17 戦乙女、覚醒する
ツインフォーカスに、青白い光が映り込む。
魔導溶筆の先が細く輝き、最後の回路を結ぶ。
――カチリ。
スイッチを切り、魔導溶筆を机に置いた。
ツインフォーカスを外し、最後の蓋を閉める。
ヴァレリアは小さく息を吐いた。
「完成しましたね」
背後からの声に、ヴァレリアは振り返る。
穏やかな笑みを浮かべたセドリックが立っていた。
彼から贈られた基盤コアを組み込み、ついに試作一号が完成したのだ。
二人はそれをケースに収め、台車に載せて実験場へ向かった。
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整備室に入り、ヴァレリアは一人で着替える。
新しく仕立てた訓練用の装束は、乗馬服を基調に、体に沿うラインを意識したもの。
その上から魔導兵装を装着しても動きを妨げない。
高く結った金の髪が背に揺れる。
両手を胸に当てて、静かに息を整えた。
――大丈夫。何度も計算し直した。
――パーツも一つひとつ丁寧に削った。
――一カンマの狂いも、ないはず。
「大丈夫。……自分を信じられなくても、セドリック様は信じられるわ」
深く息を吐き、整備室を出る。
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実験場では、セドリックがすでに準備を整えていた。
ヴァレリアは彼の手を借りながら、兵装を身に着けていく。
「……思っていたより重いですわね」
「そればかりは、魔導兵装の宿命です」
セドリックが苦笑し、ヴァレリアも微笑む。
「もしもの時は僕が制御します。遠慮せず、思い切り動いてください」
「はい」
ヴァレリアは一歩踏み出し、走り出した。
一歩目は重く、二歩目からは羽のように軽い。
一周しても息が乱れない。だが、止まるときだけは難しく、何度もつんのめってしまう。
セドリックは彼女の動きを観察しながら、淡々とメモを取っていく。
次に木剣を取る。
本来の魔導兵装は武器を内蔵する設計だが、「剣を扱うための兵装」は今回が初の試みだった。
極限まで軽くし、身体強化を目的に設計されている。
試験台の丸太を前に構え、
――一閃。
空気が震えた。
セドリックもヴァレリアも、顔を青くする。
真っ二つに割れたはずの丸太は、そのままの形を保ったまま。
ヴァレリアが軽く押した瞬間に、音もなく崩れ落ちた。
――切れすぎる。手応えがなかった。まるで何も触れていないみたい。
ヴァレリアは息を飲み、セドリックを振り返る。
「セドリック様……これは……人が死にます」
「……僕も、失敗したなと思いました」
そして、彼はふっと笑う。
「まさか貴女がここまで剣を扱えるとは! あははっ……出力を落としましょう。ふふ」
「笑いすぎです!」
「すみません。でも……予想外すぎて! あははは」
セドリックの笑顔につられて、ヴァレリアもつい笑ってしまう。
「次は、ラインハルトさんに協力してもらって模擬戦をしましょう。
その方が調整しやすい」
「はい」
魔導兵装を外し、ヴァレリアは髪を払った。
金の髪が陽光を受けて揺れる。
セドリックはその姿をまぶしそうに見つめた。
「“戦乙女”という呼び名は、言い得て妙ですね」
ヴァレリアがきょとんと彼を見る。
「そ、それはどういう意味ですの?」
「美しいと思った、という意味です」
ヴァレリアは両手で顔を覆い、そのまましゃがみ込む。
「うわぁっ! 尊い!!」
セドリックはもはや慣れたもので、苦笑を浮かべながら手を差し出した。
彼女はその手を取って立ち上がる。
だが、セドリックが手を離そうとしても、彼女は離さなかった。
「ん?」
「……この試作一号の結果が、まぁまぁ良かったら……伝えたいことがありましたの」
青い瞳が、真っすぐに彼を射抜く。
「なんでしょうか?」
「……“リア”とお呼びください」
セドリックの眉がわずかに上がる。
「リア嬢?」
「“リア”です」
「……リア」
ヴァレリアの頬が一瞬で紅に染まり、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ……くすぐったいですわね」
セドリックは目を見開き、すぐに顔を逸らして小さくため息をつく。
それを見て、ヴァレリアはこっそりと唇を噛みしめた。
――やっと、一歩近づけた気がする。




