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第九話 「分団の休日・契の翼」 ~翼たちの慰労会~

「酒買ってきたぞーっ!!待たせたな!」


 カンプさんの声が響く。


 おーー!!

 と、ハンガーの一団から歓声が湧く。


 いつもの第四分団屯所、そのハンガー。

 シャッターは開け放たれており、心地よい日差しが差し風がそよいでいる。

 装備の飛行舟たちも、その機体を磨き上げられ、美しい姿を見せて並んでいる。


 そしてなにより……今日は、珍しく分団員全員が朝から集合している。

 だが、……緊急招集ではない。


 村内の他の分団にお願いして、今日と明日、第四分団は完全なお休みをいただいているのだ。

 ──本来は…そんなことはできるはずもないのだが、今回だけは特別である。


 先週、我々第四分団の代表として航空技術審査会への参加を果たしてきた、カンプ、リヒト、アメリの三人は、その全員が見事、上位入賞を果たすという快挙を成し得たのである。


 今日と明日はそのお祝いと慰労を兼ねて特別に分団の全員を全休という破格の待遇にしてくれたのである。そのため、全休一日目の今日は全員で食事を囲んで労いの会を開こう、と相成ったのである。

 他の分団は驚きながらも不満は無いようだった。なにしろ実績が実績である。


 ちなみに、酔っ払った帰りは他の分団が送迎まで引き受けてくれるという、夢のような待遇まで用意されていた。

 そのため、普段は送迎役であるアメリやリヒトも今日は大手を振って飲むことを許されている。


 さらに、件の事件では大きな闇を斬り払い、その過程で空中救難という、とてつもなく難易度の高い救助方法まで成功させていたのである。


 ……にも関わらず、政務がごたごたしていたせいで、いつもなら…ほぼ必ず出るはずの三等小勲章さえ届いていない。…上位組織はそんな有様なのである。もちろん、報奨も…「よくやった」の一言すらも無く放置されている……。

 いずれは軍から直接にでも届くであろうが、一ヶ月前の件の纏めすらできていないという状況に、他の分団員は…とても気を揉んでいたらしい。

 流石にこの状況に関しては、やっぱ上位組織が政務って最悪だわ…、という自警団全員の一致した感想が聞こえていた。


 そういうわけで、そんな諸々を全て区切るための、今日の日である。



 ……………………



 イバタが、珍しく上機嫌な顔で音頭を取った。


「それでは、皆様…盃を持って──」


「女神のご加護に……感謝を…!」

「「「「感謝を!!!!」」」」」


 全員が高々と酒を掲げる───。



 ごく…ごく……ぷふぅ。

 久しぶりに飲んだが、……これは旨い。

 リヒトは仕事場で飲む酒を久しぶりに味わっていた。


 アメリが鍋をかき回しながら、声をかける。

 くつくつと煮立つ鍋には、大きな角切り肉がいくつも入っており、野菜も彩りを添えている。


「煮込みできてますよー。どうぞー!」

「「おお、食う食う」」

 そう言って男どもが手に皿を持って集まる。


「こっちも焼けてるぞ~、どんどん持ってけ!」

 そういってマルタが、腸詰め肉と固まり肉のスライスを焼きながら、周りの男に押し付けるように振る舞う。


「漬け物無かったか?」

 酒を片手にハセンが聞くと、

「あ、開けてなかった……あります!今出しますよ~」

 と誰かが答える。

「魚も用意してあるから、バランスよく食べてよ~」

 サルボが隣で魚を手際よくさばいている。

「さすが外科医!!」

 誰かがそれを茶化している──。


 それぞれが思い思いの皿を持ち、誰もが楽しそうな顔を浮かべて、食べ…呑み…語らっていた。



 しばらくして、誰かが審査会当日の記録が載った冊子を持ち込み、それを見ながら当日の談義となっていった───。


「──なんだ、結局9型部門に参加したのって……4人だけだったのか?」


 冊子に4人分のスコアしか掲載されていないのでそう思ったのであろう 。


「いえ、30人くらい参加してましたよ。」

 リヒトがそれに答える。

「……ん?どういうことだ…?」


 続けてカンプが当日の状況を補足した。

「それねー……。結局…4人しか完走できなかったんよ。あとはみ~んな、棄権か失格……。」


「「「「はぁ?!」」」」

 と皆がおどろく。


「タイムがまともに計測できたの、僕らの他に2人だけだったんです……。」

「だからまあ……、俺の技能賞は……オマケみたいなもんだけどな。」

 そういって自虐的に笑うカンプ。


 コースがシビアすぎるという事もあったのだが、普通のコースでは9型以外でもタイムが出てしまう……。

 そこがこの機体の、色々扱いづらいと言われる所以だろうと思っていた。

 一握りの上級者でなければ、その性能の高さに気づかないかもしれないほどなのだ。

 

「アメリは…乗ってみなかったのかい?9型」

 珍しくノリの軽いイバタが聞いている。


「あ、終わってから少しだけですけど、乗せてもらいました。リヒトさんの隣に。」

「操縦は、しなかったのかい?」

「……えーと、ちょっとだけ、副操縦士席で操縦桿握らせてもらいました。」

 はにかんで、更に少し酔いの入った赤い頬で、嬉しそうに答えている。


 すると、興味を満った団員が聞いてくる。

「お!どうだった、どうだった?」

「うーん、…すごく~なんというか~、……速度が出てないと敏感すぎる感じはありました。それ言ったら、リヒトさんが、後ろの主翼(セカンダリウイング)を閉じてくれたりして。あたし複葉ってあんまり乗ったこと無いんですけど、みんな…あんなシビアな感じなんですか?」


 すると、マリノが経験豊富な感じで6型の感想を言っていた。彼も、団員の入賞を聞いて駆けつけてくれたのだ。もちろん、研究協会のみんなも後押ししてくれてのことである。


「いやぁ?そんなこと無いよ。6型とか…古い輸送機もそうだけど、結構もっさりしてるというか。ゆ~ったり飛ぶ感じだねぇ。」


「──あ、でも速度出たら…とたんにちょうどいいというか、安心感が出るんですよね!空気をつかむ感じがガッチリしてて。」

 アメリが思い出しながら感想を重ねていく。

 誰かが、複葉の感覚はどれも独特だよね、と言っているのが聞こえた。


「あー…、乗ってみたら4型とか6型の複葉の感じと全然違うんだよな。あいつらはどっしりしてるっていうか、あからさまに重いもの積むための翼って感じだけど。…9型の複葉って空気を切り裂いて咬み込む感じの翼なんだよな。」


 カンプも乗ってみての感想を並べてみている。

「かなり薄く作ってるって言ってましたね。あと6型系より翼面積減らしてるとか…」

 リヒトが教官に聞いたことを伝える。


「……パワーの方は…どうなんだ?」

 寡黙なガーミンも前のめりになって尋ねている。空戦技術に優れる彼も、噂の機体に興味が止まらない感じのようだ。


 するとカンプが待ってましたとばかりに、


「おう!すげえ、の一言。なんか倍くらいパワーあんじゃねぇかってくらい。……仕様書見た感じだと3割弱くらいしかアップしてないんだけどなぁ。」


 教官が苦心したと言っていた部分である。

 単純な推進機の出力アップではなく、外形の抗力低減や空力で出力を稼ぐことを念頭に、各部設計を煮詰めていった、と言っていた。


 それをリヒトが説明する。

「その辺は、軽量化と機体全体の整流と気流の最適化で実現してるって言ってました。」


「かぁー、すごいなぁ…!」

 と感心しきりなのはマルタである。メカニックマンとして、細かなところに精通してる分、この凄さの度合いが解るのだろう。


 カンプも重ねて聞いてくる。

「リヒト、あの後、ゼロ発進から音速やってみてたよな?」

「はい、えーっと…、だいたい…7秒半くらいでしたね。」


 とはー…!

 げぇ!

 すげぇ!

 など、驚きの声が上がる。


「全開加速だと、操縦桿握ったままでも1秒くらいで脚が離れるんですよ。で、全開で3秒以上滑走すると車輪が燃えるんで、やるなって言われました、明日も使うからって。」


「もう…、まるっきり別の機体みたいだな」

 ハセンが感想を漏らす。

「あ、でも背面見ると…うちの2型と同じパイロンとか、ゴツい荷掛フックとかついてて。そこはしっかり汎用偵察機のままなんだなーって、ちょっと可笑しかったです。」


 リヒトが愉快そうにそう伝えた。

 すると、ヨギが、


「なら、特9型でも草刈り作業車が搬送できるなぁ」

 そんな冗談を放った。


 わっはっは!

 それだー!

 できるできる!


 みんなが大笑いをする。

 しかし、冗談ではなく…勿論可能なのだ。

 性能が向上しているだけで、出来なくなったことは一つも無い。

 乗員だってちゃんと6人乗れる。

 それが、特9型という飛行舟なのである───。




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