10.兄ちゃん、お弁当を作る
「もう、また汚して……掃除くらい自分でやんなよ! いつまで僕が片づけると思ってんの!」
僕は文句を言いながらも掃除を始める。
お弁当を作るために早く起きたのに、朝から掃除することになるとは思いもしなかった。
「くっ……頭が割れそうだ」
「誰だよ。あんな強い酒を混ぜたのは……」
他の騎士たちも手伝ってはくれるが、お酒を飲みすぎて二日酔いのようだ。
「ソウタは早起きだ……ね……」
「ゼノさんは、いい加減起きてください!」
ゼノさんは朝が弱いのか、昨日の姿とは反対にぼーっとしている。
今も隙があれば僕を抱き枕のようにして、寝ようとしているところを抜け出す。
「エルドラン団長、あとは頼みましたよ!」
ある程度綺麗に片付いたら、残りの掃除をエルドラン団長に任せることにした。
「おっ……おう……」
朝食を抜きにするって言ったのがよかったのか、エルドラン団長の聞き入れが良くなった。
「とりあえず、具沢山スープを作っておくか」
二日酔いの朝食には温かいスープが胃を休めるためにはちょうど良い。
よくお父さんが接待の飲み会で、ベロベロになった時はお味噌汁を作ってあげていた。
不揃いに伸びた髭で、よく顔をスリスリされて痛かったな……。
「くよくよしてられないね」
僕は調理場に行って、野菜の皮を剥いていく。
昨日煮物にも使った鶏の骨で出汁をとった鶏がらスープを残していたため、そこに水を足す。
「じゃがいも、にんじん、玉ねぎを大きめの一口サイズにすればボリューム満点だけど、野菜ばかりでも大丈夫かな?」
あまり野菜が好きではない人が多いけど、ボリュームはあった方が良いだろう。
お昼まではお腹を保つようにしないといけないからね。
「んー、鍋が重い……」
いつものように大きめな鍋に具材を入れてしまったため、コンロに持ち上げられない。
「ソウタ、終わったぞ!」
「あっ、エルドラン団長! これをコンロに置いてください!」
掃除が終わったと、わざわざエルドラン団長は言いにきたようだ。
困っている僕を見て、エルドラン団長はヒョイっと鍋を持ち上げた。
やはり騎士をまとめる騎士団長なだけあって、力も強い。
自分の体が小さくなったことに、まだまだ慣れそうにないな……。
「こんなに朝飯を食べるのか?」
スープ以外に使う野菜を見て、エルドラン団長は不思議そうな顔をしていた。
「いえ、昼食の準備もしていました」
「へっ? そんなに食べるのか?」
「ん? みなさん食べないんですか?」
僕とエルドラン団長はお互いに首を傾げながらジーッと見つめる。
朝食、昼食、夕食の三食は必ず食べるのは当たり前だよね?
お父さんなんて、仕事が遅くなる時はお弁当を二つ持たせていたけど……。
「俺たちは基本夜しか食べないからな。朝飯も珍しいけど、ソウタの昼に食べるのも大歓迎だ」
エルドラン団長の話では、朝食は基本なしで、町の外に行くときは何時に帰ってくるかわからないため、パンや干し肉を持っていくらしい。
「それだけで足ります?」
「いやー、あまり美味くないから、腹に入ればなんでもいい」
まさかそんな考えでご飯を食べている人がいるとは思わなかった。
ご飯は一日の中で楽しみと言っても過言じゃないからね。
僕の料理をおいしいと言っていたが、この世界のご飯はまずいのだろうか。
「エルドラン団長は今日お仕事ですか?」
「いや、今日はエリオットと街の見回りにいく予定だぞ」
どうやら街の中の見回り警備をするらしい。
それなら――。
「一緒に街の中を見て回ってもいいですか?」
「あー、本当に行くのか?」
なぜかエルドラン団長は急に視線を外した。
その姿がどこか隠し事をしているように見えた。
弟もよく嘘をついている時は、視線を外していたからね。
「材料も追加で欲しいものもありますし」
「俺が買ってくるぞ?」
頑なに僕を街に連れて行きたくないのだろうか。
何を言っても言い訳されてしまう。
「夕食がなしになってもいいですか?」
「くっ……仕方ないな……」
夕食を人質にして、一緒に街に行くことになった。
朝食は野菜を火にかけておけばいいが、問題はお弁当だ。
この世界にはお弁当箱がなければ、持ち運びも大変だろう。
外で食べることを考えると、手で簡単に食べられるものにした方が良い。
「んー、パンが硬いからサンドイッチはできないし……トルティーヤにしてみようか」
作り方は小麦を水に溶かして生地を作って、油を入れて焼くだけだ。
味付けした肉と野菜を間に入れれば、誰でも簡単に作れる。
それにお弁当箱のようなものはないから、布に包んで渡すことができるからね。
「なぁ、それは俺たちの分もあるのか?」
「お弁当ですか?」
「おう!」
詰め寄ってくるエルドラン団長の顔が怖い。
だが、僕は首を横に振る。
「なっ……ぬああああああ!」
突然、大きな声をあげたエルドラン団長は、その場から走って立ち去った。
途中チラチラと僕の方を見ていたけど、エルドラン団長も食べたかったのかな?
でも、一応お弁当として作るつもりだったんだけど……。
「はぁー、多めに作っておくか」
エルドラン団長が少しだけ可哀想に思えた僕は、全員分のトルティーヤを作ることにした。
もうお弁当というよりは、朝食の一品だよね。
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