表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/23

15 戦乙女、設計図を引く

「やはり、男性とは体の構造が根本的に違いますね。

 全身兵装を作るとなると、一から設計する必要がある……。一ヶ月では間に合わないかもしれません。

 ヴァレリア嬢、“決闘”ということは相手は、剣を持った騎士が一人という認識で間違っていませんか?」


 セドリックは椅子に深く身を預け、足を組み、手にした測定票をじっと見つめていた。

 白衣の袖口から覗く手首、思考の合間に落ちる沈黙。

 ヴァレリアは向かいに座り、その姿を食い入るように見つめていた。


 ――う、うわぁ……。セドリック様は魔導兵装について考えるとき、足を組まれるのですね。

 初めて見ましたわ……大人の色気があふれております……! 鼻血が出そうですわ!


「ヴァレリア嬢?」

「……はっ! は、はい! そうです! 相手は剣を持った騎士、お一人ですわ!」


「今更ですが、剣術の経験は?」

 ヴァレリアは設計図で顔を隠した。

「実はそれなりにできます。父と兄にしごかれておりますので……」

「なるほど。それは安心しました」


 セドリックの穏やかな笑みに、ヴァレリアの頬がじわりと熱を帯びる。


 彼は手元のメモにさらさらと要件を書き込んでいく。

「では、一番男女差の出る胴回りの兵装は、衝撃緩和のみのシンプルな構造にしましょう。

 鎧に薄い魔導プレートを仕込む形にすれば軽量化できます。

 経験者なら、重さより機動性のほうが重要でしょう。

 本格的な魔導兵装は腕と脚だけ作る。それなら短期間でも理想に近づけます」

「はい!」

「この数値と元の設計図を参考に、改めて図面を引けますか?」

「やってみます!」

「……よろしい。やってみてください」



---


 描き上げた設計図を両手に持ち、ヴァレリアは数字を見直した。

 息を整え、向かいに座るセドリックをちらりと見る。


 彼は魔導溶筆マギ・ソルダーを手に、小さな基盤に回路を繋いでいた。

 ツインフォーカスの銀のレンズ越しに、淡い光が反射する。

 彼の手が止まり、魔導溶筆マギ・ソルダーのスイッチが切られる。


 静寂。


 両手でツインフォーカスを外したその瞬間――


「うっ……!」


 ヴァレリアがうめき声を上げ、セドリックが肩を震わせた。

「ど、どうしました!?」

 彼が慌てて眼鏡をかけ直す。

 机に突っ伏したヴァレリアが震えていた。


 ――典型的な“眼鏡を外したらイケメン”ですわ!

 危険です! 虫が寄ってきます!! どれだけ要素を盛り込むおつもりですの!?


「本当に……どうされました?」

 ヴァレリアは起き上がり、視線を落としたまま設計図を両手で差し出した。

「お、お願い申し上げます!」

「……はい」

 セドリックは少し困惑したように微笑みながら図面を受け取り、丁寧に読み始めた。


 ヴァレリアはその横顔を見つめた。

 だが、思考を振り払うように頭を振り、別のパーツの計算を始める。


 時計の歯車の音が、静かな室内に響く。


 ペンの走る音。

 セドリックの指先が「コン」と設計図を叩く。


 彼は図面を手に取り、静かに机を回ってヴァレリアの横に立った。

「この数値、もう一度見直してください」

「はい」

 ヴァレリアは歯を食いしばり、再びペンを走らせた。


「設計図を描くのは初めてですか?」

「いえ、見習い部屋でいくつか描きました」

「そうですか。……もうそこまで任されているのですね」


 彼はわずかに笑みを浮かべた。

「とてもいい線を引いています。作業も速い。正直、驚きました」


 ヴァレリアが顔を上げる。

 穏やかに微笑むセドリックの姿があった。


「出来上がりが楽しみですね」


 ヴァレリアの唇が震えた。


 ――その微笑み! ……わたくし、死んでしまいます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ