18 戦乙女、兄を斬る
「セドリック! 来たぞ!」
いつものように轟音とともに扉が開け放たれた。
「ラインハルトさん、こんにちは」
セドリックは穏やかに挨拶する。
ヴァレリアは冷えた視線を兄に向けた。
「……せめてノックをしてからお入りになっては?」
「え!? なんで!?」
「“なんで”ではありませんでしょう!?」
セドリックは二人のやり取りに、相変わらず柔らかな笑みを浮かべていた。
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「では、リア。訓練服に着替えてきてください。魔導兵装の準備はしておきます」
「はい、セドリック様」
三人は試験場へ移動した。
ヴァレリアは整備室に向かい、セドリックは兵装を台車から降ろして調整を始める。
その背後で、ラインハルトがにやにやと笑いながら声をかけた。
「なぁ、“リア”って呼んでるのか?」
セドリックの手が止まる。
ゆっくりと顔を上げ、瓶底眼鏡越しにラインハルトを見た。
魔導ランプの光がレンズに反射する。
「……えぇ、まぁ」
セドリックはふいに視線を外し、再び手を動かした。
ラインハルトは彼の背中をバシンと叩き、セドリックは少しふらつく。
「あははー! そうかそうか、なるほどなぁ! ヴァレリア、良かったなぁ! お兄様、感激だぞ!」
「ちょ……やめてください」
「うっふふ。義弟よ、君と親戚になれる日が楽しみだな」
セドリックの手が再び止まる。
短い沈黙ののち、低く答えた。
「それは……お約束できません」
「え……?」
「リアが戻ってきました」
「セドリック様! お兄様! お待たせいたしました」
ヴァレリアが駆け寄ってきた瞬間、セドリックは何事もなかったように微笑み、丁寧に彼女へ兵装を取り付けていく。
ラインハルトはその光景を呆然と見ていた。
装着を終えた二人が見つめ合う。
――そこには、確かな信頼と静かな親愛があった。
「……なんでだよ」
ラインハルトは小さく呟いた。
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鎧を着たラインハルトと、魔導兵装を装着したヴァレリア。
二人は木剣を構えて向かい合った。
「いつでもいいぞ!」
「はい! お兄様!」
ヴァレリアは一歩で間合いを詰め、下から切り上げた。
ラインハルトはそれを受け止め、流す。
「重い一撃! さすがだ!」
ヴァレリアの足は軽く、魔導兵装の補助で思うままに動ける。
身を低くして横薙ぎに一閃――
回避したラインハルトの背後に回り込み、剣を突き出す。
木剣と木剣がぶつかり、乾いた音を立てて――折れた。
即座に二人が動きを止める。
セドリックはメモを取りながら呟いた。
「……出力がまだ高すぎますね」
ヴァレリアはもう一本木剣を取り、兄に差し出した。
「お兄様、全力で打ち込んでください」
「え……?」
ラインハルトがぎょっとし、セドリックを見る。
セドリックは無言で頷いた。
「ラインハルトさん、お願いします」
「お、俺は第一騎士団の中でも力自慢の男だ。
妹とはいえ、女性を叩くなんて……」
「それでは試験になりません。
僕たちは――僕たちが作った兵装に自信があります。お願いします」
「“僕たちが作った兵装”……」
ヴァレリアが頬を染め、うっとりと呟く。
ラインハルトは息を吸い込み、剣を握り直した。
「よし……お前らを信じる! 行くぞ、ヴァレリア!」
「はい!」
ラインハルトが一歩踏み込み、全力で振り下ろす。
――ドンッ。
鈍い音が響く。
ヴァレリアの眉がわずかに歪むが、一歩も退かない。
「……立ててる、だと?
この一撃をまともに受けて立っていられる者なんて、騎士団にもそういないのに」
「衝撃緩和レベルは問題なさそうですね」
セドリックのペンが走る。
あまりに淡々とした声に、ラインハルトはぽかんとした。
視線を向けると、ヴァレリアが頬を染め、瞳に涙をためていた。
そして彼女はしゃがみ込む。
「魔導兵装のことになると、無情なほど冷静なところに痺れます!!
ヴァレリアは感電死してしまいます!!」
「……ヴァレリア……我が妹ながら、本当に気持ち悪い」
ラインハルトがぼそりと言い、セドリックは苦笑を浮かべた。




