21 戦乙女、愛の名のもとに
号令とともに砂塵が舞い上がった。
ヴァレリアが一歩踏み出す。魔導兵装のブースターが低く唸り、青い光を放つ。
対するアレクは金の髪をなびかせ、木剣を軽く構えた。
「来い、“戦乙女”!」
ヴァレリアは疾風のように駆け出した。
踏み込み、跳躍。
鋭い一撃がアレクの剣に弾かれる。
金属がきしむ音、火花、そして風圧。
二合、三合と打ち合ううち、観覧席の騎士たちは思わず息を呑んだ。
ヴァレリアの動きはしなやかで、速く、そして美しかった。
華奢な体が放つ連撃はまるで機構仕掛けのように正確で、だが、その刃の軌跡は確かに“人の意志”を宿している。
剣がぶつかり、鍔迫り合いになる。
アレクが息を荒げながら問う。
「なぜ俺を相手に選んだんですか?」
「インパクトがあるからですわ」
「……は?」
「わたくしが勝てば、最も話題になりますもの!」
ヴァレリアは唇の端を上げ、青い瞳を細めた。
アレクは思わず吹き出す。
「ははっ、なるほど、性格がはっきりしてる!」
――そのやり取りに観覧席が笑いに包まれる。
だが次の瞬間。
「ベルゼブブの死の装置なんかに負けるなぁ!」
どこかの騎士の叫びが、空気を裂いた。
――“ベルゼブブ”。
セドリックの、揶揄の名。
ヴァレリアの表情が一変する。
「撤回なさい!!」
叫びとともに、地を蹴る。
彼女の兵装が唸り、魔導エンジンが悲鳴を上げた。
圧縮された蒸気が噴き出し、光が迸る。
目にも止まらぬ連撃。
アレクは防戦一方になりながら、踏み込むたびに後退する。
場内の端でセドリックは制御盤を見つめ、計器の針が危険域を振り切るのを見た。
「……リア!」
声が低く、しかし鋭く飛ぶ。
「リア、それ以上はダメだ!」
ヴァレリアの動きが一瞬、止まる。
その隙を逃さず、アレクが踏み込み、横薙ぎに剣を振った。
――鈍い音。
ヴァレリアの身体が大きくよろめく。
息を呑むセドリック。
しかし、倒れない。
ヴァレリアは歯を食いしばり、膝を折らずに立っていた。
「リア!」
セドリックの声がかすれる。
ヴァレリアは顔を上げた。
目に宿るのは涙ではなく、強烈な光。
「……まだですわ」
力の限り剣を振り上げ、正面から一撃を放つ。
アレクは木剣を交差させ、受け止めた――が、耳障りな音が鳴る。
ピシリ。
彼の剣に、細かな亀裂が走った。
アレクはそれを見て、目を見開く。
――一瞬の静寂。
やがて、彼は剣を手放し、両手を上げた。
「……剣が折れた。――降参だ!」
観覧席から歓声が上がる。
砂埃の中、ヴァレリアは立ち尽くしたまま、深く息を吐いた。
そして静かに膝をつく。
セドリックが制御盤を閉じ、駆け寄る。
白衣の裾が風に翻り、彼はヴァレリアの前で足を止めた。
「リア……」
ヴァレリアは震える唇で笑い、息を整えながら呟いた。
「ご覧になっていましたか、セドリック様」
「はい、最初から最後まで」
彼がそっと手を差し伸べる。
ヴァレリアはその手を静かに取った。




