Ⅱ 2023年6月1日 穏やかな日常がこのまま続けばいいのに。
今日は、『パステルライド』の六巻の発売日だった。部活を終えてから、最初から水島と本屋に買いに行く約束をしている。
校門の所で自転車を止めて、水島が来るのを今か今かと待つ。
「お待たせ! 部活お疲れ様!」
部活を終えた水島が手を振りながらやってきた。その姿に、胸の鼓動が高まる。
「お疲れ、行こうか」
咳払いをして、いつも通りの表情へと戻す。
「うん!」
本屋があるショッピングモールまで、約十分の道のりを歩く。
「テスト、どうだった?」
俺は、学生がよく会話のネタにするテストの話を出す。
「まぁまぁかな。でも、皆と勉強したおかげで、苦手な現代文の点数が上がっていた」
「俺も、前回より点数と順位上がっていた」
「おぉ、すごいね。良かったね。勉強誘ってくれてありがとう」
「おぉ、期末も一緒にやろうな」
話していると、ショッピングモールに着き、自転車を置いて、本屋がある三階へと向かった。
『パステルライド』六巻を購入し終わり、本屋を出た後、自転車置き場に向かい、水島を駅まで送る。
沈む夕日を眺めながら、横を歩く。無理に言葉を交わしてなくても、気まずいとは思わなかった。むしろ、一緒に時間を共有しているこの時間が心地よく感じる。
「私、柴崎くんと仲良くなれて嬉しい」
心臓が急に飛び跳ねる。水島がポツリと呟く。そして、俺の目を見て、花が綻ぶような笑みを注ぐ。
「急にどうした?」
「驚かせてしまって、ごめん。でも、かけ離れた世界にいて、皆に好かれている柴崎君と仲良くなれると思っていなかったから。『パステルライド』という作品がこの世界にあって本当に良かった」
心が少しずつ温かくなる。
「何か、照れるな。でも、俺も水島とこうやって、たくさん話せれるの嬉しいや。ありがとう」
俺もいつの間にか本音の中の一部分を零していた。
カーブミラーに映った自分を見て、頬がいつもに増して赤く感じた。
これは、きっと、夕焼け空のオレンジが頬に反射しているのだ。
「こちらこそ、ありがとう」
「ところで、文化祭、近づいているよな」
話題を変えることにした。
「最後の文化祭だね。美術部も、文化祭が終われば、引退だから少し寂しいかも」
「そうか。俺もサッカー部としていられるの、夏休み前までだからな」
「あっという間だね。引退したら、受験勉強頑張らなきゃな……」
「だな、頑張ろうな、お互い」
もう駅に着いてしまった。
「じゃあ、また来週」
「うん! じゃあね」
「み、水島……」
駅に向かって二、三歩、足を進めていた水島が、振り返る。
何言うか一切頭の中に浮かんでもしていなかったのに、無意識に呼び止めていた。
「何か悩んでいることがあったら、俺に相談して。直接じゃなくてもいいから……」
「ありがとう。でも、今は大丈夫。じゃあね!」
水島はそう告げで、駅へと再び足を進めていた。




