2 騎士団の花形、ベルゼブブを笑う
王国第一騎士団の訓練場に、黄色い悲鳴が響き渡る。
見学に来た令嬢たちの視線は、ただ一人の男に釘づけだった。
花形の第一騎士団でも群を抜く美貌の騎士――アレク・フォン・リーベル。
風に揺れる金髪、陽光を反射する鎧、そして白い歯。
彼が軽く手を振るだけで、令嬢たちはまた歓声を上げた。
一方で、男たちに囲まれている背の高い男もいる。
「次は俺と手合わせしてくれ!」
「お前はさっきやっただろう、ずるい!」
「はっはっは。よくわからんが、じゃんけんで決めよう!」
短く刈り上げた金髪、筋骨隆々の体。
騎士服が悲鳴を上げそうなほど張り詰めている。
彼こそ“ゴリマッチョ”こと、ラインハルト・ハルトマン――ヴァレリアの兄である。
ラインハルトが素振りを始めると、ブゥン、と風が鳴った。
その一撃を見ただけで、若い騎士たちは目を輝かせる。
「ラインハルトさん。俺も手合わせをお願いしてもいいですか?」
美貌の騎士アレクが歩み寄り、真っすぐに言った。
「お、いいぞー。列に並べ」
「はい」
アレクは嬉しそうに笑い、素直に列の最後尾についた。
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「なぁ、やっぱあれはさ……」
「だよな、俺もそう思う」
その光景を見ていた別の騎士たちが、ひそひそと囁く。
「将来の義兄として敬ってるんじゃないか?」
「“戦乙女”はベルゼブブ伯爵には勿体ないもんな。アレクの方が相応しい」
「みんなそう思ってるさ」
彼らは目を見合わせ、にやにやと笑い合った。
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――“ベルゼブブ伯爵”。
それはセドリック・ヴァーミリオンにつけられた、皮肉混じりのあだ名だ。
分厚い眼鏡に猫背、白い肌に沈んだ表情。
温厚な性格にもかかわらず、彼が作り出すのは殺人兵器となる魔導強化兵装。
いつしか人々は、彼を“死を運ぶ男”と呼んだ。
あの“戦乙女”を婚約者に持つことへの嫉妬もあったのだろう。
一部を除き、彼は忌み嫌われていた。
そして、そういう連中は口を揃えて言うのだ。
――戦乙女は、アレク・フォン・リーベルこそが娶るべきだ、と。
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「なぁ、アレク」
ラインハルトの順番を待つ列の中で、アレクの前に並んでいた騎士が声をかけた。
「なに?」
「戦乙女とはどうなってるんだ?」
「どうとは?」
問い返され、騎士は眉をひそめる。
「“どうとは”って……。彼女はお前と結婚すべきって皆言ってるぞ」
「ははは。まさか」
アレクは白い歯を見せて軽やかに笑った。
「戦乙女殿がそれを望んでくれるなら、俺だってありがたく受けるよ。
でもそんな話、聞いたこともない」
「でもほら、戦乙女の相手はベルゼブブ伯爵だろ? 彼女を可哀想だと思わないのか?」
「俺は彼のことをほとんど知らない。とやかく言える立場じゃないさ。
すごい研究者なんだろ?」
「死を運ぶ男だぞ?」
「騎士だって変わらないだろ?」
アレクは肩をすくめ、目の前の騎士の背を軽く押した。
「――ほら、次はお前の番だ。ラインハルトさんにコテンパンにされてこい」
そう言って笑うその姿に、周囲の令嬢たちはまた黄色い声を上げた。




