Ⅱ 2023年6月7日 図書室で作戦会議。
「柴崎くん、例の件、お兄さんに言ってくれた?」
小坂がペンを回しながら言う。この言葉が俺の胸元にパンチを食らわす。その痛みがじわじわと後になるにつれて痛い。
この学校は、月一回、テスト週間を除いて、登校日の中で部活がない日が定められている。俺たちはこの日を、水島を救うための作戦会議に当てることにした。万が一、情報を聞かれてはいけないということで、図書室の中にある倉庫で作戦会議をすることにした。
「ダメだった…ごめん」
小坂と悠護の顔を恐る恐る伺う。
「まぁ、仕方ない。私も、そうなると思っていたから」
「仕方ないよ。未来から来たって、信じてくれる人の方が珍しいよ。でも、一人ぐらいは大人の味方が欲しい。確実に裏切ったりしない大人。だから、匠のお兄さんがやっぱり俺たちには必要だと思う」
悠護の意見に大賛成だ。
この目的を達成するためには、俺たちの力だけでは不可能だ。本当はタイムリープをしている俺達だけで何とかしないといけない。でも、出来ることが限られている。
信用できる大人の力が必要だ。
「私もそう思う」
小坂も、悠護の意見に納得していた。
二人は優しかった。俺が協力を得られなかったのを全然責めたりはしなかった。
でも、俺達だけで、水島の悲劇を防ぐことは、出来ない気がする。犯人が分かったとしても、どうすればいいのか。水島と犯人を近づけなければいいのか。12月22日に水島を死から守ったとしても、犯人はその後、水島を殺しにかかるかもしれない。四六時中、俺たちは水島の側にいるわけではない。水島を殺そうとしている人間に対して、俺たちに何ができるだろうか。水島をあの日、屋上から突き落とした犯人、殺意を抱いている奴を突き止める。
そして、その後はどうすればいいのだろう。
一 警察に言う。
二 犯人に直接釘を刺す。「水島を殺そうとしているのなら、辞めろ」
三 水島に話す。
どの選択肢も、信じてもらえる確率が限りなく低い。何言っているんだと冷たい視線が送られることだろう。やはり、一番信用できる、刑事の兄ちゃんをどうにかして味方につけるのが、俺たちにとって最善策である。
「でも、どうやって兄ちゃんに信じてもらえばいいのだろう」
皆で思考を巡らせていると、いつの間にか空気が沈黙と化す。
その静けさの中、どうすればいいのか答えを出そうとしていた。
すると、ドアがカチャと開く音が現れる。
誰だろうとドアに視線が向いていた。
「新井くん、お疲れ様です。あれ、そちらのお二人さんは?」
「委員会の仕事、手伝ってもらっているんです」
「そうなんですね。本を探すの手伝ってもらいたかったのだけど、忙しいなら仕方ないです」
「手伝います」
まったく驚きを顔に映し出さず、静かに立ち上がる悠護。
「いいんですか? ありがとうございます。新井くん」
俺に発せられたわけではないのに、この空気に触れているだけで、なぜだか体が硬直していく。それは、水が氷になっていくかのようだった。
「悠護、大丈夫?」
五分ぐらいして、悠護が戻ってきた。ということは、摂津校長が図書室から出ていった。
摂津校長が図書館にいる間は、俺と小坂は一言も発さず、体は得体の知れない感情に苛まれ硬直しているのに、それと裏早に、心の中はお湯が沸騰するかのようにグツグツと言って鍋から溢れ出しそうになっている。こんな感情初めてだ。
「うん」
悠護の顔が、少し険しい表情になる。
「でも、一周目のこの日は、図書室に校長が入ってくることはなかった。そもそも校長が本を借りに来ること自体なかった」
「どうして、分かるの?」
「生徒が貸し出し記録に、名前、本のタイトル、貸出日を書くように、教員も貸し出し記録をつけるようになっていて、教員は一年を通しても、本を借りる人が少ないし、俺もその記録を確認していたから。卒業前に図書室に置いていた荷物を取りに来た時も確認したけど、なかった」
「じゃあ、なぜ、校長が図書室に来たのか」
手を組みながら、首を傾げる。
「たまたまなのか、何か勘付いたのか」
「でも、僕の考えだと、タイムリープしてきたことで、何かが変わることは珍しいことではないのかもしれない。だけど、僕たち慎重に行動した方がいいのかも」
「俺もそう思う。今日はとりあえず、学校を出て、どこかで作戦会議の続きをしよう」
このまま学校で作戦会議を続行させるのは危ないと判断した。
「分かった」
その提案に二人は乗っかり、そして、喫茶メトロへと向かった。
――水島はいったい何を抱えているのだろう。




