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第四話   『頭巾の少女』


「礼を言う。呪縛を解いたのはお前だろう?」

「いやぁ……、今回ばかりはマジで死ぬかと思ったぜ。アレフの脚の件も含めて、本当にありがとな‼」


 【泡沫】の解除を行い、断たれた俺の右脚を元通りにして見せた細身の人物。

 俺たちはそんな命の恩人に対して向き直ると、揃って感謝の言葉を並べた。

 その人物は赤銅色の外套を着用し、頭部を濃緑色の頭巾で隠していたため、その表情まで窺うことは出来なかったが。


「礼には及びません。賊には私たちも悩まされていましたから。寧ろ討伐していただいたことに此方が感謝を述べる立場です」


 そう言う恩人の声は高く清らかで、女性であることが推測できる。

 しかし私たち、か……。彼女(仮)は何か特殊な立場の人間なのだろうか。


「言いたくないなら言わなくてもいいが……、何故こんな所に一人で居るんだ?」


 魔物蔓延る洞窟の中で女性が一人。別に堅気の人間でないなら良くある話なのだが、目の前の彼女からそのような雰囲気は感じ取れなかった。 

 

「――私、こう見えても冒険者をやっていまして。帝都に急ぎの用があるのです」


 俺の率直な疑問を受け取った彼女は一瞬の逡巡を見せた後、口を開いた。

 まあ、冒険者と言うのは十中八九嘘だろうが、これ以上詮索する訳にもいかないのでスルー。俺は話題を変えようと、己が懐へと手を伸ばし――。


「そうか、ならこれを使うといい。『ベルガモ』が登録してある」


 緑色の結晶体――、『転移結晶』を彼女へと差し出した。

 『転移結晶』とはその名の通り、特定の場所(一度訪れ登録した場所)へと転移する術式が込められた魔道具である。

 その利便性ゆえに高額で、製作者や原理は不明という胡散臭い代物ではあるが。


「い、いえ。それでは、あなた方の帰る術がなくなってしまいます。それに何度も言いますが――」


 『転移結晶』を差し出された彼女は、戸惑うように断りを入れる。しかしその様子は、本心から拒絶している訳では無さそうだった。


「これはスペアだから、全然気にしないでいいよ。それにお礼としちゃあ全然足りてないしさ」

「他にも何か、協力できることがあれば言ってくれ」

「――そういうことなら、貰っておきます。ですが、それで結構ですので……」


 根負け、彼女はそう言って結晶を受け取ると、これ以上話すことはないとでも言わんばかりに、一歩後ずさった。


「そうか……。では、俺たちは先を急ぐ」

「じゃあな‼ いつかまた礼をさせてくれ‼」


 結構と言われてしまっては、これ以上干渉することもないだろう。

 俺たちは彼女と軽く挨拶をして別れると、再び洞窟を進むために歩き出す。 

 

 と――、その直後。背後から、意を決したような声で呼び止められた。


「あのっ――‼ あなた方はこの後、どちらに向かわれるのですか⁉」

「オーラヘイム。リヴァリエ殲滅戦に参加する」


 振り向き、俺が短く告げると、彼女は僅かにその顔を俯け――。


「そう……、ですか。では――、互いの旅路に幸有らんことを」


 それだけ言い残して結晶を割ると、緑色の光にその身を委ね消えていった。

 フードから垣間見えた彼女の頬には、一筋の涙が伝っているようにも思えたのだが、それは俺の気の所為だっただろうか。




                 *




「アイン、どう思う?」

「どうって?」


 彼女と別れた後――、俺は気付けば、アインにそんなことを尋ねていた。


「さっきのフードのことだ。明らかに尋常じゃない」

「命の恩人をフード呼ばわりすんなよ……。まぁ、不可解っちゃ不可解だったけど。喋り方も上流階級のそれだったし……。でも、名のある貴族様が没落するなんて、良くある話だろ?」


 思いの外真面目なアインの返答に、それも一理あると思考。 

 戦乱の世たる現代において、権力者が落ちぶれるケースなど珍しくはない。戦争における敗北、民の蜂起など理由は様々だが、兵士の戦力も都度変化する関係上、権力の維持も容易ではないのだ。


「気付かなかったか? 彼女の頭巾は「認識阻害」のスキルを模倣した魔道具だ」

「え、マジ? 良く見てんなぁ、お前」


 一見地味な被り物にしか見えない彼女の頭巾であったが、その布地には術式の痕跡――、小さな魔法陣が見受けられた。

 とは言え、彼女との邂逅が余りにも衝撃的であった所為で、殆ど効力を成していなかったようだが。


「んー……。じゃあやっぱ、お偉いさんかその娘ってとこか? 長持ちするタイプの魔道具って、相当値ぇ張るもんな」

「それもそうだが……、身柄がバレたらマズいということだろう」

「あぁ、そうじゃん。悪ぃ悪ぃ、失念してたわ」


 舌を出してそんなことを宣う相棒に嘆息、しかし切り替えて思考を巡らせる。

 金銭的に余裕があって、身柄を隠さなくてはならない存在。そうなると、候補は大分絞られてくるように思えるが――。


「なぁ、もしかして彼女が王女様――、ってことはねぇよな……?」


 俺の思考を遮る――、いや、俺の思考に重ねるようにして。

 アインが恐る恐ると言った様相で、そう問い掛けてきた。


「無い、とも言い切れないぞ。彼女が権力者の娘だと仮定すれば、目的は間違いなく亡命だろう。であれば、リヴァリエの王族か貴族である可能性が高い」

「いや、だとしても護衛の一人も連れてないなんて、おかしくないか?」

「そうだな……。だからこそ、図りかねているんだ」


 フードの人物=権力者の娘と仮定した時に、最も不可解な点が護衛の不在。亡命という観点から大所帯にならないことを考慮しても、一人ということはまずあり得ないはずなのだが。


「まぁ何にせよ、亡命してくれてるんなら良いけど……」

「同感だ。俺も恩人を殺めたくはない」


 明らかに異質な雰囲気を醸し出す、フードの人物――。


(本当に目的が亡命なら良いが、あるいは……)



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