表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/23

19 戦乙女、想いを告げる


 決闘を翌日に控えた夜。

 ヴァレリアは魔導兵装の最終調整に没頭し、セドリックは静かに机に向かって論文を読んでいた。


 扉がノックされる。

 ヴァレリアが「はい」と返事をして出ると、事務員が書簡を手にしていた。


「セドリック様、こちらにお届け物が……」


 差出人の名が目に入る。


 ――アークメル王国。


「あぁ、ありがとうございます」


 セドリックは受け取ると、ペーパーナイフで封を切り、淡々と読み始めた。


「セドリック様、その手紙は……?」

「隣国にいる僕の師からです。新型兵装の共同研究の話が来ていて」


 ――あぁ、やっぱり。

 ――わたくし、浮かれていたのね。

 ――セドリック様が少し優しくしてくださるたびに、期待してしまっていた。

 ――でも彼を引き留めるほどの力は、わたくしにはまだない……。


「お受けになるのですか?」

「ええ。とても良い話ですから」

「そ……そうですのね」


 耳鳴りがした。

 明日で、一ヶ月の期限が終わる。

 ――彼が遠くに行ってしまう。


 ヴァレリアは唇を噛み、涙をこらえた。

 魔導兵装の前に戻り、指先で装甲を撫でる。


「あの……リア」

「はい」


 顔を上げると、セドリックが机を回って隣に立っていた。

 彼は傍らの胴鎧を持ち上げ、彼女の前に差し出す。


「余計だったかもしれませんが、昨晩、刻印を入れました」


 背の黒い金属面に、繊細な紋章と文字が刻まれている。

 ヴァレリアはそっとそれを指でなぞった。


「“ヴァルキュリア・ギア”――貴女専用の魔導兵装の名です」

「ヴァルキュリア……」

「僕から貴女に、“戦乙女”の名を贈ります。……ご武運を」


 ヴァレリアが顔を上げると、翡翠の瞳に映る光が、やさしく揺れた。


 ――やっぱり、この方が好き。


 ヴァレリアは正面に立ち、彼の両手を取った。


「セドリック様」

「はい?」

「お慕いしています」

「……えっ!?」


 彼の間の抜けた声に、ヴァレリアは眉を寄せた。


「そんなに驚くことですか? この一ヶ月、精一杯、気持ちを表現してきたつもりですわ」

「いや……あれは……その……師としてとか、マスコット的な……」

「伝わっていなかったんですの!? 鈍感にも程がありますわ!」


 ぐっと握られた手に、セドリックが苦笑する。


「いてて……すみません」

「お慕いしています。本当のことです。

 人として、師として尊敬しています。そして――一人の男性として、心から好いているのです」


 セドリックの視線が泳ぎ、うつむいた。


「……こんなに美しい人に、僕なんかが想われるなんて、思わないじゃないですか」

「どうしてそんなに自己評価が低いんですの!」

「……はは」


「少なくとも、わたくしのことを“美しい”とは思ってくださっているのですね?」

「皆がそう言うでしょう」

「周りなんて関係ありません。“貴方”がどう思うのか――それだけが大事ですわ」


 セドリックは静かに息を吸い、翡翠の瞳でヴァレリアを見つめた。

 それでも、その心の奥までは読み取れない。


「わたくしは、貴方を手に入れるために、明日、闘うのです」


 セドリックの瞳が見開かれる。


 ヴァレリアは彼の手を離し、魔導兵装を専用のトランクに丁寧に収めた。


「明日が本番です。今日は早めに上がらせていただきます」

「……はい」


 トランクを持ち、扉の前で振り返る。


「目にもの見せて差し上げますわ。

 ――それでは、明日、第一騎士団訓練場でお会いしましょう。ごきげんよう」


「ご……ごきげんよう」


 パタン、と扉が閉じる。

 残された部屋に、二人分の息遣いだけがまだ漂っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ