13 戦乙女、師を得る
翌日。
王立魔導工廠・第二実験棟。
セドリック・ヴァーミリオンの個室ラボでは、彼がデスクに腰かけ、ヴァレリアが隣に置いた椅子に座ってその横顔を見つめていた。
「一ヶ月で魔導兵装を作りたい……?」
セドリックが眼鏡の奥からヴァレリアを見て、眉を下げる。
「……無謀でしょうか」
「材料は揃っていますし、理論的には不可能ではありません。自分で設計したいのですか?」
「……それは、まだ無理です。でも、極力自分の手で作って、自分の力で纏いたいのです」
ヴァレリアは膝の上で指を強く組み、俯いた。
「そもそも、“決闘”とは何のことです?」
セドリックの穏やかな声に、ヴァレリアは顔を上げる。
真正面から翡翠の瞳と目が合い、頬が熱く染まった。
――なんて美しい瞳なの! わたくしの目が潰れてしまいますわ!!
「ガーデンパーティーで……」
――貴方が私に相応しくないなんて言われて、悔しかったのです。
――魔導兵装の素晴らしさを、あの人たちに見せつけてやりたいのです。
「ガーデンパーティーで?」
――どうお話しすれば伝わるかしら……?
ヴァレリアが俯いて黙り込むと、セドリックは椅子の向きを変え、彼女の正面に座り直した。
「何か、嫌なことを言われたのですか? あるいは、されたのですか?」
いつもより低い声。
驚いて顔を上げると、真っ直ぐに見つめられ、ヴァレリアは思わず息を止めた。
――射抜かれてしまいますわ!!
「……わたくしのために、怒ってくださるのですか?」
「当たり前ではないですか」
即座に返された言葉に、頬がじわじわと赤く染まり、口元が緩む。
慌てて両手で口を覆った。
「……分かりました。お手伝いします」
セドリックは立ち上がり、鍵付きの書類棚を開けた。
目当ての設計図を取り出し、中を確認して小さく頷く。
そして、ヴァレリアに向き直った。
「貴女の監督官には僕から連絡しておきます。
明日からはこの部屋に通ってください。
私物があれば、今日のうちに運んでおいてくださいね」
――この部屋に通う!?
――つまり、日中は二人きりということですの!?
――わたくしの命、もちますの!?
「これが、僕のこの国での最後の大仕事になるかもしれませんね」
設計図を見つめながら、セドリックが小さく笑った。
「えっ……」
ヴァレリアはぎゅっと目を閉じ、首を左右に振る。
――欲しいものは自分で手に入れると決めたのです!
――ショックを受けている場合ではありませんわ!
勢いよく立ち上がる。
「解消はしませんわ!」
「え?」
「荷物を取ってまいります! これからお世話になります! よろしくお願いいたします!」
一息にまくし立て、ヴァレリアは早足で部屋を出ていった。
「ちょっ……ヴァレリア嬢?」
セドリックが手を伸ばしたときには、すでに扉は閉まっていた。
残された彼は小さくため息をつき、手元の設計図を見下ろした。
「……彼女の思うままに造らせてみよう」
――彼女は、理由を話してくれなかった。
きっと本当に嫌なことをされたんだ。
――それなら、深くは聞くまい。




