ張っていく。
「エルドラン団長、すぐ人に怒鳴るのやめてください。泣いてたのはお婆さんのせいじゃないんですから!」
「えっ……そうなのか?」
エルドラン団長はその場であたふたして、お婆さんと僕を交互に見ている。
「僕はお鍋を見て感動していただけです」
泣いていたのは別の理由だが、今はエルドラン団長……いや、大きな弟が勘違いされないようにする方が先だ。
それにお年寄りには優しくしないといけないって習わなかったのかな。
僕はエルドラン団長の手を引いて、お婆さんの元へ戻る。
「エルドラン団長が勘違いしてすみませんでした」
「へっ……?」
僕が頭を下げると、エルドラン団長はさらにあたふたとしている。
ああ、弟も友達と喧嘩した時に、一緒に謝りに行ってたな……。
そんなことをふと思った。
「ほら、エルドラン団長も!」
「ああ……すまない」
どこか不服そうだが、エルドラン団長も頭を下げていた。
さっきから僕たちずっと謝ってばかりだね。
「ヒヒヒ、私は面白いものを見せてもらったから構わんよ。せっかくだから、うちの商品を買っててくれないか?」
「こんな使えない――」
「ぜひ、色々買わせていただきます!」
どっちにしても僕はここで買い物をするつもりだった。
戸惑っているエルドラン団長の腕に土鍋を置いていく。
「無駄遣いはダメですよ」
エリオットさんはメガネをあげて、僕の様子を細かく見ていた。
たくさんお金があるとエルドラン騎士団長が言っていたが、エリオットさんがお金の管理をしていそうだな。
税金で運営されている騎士団のため、そこまで贅沢するつもりはない。
それにさっき貧乏騎士団とわかったばかりだ。
ただ――。
「土鍋があれば野菜をたくさん食べられる鍋料理ができるんですよね」
僕がチラッとエリオットさんも見ると、彼は静かに考え込んでいた。
きっと本当に必要なのか考えているのだろう。
土鍋があるだけで料理のレパートリーが増えるからね。
「よし、すぐに土鍋を買うぞ! 鍋料理を食べるぞ!」
一方、エルドラン団長は土鍋を買うことに対して肯定的だ。
今すぐに土鍋を買えと隣で言っている。
「んー」
だが、エリオットさんはいまだに悩んでいる。
騎士団の人数を考えると、土鍋一つだと足りないもんね。
そこで僕はさらに追撃することにした。
「それにここに置いてある味噌を使って、味噌鍋にすると――」
チラッと見たら、大豆で作った味噌が置いてあった。
冬の寒い日に、家族で味噌鍋を囲んだのは良い思い出だね。
「わかりました。欲しいものは全て買いましょう!」
「へっ?」
まさかそんなに買うつもりはなかったのに、店のものを全て買うような勢いで、二人は荷物をまとめていく。
「全部買うんですか!?」
「そのために計算していたんです」
エリオットさんは土鍋を買うか迷っていたのではなく、この店の商品を全て買ったらいくらになるのか計算していただけのようだ。
「ちょ……ちょっと待ってください! 土鍋だけ買う話でしたよね!?」
僕は思わず二人の腕を掴む。
あれだけ無駄遣いはダメと言っていたよね?
うちって貧乏騎士団なんだよね?
「せいろも中華鍋もいらないですよね? なんで全部買う流れになってるんですか!」
「無駄ではないと判断しました」
まさか僕が無駄遣いに対して、怒るとは思いもしなかった。
それなのに二人とも全く悪びれず、土鍋を抱えながら笑っている。
「エルドラン団長も止めてくださいよ!」
「いやー、ソウタが作るご飯は美味しいからなー」
「はぁー」
もう僕はため息をつくことしかできないでいた。
まさかエリオットさんも頭が弱いなんて……。
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