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プロローグ 『白黒の傭兵』


『キャアァァアァァ――⁉』


『クソっ……、間に合わねぇ‼』


 魔物と人間の咆哮が入り乱れる、混沌とした戦場の中心部。

 弱き者は淘汰され、強き者が全てを得る弱肉強食の世界で。


 一人の少女の悲鳴が、虚しく鳴り響いていた。

 彼女のパートナーは魔物からの足止めを食らい、一歩も動けない状況。

 それ即ち、必定の死。


『ギャオォォオォォ――‼』


『いや――、いやっ‼』


 対を成す頭と、硬い鱗に覆われた皮膚が特徴の魔物――『双頭竜人(ツイン・リザードマン)』は、這い蹲る少女へと手に持つ湾刀(サーベル)を振り翳す。

 既に逃げ場は無く、彼女は戦う気概を失っている。


 絶体絶命の、絶望的な状況。

 また一人、哀れなる犠牲者が出ようとしていた。

 刹那――。


『ガギィィイィィン――‼』


 突如として現れた一つの影が、竜人の放つ剣尖を(すんで)の所で停止させた。


『ぅぇ――?』


 泣きじゃくり蹲っていた少女は、ゆっくりとその顔を上げる。

 何故か訪れぬ〝死〟。その真相を、確かめるために。


「下がっていろ。狩りの邪魔だ」


 軽く振り返りながら。少女の前に立ち塞がるのは、一人の美丈夫。

 絹糸の如く透き通った銀髪に、全てを見通す琥珀色(アンバー)の黄眼。

 均整の取れた肢体を白の戦闘服バトルスーツに包んだその姿は、宛ら戦場に舞い降りた戦乙女(ヴァルキリア)のようで。


 そして、彼が手に持っていた瑠璃色の片手直剣(ロングソード)を振るうと、まるで果物が切れるかの如く、竜人の身体は真っ二つに切り裂かれた。


『グァァアァァ――!?』


『グォォオォォ――!?』


 左右でやや趣の異なる竜人の断末魔を耳にしながら。

 返り血に染まる銀髪の美丈夫は再び振り返ると、その口を開き――。


「……無事か?」


『は、はい……』


 何とも無機質なトーンでそう尋ねた。

 声すらも美しい、彼という完璧な存在に、少女は思わず頬を赤らめる。

 と、それから少し沈黙が続き、


『ほ、本当にありがとう。って、あ、アンタは……〝白猟犬(ホワイトハウンド)〟⁉』


 もう一体の竜人を屠ったパートナーの男が、礼と驚きの声を上げながらやってきた。

 いや、その表現は的確ではない。

 何せ竜人を倒したのは彼では無く、彼の隣に居る人物であるのだから。


「まーた、先行きやがって。まあ、命二つ拾えたんだ、文句はねぇけどさ」


 男の隣、そう言ってニヤリと笑うのは、長身の青年。

 深淵の如き黒髪に、藍玉色(アクアマリン)の碧眼。

 痩躯を黒のロングコートに包んだその姿は、宛ら漆黒の魔導士と言った所だろうか。

 彼もまた容姿は整っているのだが、滲み出る軽薄さが玉に(きず)だ。


「なら黙ってろ、アイン」

「ハッ、相変わらずだなアレフ。その女ったらし振りもよぉ」


 黒髪の青年は、銀髪の美丈夫と彼の隣でもじもじと指を突き合わせる少女を認めると、口笛を吹きながらおどけるようにそう言った。

 だが、すぐにその碧眼に真剣な色を宿すと、尚も続けて――。


「でも、あんまし無茶すんなよ。命あっての物種なんだからさ」

「説教はいい。俺たちは今日を生き抜いた、唯それだけだ」


 白黒の傭兵――『アイン』と『アレフ』。

 彼らは〝白猟犬(ホワイトハウンド)〟と〝黒山羊(ブラックゴート)〟の二つ名で畏怖される、大陸屈指の傭兵コンビだ。


 だがそんな彼らでも、この世界を生き抜くことは難しい。 

 小国家の乱立から、常に争いが絶えないというのも要因の一つであるが、それ以上に深刻なのは――。


 この世界が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるということだ。


お読みいただきありがとうございます。

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