15 戦乙女、設計図を引く
「やはり、男性とは体の構造が根本的に違いますね。
全身兵装を作るとなると、一から設計する必要がある……。一ヶ月では間に合わないかもしれません。
ヴァレリア嬢、“決闘”ということは相手は、剣を持った騎士が一人という認識で間違っていませんか?」
セドリックは椅子に深く身を預け、足を組み、手にした測定票をじっと見つめていた。
白衣の袖口から覗く手首、思考の合間に落ちる沈黙。
ヴァレリアは向かいに座り、その姿を食い入るように見つめていた。
――う、うわぁ……。セドリック様は魔導兵装について考えるとき、足を組まれるのですね。
初めて見ましたわ……大人の色気があふれております……! 鼻血が出そうですわ!
「ヴァレリア嬢?」
「……はっ! は、はい! そうです! 相手は剣を持った騎士、お一人ですわ!」
「今更ですが、剣術の経験は?」
ヴァレリアは設計図で顔を隠した。
「実はそれなりにできます。父と兄にしごかれておりますので……」
「なるほど。それは安心しました」
セドリックの穏やかな笑みに、ヴァレリアの頬がじわりと熱を帯びる。
彼は手元のメモにさらさらと要件を書き込んでいく。
「では、一番男女差の出る胴回りの兵装は、衝撃緩和のみのシンプルな構造にしましょう。
鎧に薄い魔導プレートを仕込む形にすれば軽量化できます。
経験者なら、重さより機動性のほうが重要でしょう。
本格的な魔導兵装は腕と脚だけ作る。それなら短期間でも理想に近づけます」
「はい!」
「この数値と元の設計図を参考に、改めて図面を引けますか?」
「やってみます!」
「……よろしい。やってみてください」
---
描き上げた設計図を両手に持ち、ヴァレリアは数字を見直した。
息を整え、向かいに座るセドリックをちらりと見る。
彼は魔導溶筆を手に、小さな基盤に回路を繋いでいた。
ツインフォーカスの銀のレンズ越しに、淡い光が反射する。
彼の手が止まり、魔導溶筆のスイッチが切られる。
静寂。
両手でツインフォーカスを外したその瞬間――
「うっ……!」
ヴァレリアがうめき声を上げ、セドリックが肩を震わせた。
「ど、どうしました!?」
彼が慌てて眼鏡をかけ直す。
机に突っ伏したヴァレリアが震えていた。
――典型的な“眼鏡を外したらイケメン”ですわ!
危険です! 虫が寄ってきます!! どれだけ要素を盛り込むおつもりですの!?
「本当に……どうされました?」
ヴァレリアは起き上がり、視線を落としたまま設計図を両手で差し出した。
「お、お願い申し上げます!」
「……はい」
セドリックは少し困惑したように微笑みながら図面を受け取り、丁寧に読み始めた。
ヴァレリアはその横顔を見つめた。
だが、思考を振り払うように頭を振り、別のパーツの計算を始める。
時計の歯車の音が、静かな室内に響く。
ペンの走る音。
セドリックの指先が「コン」と設計図を叩く。
彼は図面を手に取り、静かに机を回ってヴァレリアの横に立った。
「この数値、もう一度見直してください」
「はい」
ヴァレリアは歯を食いしばり、再びペンを走らせた。
「設計図を描くのは初めてですか?」
「いえ、見習い部屋でいくつか描きました」
「そうですか。……もうそこまで任されているのですね」
彼はわずかに笑みを浮かべた。
「とてもいい線を引いています。作業も速い。正直、驚きました」
ヴァレリアが顔を上げる。
穏やかに微笑むセドリックの姿があった。
「出来上がりが楽しみですね」
ヴァレリアの唇が震えた。
――その微笑み! ……わたくし、死んでしまいます!!




