第一話 「孤独の翼」 ~邂逅~
こちらは全年齢版です
【※この話の前に、Rパートシナリオが存在します】
ミッドナイトノベルズにて公開中です。(R18注意)
全年齢版のみでもシナリオは把握できます、ご安心下さい。
……三人は、お頼みの行為を終え、体の熱を解いてゆく。
彼女たちにも満足してもらえてるとよいが。
「またすぐ誘ってくれるんでしょ?」
そう言っていたずらっぽく笑った。
冗談めかして言ってはいるが、たぶん、…いや確実に本気だろう。
目が少し熱を帯びている…。
「え…と、えぇ、もしいいんでしたら…」
そう答えたら、
「はい、決まり~♪」
「約束…ね」
二人とも本気だった…。
あ、と声を出して、エレさんが小物入れの籠を持ってくる。
三人の端末を入れて戻ってきた。
「連絡先、交換しちゃおうよ」
エレさんが提案してきた。
なんと、それほどに踏み込んでくるとは……。
これは、どう対応するべきか。
癒しだけなら、そういうことも有りかと思っていたが、「お頼み」というのは基本的に一期一会だと思っていた。
しばらくして偶然再会することはあっても、同じ人に、二度三度と続けて頼むというのは、あまり健全ではない関係を感じさせる。
そうでないというのなら……。
まるで交際や結婚に向かっているようではないか。
会ってくれるというなら、やぶさかではない、いや、嬉しいといっていい。
嬉しいはずだ、はずなのだが……。
────
我々ドルイド族は、絶望的なまでの出生率の低下を受け、
解決を目指して新たな社会概念を生み出すに至った。
性からの解放、親子からの解放、家族からの解放……。
そこまで束縛を排除しておいて、結婚制度だけは旧来のままなぜか残っている。
ワーキングファミリーや組織加入、そういった方法論もあるなかで、結婚という制度だけは、社会的な有利不利、合理性のようなものではなく、特別な関係ということがことさら強調される。
今や、結婚制度で得られる特典や優遇措置は全て他の制度で代替可能となっている。
───言ってみれば、必要の無い制度だ。
だからこそ特別な契約だ
そうとも言える。
合理性ではなく、もっと精神の深いところ、
その繋がりを公的な制度でもって証明する……
考えるほど謎な制度だ。
かつての人類は、何を思い、何を求め、
何を目指して結婚という方法を選んだのか。
そして、今なお残るこの、古からの契約は、
我々に何を伝えようとしているのだろうか。
────
なにかが足りない、何が欠けているのか。
……仕事、そうだ!
仕事に必要だったから、行きたくもない診療所へ行き、癒しを受けた。
もとはお頼みで、精神力を補給していた。
全ては仕事のため、何より飛ぶためにそうしてきたんだ。
癒しと、お頼み。
両方受けられるなんてことは今まであまりなかった。
むしろ、癒しが受けにくいからこそ、今までちょっとした出会いでも一生懸命お願いしてきた。
……代替行為だったはずなんだ。
「あ、やっぱり……そういうのは、止めておいた方がいい、かな?」
一瞬の迷いだったはずだが、逡巡が顔にでてしまっていたのだろうか。
エレさんは戸惑ったような顔で、急に遠慮したようなことを言い出す。
楽しくて嬉しくて、童心に還ったような無邪気さまで見せていた大人の女性に、冷や水を浴びせてしまったような、……猛烈な罪悪感に襲われた。
「ち、違うんです!こういうの、あ、どう言ったらいいんだろう…っ、あぁ…」
極度に焦りしどろもどろになってしまう。
「い、嫌とかじゃなくて、……いいのかなって。普通、癒しを受けた相手にそれ以上に執着っていうか、しつこく関係求めるの、変態っぽいというか……。」
「いいのよ、別に…無理しなくたって……。」
エレさんは、だいぶ…怒った、いや傷ついたのだろうか。拗ねたというよりは、諦めたような、後悔したような表情が混じっている。
「ほらほら~、ちゃんと言うこと言わないから~♪」
ティさんは、僕の肩に手を乗せながら、また無責任なことを言ってからかってくる。
でも、何て言えば…
「えと、れ、連絡先、教えてください…!」
まずはそこから、と思ってエレさんに言ってみるが、
「もういいって…、診療所来ればまた会うこともあるだろうし…」
それでは患者と癒し手、としてだろう。
違う!そうじゃない、そういうことじゃないんだ…!
彼女は、ほぼ冷めた顔で、顔を背ける。
だけど僕だってそこまで究極的に鈍感な訳じゃない、視線をおとしたエレさんは寂しそうじゃないか、それはわかってるんだ。
後ろで、ふぅ~っと深いため息をついて、ティさんが僕の肩に顔を乗せて、割りと真面目に困ったように低く言う。
「お頼み、って、こういう時良くないわよね~……。一度きりの触れ合わせなら許される、みたいな風習。……都合良いかもしれないけど、女の気持ち軽く考えてないかしら~……?、誰が考えたのかしらね。」
「……男は空飛んでれば満足なんでしょ…」
エレさんも同調したように言う。
そういったところも含めて、もっと話し合いたいんだ、僕は…!
そう言えばいいのか?
「あー、心配しなくても、診療所来たら、また施術はしてあげるから…。」
あぁ……、ついにエレさんは僕に気を遣うような表情までしてしまった。
「もー!」
ティさんは怒っている?!
そして、耳元に手を添え、救いの一言を囁いてくれた。
「(あの時…、どうして名前聞いたの?)」
………!
「…また逢いたいです…、逢ってほしいから、もっと…エレさんのこと知りたいから…。」
逢いたいと思ったからだ、もう一度、いや何度も。
診療所の癒し手としてじゃなく、お頼みの相手としてでも、…ないと思う。
普通に話す相手なんて、今までいたことがなかった。
…けど、この人は、きっとなにか違うんだ。
僕にとっては邂逅だと思った。
「……」
エレさんは無言だ。
でも頬が染まっている、目を閉じて唇をむにむにさせている。
しばしのち、
無言のまま彼女は端末を向けてきた。
良かった…
まだ彼女と繋がっていられるんだ。
そう思った。
認証ボタンを押すと、通信IDのほかに住所と勤務スケジュールまで付いてきた。
「あ…これは、消した方がいいですよね?」
連絡するなら通信IDだけで充分だ、住所まではさすがにまだ性急すぎるだろう。
そう思って聞いたのだが、
「あ、いいの。用がある時は直接来て。勤務時間以外は家にいると思うから。」
「エレさん、通信嫌いだもんね~。」
ティさんが愉快そうに言う。
「顔見えないのがヤなの!怒ってんだか泣いてんだか分かんないじゃない!」
と不満を漏らす。
だから通信は仕事専用、とエレさんは言い置いた。
「まあ、これで呼んでもいいけど、…たぶん出られないと思うよ、作業中とかは切ってるし。」
ティさんも籠の中から端末を手に取り、「はい」と言って僕に差し出してくる。
見るとこちらにも住所が付いている。
「えと、…これも家ですか?」
一応、認証前に聞いてみる。
「これはね~、私の秘密基地♪」
秘密基地?家ではないのか。
隠れ家的な何かだろうか
「これは誰にも言ってないから、外に出しちゃダメよ。」
と、注意してきた。
「あー、例の農場の?」
とエレさんは聞く。どうやら彼女にだけは教えてあったらしい。
「そう」
ティさんは肯定し、ふふふ~、とこちらをみて微笑んでいる。
いずれ、見てのお楽しみ、ということだろうか。
まだまだ話したいこと聞きたいことがあったが、そろそろお開きにしないといけないだろう。
共同利用の湯場に鍵をかけて占有しているのだ、あまり好ましいことではない。
本来は開放して使う共同浴場なのだから。
次回もお楽しみに
書き溜めてある分が残っているうちは、毎日更新予定です。(時間は不定期です)
なお、この物語は、
法律・法令に反する行為、および、現代社会においての通念上好ましくないとされる行為を容認・推奨するものではありません。