白く...暗く.........どこまでも
雪の混じる突風に押し飛ばされる。幾本の木々にぶつかり、その度に半ばからへし折れる。その繰り返しが続いく中、突如風が止む。ようやく地面に足を着くことができ、周囲を見渡した。どれ程飛ばされたかも分からず、真っ白な景色に1人残される。
憂泉玖の実力であれば魔術が起きる前には結界を張り切り防げるだろう。だが、魔術を扱えるはずがないという確信、詠唱の見逃しその2つが重なり、それはかなわなかった。
憂泉玖は自身についた無数の木屑を払いのける。
ここまで強力な魔術を杖無しで使えるなんて───あり得ないのです...。ん...、寒さで感覚が鈍って気配を感じられないのです...。
それもそのはず、ここ一体の気温は先の魔術により氷点下を遥かに下回っていた。常人であればこれだけでも普通に即死なのだ。普段であれば憂泉玖も防寒効果のある魔術を扱うが、ミネラがどこに居るのかすら確認できない現状で扱うのは得策では無い。
不意に自分の息が荒くなった様に感じた。寒いから息が上がり始めたのかと思い、周囲を改めて警戒しようとしたその瞬間視界が揺れた。それが意識を失う直前だったのだと気づいたときには既に───全てが終わっていた。
実際、ミネラが行ったのは目の前に近ずき、顎に拳を掠めるただそれだけだった。その所作にどれだけの技術が込もっていようが...この森の中で起きた戦闘は地味で静かな結末を迎えた。
◇◆◇◆◇◆◇
「───オルフェルン右から飛んでくる瓦礫を防いでください。」
城壁の上、レンガで出来た床が粘土細工の様に捻り曲がっており、石や土埃が上へ落ちていく。この世ではないと、一瞬感じられる程に魔術を知ってるものですらありえない光景が、そこに広がっていた。
そんな中焦りの含んだ声が老婆から放たれる。なにせ、瓦礫と呼ぶには大きすぎる、家程の大きなレンガが3個もこちらに向かって飛んできているのだから。
命令を受けた黒いローブの少女は、自身の身長と同等の長さを誇る長杖を手繰り、先端を地面に突き刺した。すると、地面が鮮やかな緑の光を放ち、太く逞しい巨大な茎が、傍目から見ても呪いを宿しているとわかる黒くおぞましいモヤを纏い育つ。それは無数の枝をレンガに突き刺し、己が纏った呪詛によって溶かす。
その後ろに佇んでいた少女ヌイカが何かに気づいた様子で1枚の布を編み出す。
「オルオル...目...塞ぐよ?」
その優しい声とともにオルフェルンの視界を遮る形で黒いベールが優しく括り付けられる。
「ありがとう、ヌイ。」
そのベールに込められた術式と意図を瞬時に理解し、気づかってくれた相棒に感謝を告げる。
普段ならその感謝の言葉だけで感極まるヌイカだが────
視界.....塞ぐ...でも…幻覚...以外...防ぐ.....無理。
オルフェルンにかけたベールと全く同じものを少し遅れて、自分にも括り付ける。
突然周囲の空間がより歪に曲がり変わる。彼等の立っている足場は上下左右に起伏し、空間の屈折率が変わったのか太陽が水彩画の様に空に滲みだす。極めつけに 、空に落ちていた瓦礫があらゆる慣性を受け飛び交い始める。
その中のいくつかが彼等の元に向かうが───
「『突狼』」
「『飛閃』」
青い炎のようなものでできた数頭の狼が、そして真っ赤に光る炎撃がそれらを瞬時に掻き消す。
「ユンばあ、これじゃキリがないよ!?」
戦闘中の魔法使いの中でも、一際小さく幼い少年が老婆の横に降り立つ。その少年は弱冠16歳で『魔人』となり、その身に1つの『制約』を刻んでいる。少年は城壁での戦闘が始まってから参加した彼等にとって最後の援軍である。
「そうですね。風音、『秘術』は使えますか?」
風音と呼ばれた青い澄んだ目が特徴の少年はビクッと肩を揺らした。その後、自信なさげに老婆の方を見てゆっくりと頷き返す。
「リヴィト!!貴方と風音を主軸として編成し直します。」
老婆が叫ぶ。
真っ赤な剣を振るい、リィリィの分身を今しがた1人消し去った赤い騎士が老婆の声を聞き彼女の元に向かう。
「良いけど...チャージまで1分ぐらいかかりますよ?」
赤い騎士が隣で佇む老婆に告げる。
それを聞いた老婆は飛んでくる瓦礫や、数人の分身に牽制の為の強大な魔法を放ちながら、お得意のそろばんを弾き始める。
────────仕方ありませんか──綱渡りではありますが、そろそろ決着をつけなければあとが面倒ですしね。
計算を終えた老婆は耳につけていた魔道具を作動させる。
(傾聴!!役割と編成を再編します!!)
その魔道具を通して、戦っている魔法使い全員へ一括で指示を飛ばす。
(『曇轟』、『晶染』、『縛樹』、『蓮某』はリィリィの分身に対して、大魔術を中心とした魔力と集中力の削ぎをお願いします。残りの方々は御二方の護衛をお願いします。)
指示を貰った魔法使い達が、すぐさま動き出す。
それに呼応して10数人にも上るリィリィが、それをさせまいと個々で動き出す。
少年が手を上にかざす。すると空にステンドグラスの様な雲が浮かび、幾つもの黒くそしてどこか幾何学的な雷が空を割って、魔女に目掛け乱れ落ちる────
怪しげな緑色の光を帯びた金平糖のようにも見える水晶の塊が、無数に飛び交い、それら1つ1つが城壁をも溶かす光線を保有し撒き散らす────
少女が長杖を地面に立てる。その下から幾本もの植物が生え花を咲かす。その花からは、呪いを含んだ花粉が霧の様に散布される────
どこからともなく現れた黒いゴスロリを着こなした人形は、街を瞬時に消滅出来る程のエネルギーの塊を胸の前に生み出しリィリィに向けて放った────
ここまでしても…効果はありませんか……。
リィリィ達は幾つもの魔術を組み合し、綺麗にそして軽やかにそれら全てを対処する。全ての魔術が、どれだけ威力を誇ろうが、技術が高かろうが、世界一の『魔女』の前では等しく届くことなく散っていく。
あまりにも差が激しい。『魔人』に常識が通じないことは...今さら知った訳では無いですが…それでもあれは────
「─────あ!?ユンばあ!?そろそろ使うよ?」
幼さの残る少年の声が老婆に何度も放たれる。自身の思考に飲まれ、周りを見ていなかった事に気づき───
「え!?あ、はい、お願いします。」
間抜けな返事を送る。老婆の合図を受けた少年は、空をめがけて一直線に飛び上がる。ある程度の高度が取れると、腰に下げた短剣を正面に突き出す。
その様子を眺めた老女は────
今は目先のことと分かっていても...羨ましいですね 。
そんな老婆の羨望など露知らず、短剣を構えた少年は、リィリィに向けて『秘術』を扱おうとする。が───
──────ここで外せば皆が
ほんの一瞬、不安が頭をよぎる。その一瞬の不安が、恐れが───幾つもの在りし日の記憶を呼び起こす。
駄....目だ……手が震える...声が出ない......。
「────行くよ?オルオル!!」
「うん!!ヌイ、一気に決める!!」
─────え?
そんなとき聞こえてきた声が、少年をほんの少し現実に引き戻した。声の方を向くと、真っ黒なドレスを着た少女が、巨大な鎌を振り下ろしていた。その鎌はリィリィの分身細切れにしていた。だが、それを含めても一際目立っているのは、ドレスを着た少女の後ろに佇むヌイカという名の魔道士だ。
あいつ...もっとオドオドしてて、声が小さい根暗じゃ?
◇
魔術ごと斬られた?
同じ状況、全く違う観点で驚く人間がもう1人居た。
「やるじゃん!!オルフェルン、ヌイカ!!」
リィリィが嬉しそうに笑いながら、観察する。オルフェルンの呪いをヌイカの人形に付与した..?それだと...あれは説明出来ない...かな?
少女を模した人形は、まるで生きている様に表情を変化させながら、大きな鎌を振り上げる。
あれはやば───
人形の正面、1人のリィリィがその鎌の危険性を見てとり、回避行動をとる───が、それよりも早く鎌が振り下ろされる。それが分身の最後だった。
少し離れたところで見ていた別のリィリィはその黒い人形の少女を眺め、観察していた。
明らかに『私』を狙ってる...動きだね。あの2人が賭けにでること事態驚きだけど…それに────
「『廊狼』のカバー...かい?それにしては、動きに少し焦りが見えるけど…。」
そしてまた別のリィリィが人形を操ってる少女達に声をかける。どうしても気になった。この2人がお互い以外の為に賭けに出るというイメージが皆無だったから。
「別にアイツのためじゃ無い。」
はっきりとした声が辛辣に返す。
無理して、トラウマを刺激してまで戦う必要なんて…無いんだから。
「ふ〜ん。」
その様子を眺めていたリィリィが斬られてしまった分身を補充していく。
まぁ...確かにあの様子じゃねぇ...。
ちらりと空に浮かんでいる少年を見たそのとき───
「あっぶな!?」
大きな丸鋸がリィリィの真横に落ちる。
「2人目!?」
丸鋸の出所を目で辿ると、少しデザインの違うドレスの少女がいつの間にか姿を現していた。2人目の人形から距離をとる。そこで城壁から降りたリィリィから、いくつかの情報が脳に流れ込んでくる。
「ヌイカ、オルフェルン...いつから.....着けてないの?」
突然放たれたその言葉に2人は驚いた顔をする。気づかれ無いように細心の注意をはらった。普段と何1つ雰囲気が違わないように。あの2人がそれを知ったら───
「ミネラに....2人の様子が...怪しいって.....言われたから見に来たけど...取られたの?『指輪』。」
2人から反応は返って来ない...だが、その沈黙が答えだった。
1秒も満たないその一瞬.....殺気が漏れ出る。
◇
「─────風音!!なにをやっているのですか?」
老婆の厳しい声が、空に浮かぶ少年に投げかけられる。老婆は知っている、あのとき風音がなんと言ったのか、何を成したいと決断したかを故に────
「あなたは、私にもう外さないと言いましたよね?あなたは、もう外さないと誓ったのでしょう!?なら───」
「撃って証明しろ、まずはそこからだろ?」
少年の頭に老婆とは別の、声が響く。今亡き師が告げた言葉に彼はようやく突き動く。
『秘術』それは異常なまでに強い渇望が生み結んだ、『呪い』や『契約』といった力を魔術と合わせた秘奥の術。
少年が構える短剣の先端、そこに青く輝かしい炎が集束していく。
「捉え離すな───『■■■■』」
無数の青い狼が短剣から放たれる。その炎には”もう二度と外さない”その渇望、決意が刻まれている。故の効果は『必中』───その炎に刻まれた理不尽は、その炎に纏われた人間に対してへの攻撃にも適用される。
「リヴィト!!」
すぐさま老婆が合図を送る。絶対的火力を誇る赤い騎士───それを受けたリヴィトはリィリィに青い炎がまとわりついているのを確認し終えると、腰に下げた剣のなかから焦げ目が付き所々溶けている異様なソレを選ぶ。鞘から真っ白な刀身が覗く────その白が全ての光を暗く黒く堕として行く。
◇◆◇◆◇◆◇
「今回の『灼』は綺麗だね!!」
城壁の上、その中で戦地から離れた位置にある監視塔、その屋根の上には、1人の少女が腰を掛けていた。足をばたつかせ、無邪気な子供そのものの様に笑っていた。
漆黒の髪、異質な程に白く美しい肌、髪色と同じゴスロリ、そしてこの暗闇の中でも光って見える宝石のようなピンクと水色のオッドアイ。あまりにも現代には似つかわしいその異様な容姿の少女。だが、その後ろに佇む2人の『魔人』は当たり前の事のように少女と同じものを眺めている。
「暴れて落ちないでね───師匠?」
暗く、容姿こそ見えないが、声からして女性なのだろう。1人が声をかける。
「心配性が変わってなくて安心だー。」
その忠告なんて知らないと言わんばかりの返答に、はぁ、とため息が2つ重なる───
三連休半ばの夜中に投稿...狂ってるんですかね?どうもすろ〜です。今回、眠いなか書いた上に慣れない表現を幾らか使ったので日本語が変なところ多々あると思います。もし、もし良ければコメントやレビューで教えて貰えたらありがたいです。
ここで、本編に少し触れましょう(話の脈絡は学んでないので知りません)。人は必ずしも己の中心に成したいことがある訳ではありません。中心にソレがあったとしても成すことができない人、成す力があってもそれを活用できないそんな人もいます。今回の話では、そんな人間が2人出てきました。
外さないという願いを叶える力があっても...過去がそれを扱うときに枷になってしまった少年。
どれだけ生きて、どれだけ周りから評価されようと...本当の願いを叶えられない■■。
彼等はきっとこれからも様々な苦悩が、希望がそして絶望と共に生きるでしょう。そんな彼らを少しでも見守っていただけると幸いです。
それでは最後に、今回も小説を読んでくださりありがとうございました。読んでくださる方がいるその実感が私にモチベを与えてくれます。本当にありがとうございます。それではまた次回お会いしましょう。
最後の3人...誰なんでしょうね?




