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第十話 「新天地の翼」 ~淑女の協定~

 素晴らしい朝食を終え、珈琲を淹れて、ゆっくりしつつ、今日の行動予定を考える。


 朝食後のまったりとした時間……

 アメリも、コーヒを飲みながらガレージの方を興味深げに、いろいろ見て回っている。昨日はそれどころではなかったので、改めて見聞しているのだ。

 下半身は相変わらず裸のままである……さすがにシャツは着ていたが。


 二人共、ずいぶんリラックスしていたのだろう。

 家に、接近する気配に…気付かなかったようだ。


 がちゃ

 入口の扉が開いた。



「おはよ~う、リヒトいる~?」

「リヒトく~ん、おはようございま~す♪」



 はっ!?

 アメリと僕は入口を振り返る。

 そこには、朝の爽やかな空気を纏った、ティさんとエレさんが立っていた。


 !!!!!


「ひゃあ~~!!」


 アメリは悲鳴を上げて胸を隠すような姿勢で、あわてて二回の部屋に駆け上がる。


「なんか、かわいいお尻が……」

「走っていったわねぇ……?」


 ア、アメリ!

 やばい……!!!


 隠す……?いや、できるわけがない。

 思いっきり、お尻を見られてしまった。


 動転した僕は、取りあえずお尻を隠さねばと、干してあったアメリのぱんつを掴んで二階に駆け上がった。


 どたどたどた……ばたんっ


 二階のドアが閉まる。

 ……何やら言い争っている声がする。


 入口で、顔を見合わせる二人。

 ……にや~り


「これは…」

「間違いないわねぇ♪」




 ──────────




 テーブルを囲んで、四人が向き合っている。

 新たな来客の前には、()()()としてフリード・トーストが差し出されていた。


「──やっぱり一緒に住んでる子、居たじゃない。」

 エレさんはそう言って可笑しそうに笑っている。

「リヒトくんも、隅に置けないわねぇ♪」

 そう言って、にこにことしているティさん。


 僕は、いつもより縮こまった姿勢で、恐縮している。

 アメリはというと、少し緊張した面持ちで二人を見ている。


 怖がっているのではない。

 その表情は、まるでウォレス教官に相対したときのような、憧れと尊敬の念を抱いていた。


 ……ちなみに下半身は裸のままである。


 さすがにそれではあんまりなので、タオルを腰の上に掛けていた。

 残念ながら、まだ乾いていなかったぱんつは、再び風にそよいで窓辺に干されている。


「い、いえ……住んでるわけでは……。」

 僕が控え目に否定すると、

「いえ、お邪魔したのは昨晩が初めてでした。」

 アメリは、はっきりと……まるで上官に報告するような姿勢だだ。


 少し変な雰囲気も感じたが、ティさんは全く意に介さず、

「あらぁ、そうだったの?」

 それから、慈愛に満ちた表情で、

「………じゃあ、念願叶って、ていう感じかしら?」

 そう尋ねていた。

 そして、相変わらずにこにこしている。


 背筋を伸ばしてアメリは答える。


「はい、…分団ではずっとお世話になっていましたし、私のこれまでの感謝と、気持ちを伝え、そして……、その……」


 そこまでいうと、何故か急に勢いが失速して背中が丸まり始めた。頬が赤くなっている。


 ふふふっ、と笑って可笑しそうにエレさんが見ている。

「……連れ込まれたんだ?」

 エレさんが後を接いだ。


 へー、とティさんが感心したような感じで話す。

「じゃあ、アメリちゃんの方から誘ったのね?」


 あ、そっかぁ…、と

 そんな感じでエレさんは、ティさん、アメリ、僕と視線を巡らす。


「あ、いえ…ちゃんと、連れていくよっ、て言ったのは…僕の方で……!」

 慌ててそこは否定する。

 アメリをそういう目で見てほしくない、という思いがあった。


 しかし、ティさんは、

「それくらいでいいと思う。」

 うんうん、と何か決意のようなものを秘めた表情で、大仰に頷いた。

 エレさんも、同意したように、うん、と頷く。


 これは、どうやら……、女の人の見解は少し違ったようだ。


「前から思ってたんだけど、なんか女の主張が軽んじられてないかなって。……別にいいじゃない?女から誘ったって。」

 エレさんが、そう言って意見を足す。


「そうよねぇ、ここまで本人の意思を尊重して解放までしておいて。女から誘うのはけしからん、っていう部分はずっと残ってるでしょう?……この風習なんかおかしいなって。」


 ドルイド族は元来、性事に女から積極的に求めるのは、はしたない。…という概念がある。女がいなければ始まらないのに、である。


 これは、性を解放し、出生率の低下が深刻化し、お頼み文化がこの地方で広まり、魅入られが始まり、男の欲求が貴重となった今でも──である。


 ある意味、男の欲求が貴重になった現在ではそのお陰で、男を求めて女が争う、という混乱の発生を抑制しているとも言える。が、そのずっと前の段階で廃れていてもおかしくなかった概念でもあるのだ。


 あくまでも、意識、風習としてである。規則ではないのだ。

 だが、性を解放したからこそ、却って節制を置くために、あえて選んで残した考え方なのかもしれないとも思っていた。

 強すぎる欲望はいつの時代でも身を滅ぼすものだ。


 だが、性に積極的なこの二人は、そこに疑問も持っていたようだ。

 だからこそ、表向きは僕のお頼みを一度断っておいて、もう一度待ち伏せする、という大胆な行動にも出たのかもしれない。


 それでも、一線を越えるときは、必ず僕の要求を待った。

 それが彼女たちなりの、節制の示し方なのかもしれない。


「そ、そうですよね…?!実は私も……ずっとどうしようか困ってて……。」


 アメリも、そんな事を言い出す。

 ……そんなに前から、僕に気持ちが向いていたのだろうか。

 だとすると、僕はどうしようもない朴念仁だということになる……。


「思い切って…お風呂に誘わなかったら……、ここには…呼んでもらえなかったかもしれない…ん…です。」


 声が少し震えている。

 今の状況が、努力だけではなく幸運の産物でもあることに、彼女は少し恐怖さえ感じているようだった。


 エレさんが、アメリの手をそっと握る。

 その表情はとても優しい。


「よかったわね……、抱いてもらえて。」

「…はい。」

 アメリは、はっきりと頷いた。

 頬を染めながらも、少し嬉しそうな表情をして。


 エレさんがちらりとティさんに目配せした。

「ちゃんと()()()()したのね♪」

 うふふふ、とティさんは微笑んでいる。


 ……さりげなく言質をとったのかもしれない。



 ………………



 それから、少し和やかな雰囲気になり、珈琲を飲みながら、みんなでお話をしている。


 アメリは改めて、二人の大事な人の間に割り込んでしまった、ということを謝罪していたが、……エレさんはエレさんで、先に手をつけちゃってごめんね、とアメリに詫びていた。


 ティさんは微笑みながら、

「──貴重な男性資源ですもの、みんなで分けあって頂かないと。」

 と、そんな事を言っていた。


「でも、……ティちゃん昨日摘まみ喰いしたでしょ?」

 ちょっとからかった感じでエレさんが言う。


「あれは~……」

 ……言われたティさんは、珈琲カップで口許を隠しながら、目をそらして、


「エレさんが()()()()~、…おうちに押し掛けた時の分ですわ~♪」

 そんな事を言い返す。


 う……、といった感じで目が上を向き、エレさんも珈琲カップを口に運ぶ。


 アメリがおずおずと、二人に問いかける。


「……じゃあ、私も時々は……リヒトさんを、頂いてもよろしいんでしょうか?」

 ……頂かれてもよろしいんでしょうか、僕?


「ええ」

「もちろんよ」

 二人は事も無げに肯定した。


 この三人は今、淑女の協定によって結ばれたのかもしれない──。


 あ、でも……

 そう言って、少し真剣な表情でティさんが申し添える。


「……隠し事はしないで、ちゃんと教えてくださいね?」


「はい、必ず」

 アメリはそう言って首肯した。


「アメリちゃんなら大丈夫だと思うけど。……その、あたしたち…そういうの()()()()()()から。」

 エレさんはそう言って、少し済まなそうな顔をした。


 二人の持つ、癒しの力のことだろう。

 この二人の能力は、……並ではない。

 きっと、精神の内側の気配まで仔細に感じ取ることができるのだろう。


「そうよねぇ……、だから、別に他に女の人がいたっていいけど、隠れてされると……ちょ……っと、腹が立っちゃうかもしれないから♪」


 ……それは、本当にちょっとなのでしょうか?


「……リヒトも」


 え?


 こちらを見て、年上の女性らしく諭すような表情で言う。


「他に欲しい女がいてもいいから、…ちゃんとあたしたちにも知らせるのよ?……女は女で、()()()()が必要なんだから。」


 …………

 今のところその予定はない。強いて言えばアメリの母…という人だろうか。


 だが………

 確かに、自由だから好きにしていい、ということは決して無いのだ。

 そこには事情があり、現実があり生活があり……想いもあるだろう。


 だからこそ、相手はちゃんと考えて慎重に選ばなければいけない。

 この三人に、きちんと向き合ってもらえるような、そんな誠実な人でなくてはいけない。それは心に刻んでおこう。


 この三人がいてくれれば、これまでのように、お頼みする相手を必死に探す必要も無くなるかもしれない。

 いつか……、離れていってしまう、その日までは。


「──隠れてこそこそされるのって、なんであんなに腹立つんだろうね?」

 エレさんが文句を言う。


 ……なんか、実感を伴った言い方だ。

 過去にそういうことがあったのだろうか。


「あれは~、信用されてない、って感じちゃうからかしらねぇ…」

 ……ティさんにもご経験が?


「あたしは、そういうの分からないですけど……、たぶん……傷つくと思います。」

 アメリもそんなことを言う。




 うん、沢山の女性に囲まれるって、……きっと大変なことです。




 ……………

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