20 戦乙女、愛を賭して立つ
空は高く晴れ渡り、風は穏やか。
まさに“決闘日和”の朝だった。
訓練場には王国騎士団の旗がはためき、観覧席にはざわめく人々。
陽光が剣の刃のように差し込み、砂地を金色に照らしている。
美貌の騎士――アレク・フォン・リーベルは、すでに場内に立っていた。
きっちりと全身鎧を身に着けている。
相手が女性であっても、魔導兵装を纏っているなら油断はできない。
金の髪が風に揺れ、同僚の声援に白い歯を見せて応じるその姿は、まさに“麗しの騎士”と呼ぶにふさわしかった。
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控室では、ヴァレリアがセドリックの手を借り、静かに魔導兵装を身に纏っていた。
「セドリック様」
「はい」
「お慕いしています」
「……」
――今朝だけで、これが五度目。
セドリックは何も言わず、苦く笑うだけだった。
装着を終えると、セドリックは最終確認を済ませ、ヴァレリアの正面に立つ。
「リア、気をつけて行ってきてください」
「見ていてください。一番近くで」
「整備士として、一番近くにいます」
「そういう意味ではありませんわ」
「……ふふ」
セドリックが笑うと、睨もうと思っていたヴァレリアも思わず口元を緩めてしまう。
そして、ヴァレリアは立ち上がり、セドリックを従えて場内へ向かった。
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魔導兵装を纏ったヴァレリアが姿を現した瞬間、訓練場全体がどよめきに包まれた。
本来の魔導兵装は全身を覆う。
だが、彼女が纏っているのは、通常のメタルプレートを少し大きくした程度。
それはずっとしなやかで、魔導合金が美しく陽を弾いていた。
アレクは目を細め、静かにそれを見つめた。
ヴァレリアは堂々とアレクの前に立つ。
「予告通り、魔導兵装で参りましたわ」
「美しい兵装です」
アレクは大きく頷いてみせる。
「セドリック様のデザインですもの。
美しいに決まっていますわ」
アレクは一瞬黙り、やがて口角を上げて笑った。
「こちらも予告通り、俺も手加減はしません」
ヴァレリアが拳を突き出す。
アレクも笑い、拳を合わせた。
――コツン、と軽い音。
互いに不敵に笑みを交わし、それぞれの位置に戻る。
彼女の背後に控えていたセドリックは、小さく目を伏せた。
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ハルトマン家当主――ガレス・ハルトマンが二人の間に立つ。
場内の空気を一瞬にして掌握し、朗々と声を響かせた。
「えー、それでは、これより決闘を始める!
……ヴァレリア、何を賭けて闘うのだったかな?」
「愛ですわ!」
「そうか! よろしい!
これより、“愛をかけた決闘”を執り行う!
――大怪我しない程度に頑張りたまえ!」
観客席が爆笑と歓声に包まれた。
ヴァレリアとアレクの視線が、まっすぐに交わる。
「――構え!」
砂を踏む音。
青空の下、風が止まる。
一瞬の沈黙。
「――始め!」




