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第四話 「想いの翼」 ~温泉民族~

この星に流れ着き、人口が劇的に減ったことで、I-Tailが理論として系統立てて学ばれ世に知られるようになったただけで、もともと使っていただけのもの、なのだ。

それを、目にも見えず感じることのできない地球人が欲しがったところで……、確かにどうにかなるようには思えない。

「香で語る」ことのできる地球人は、そう多くはないのである。


だが、安易に手渡していいものでもない事は確かである。


その為、ガレには評議会からの「護衛」が付いているのだ。

リヒトにはその事は話してある。

他ならぬリヒトがガレに近づいたために知ることになったのだが、──それはまた別な話である。


今住んでいる家は、普通の一軒家であり、周辺環境も相まって護衛がやりにくい、ということだそうだ。

そこで、評議会から転居の打診があったのだそう、である。


そこまでは、リヒトも知っていたのだが、次の住まいの場所や、護衛の詳細などについては聞いていなかった。


「そこ曲がって。」

分かれ道に差し掛かったとき、そう言われて、道を外れる。


舗装路から、未舗装の道に入ったところで、何故か見たことのある建物に出くわした。


「あ、あれ?!…これって……」

リヒトは驚いて思わず車を止めてしまった。


ガレはふふふっ、と笑って、

「気がついた?ここに移設したの。」

そう言ってのけた。


その建物は、リヒトが出張でこちらに来る度に利用していた、あの湯場の建物であった。所々、新しい部材で補修してあるが、間違いなく見覚えのあるあの建物である。


どうして…?と思ったが、ガレに、

「そこ入って、建物の脇。」

そう言われて車をゆっくり動かしていく。


建物の横には奥に続く手入れされた道があり、その少し奥まったところに、真新しい山小屋風の建物が建っていた。


「……これ、ですか?」

リヒトは尋ねた。

それと同時に、敷地に入る境界部分に、……普段はあまり見かけないものを見つけた。


「そ、…ここがあたしの新しい家。」

そう言って、ガレはリヒトを見た。


「あなたが来るって聞いてたから、少し手入れしておいたの。」


どうやら……いろいろと、事情があるらしい。

その辺はゆっくり聞かねばなるまい。



敷地に入り、簡素な門を閉める。

車を降りて、荷物を持つ。

そして、建物の前に立つ。


ガレらしい、何の飾り気もない、それでいて…

使い勝手と周りとの調和に心を砕いたと思われる、そんな趣を感じさせた。


振り返ると景色が広がる。

敷地は少し小高い位置にあり、遠くに街の灯も見える。建物の周りは小さな森があり、その周りを緑の草地が囲んでいる、そんな場所だ。

既に陽は沈んでおり、薄闇にぽつぽつと暮らしの灯が見えている。

草地にはそれなりに民家が建ち並んでいるが、ガレによると見える範囲は全てドルイド族が住んでいるそうだ。


なるほど、故郷の村によく似ている。

彼女がここを選び、またドルイド族がここに集まって住んでいるのが、必然にも思えた。


「……綺麗な、場所ですね。」

思わずそう、言葉が零れていた。


すっ、とガレはそばに寄ってきた。

優しい香りと、柔らかな感触が頬に触れる。


「ありがと……」

そう言って、鍵を開け中に招いてくれた。



建物の中に入り、内鍵をかける。

中は生活感もないまま放置されていたことが窺えた。


あるべきはずの家具もなく、書物に埋もれているはずの書斎も、机だけが寂しそうに置かれていた。

しかし、台所と寝室、浴室に関係する部分には、人のいた形跡があった。

おそらくガレが、リヒトを迎え入れるために、2、3日前からこちらに泊まり込んで支度していたのだろう。


「荷物はその辺に置いて。ごめんね、家具とかまだ全然入ってなくて。」

ガレはそう言って謝る。


「気にしないでください、もともと野宿する予定だったんですから。」

そう答える。


ふふっ、と笑って、

「それもそうか。」

と、奥に入っていった。


彼女も、無造作に荷物を下ろすと、直ぐに上着を脱いで椅子に放る。

そして、すぐ浴室に入っていった。

開け放った入口からは、濃厚な温泉成分の匂いがした。


「……あれ、もしかして。」


気になって後について浴室に入ると、使い古された石と木材で組まれた「湯場」が現れた。

ここだけ見れば、共同浴場の湯場そのものである。

壁の引き戸を開ければ、外とも繋がる半露天風呂のような造りだ。


「うわぁ……すごいな」


湯加減を確かめていたガレが、振り返りながら嬉しそうに話す。

「うふふふふ、いいでしょう?家にこだわりは無かったんだけど……ここだけは贅沢して、大きめに作ったの。」


リヒトは、内張りに使われている木材や、湯船の縁に使われている天然石が気になった。

それに触れながら尋ねる。


「これ……結構湯に浸かってた物ですよね?……どうしたんです?」

木材も石も、びっしりと温泉成分が付着している。一ヶ月や二ヶ月ではこうはならない。


「表にある湯場、見たでしょう?あれもそうなんだけど……、以前、市街地に近い方にももう一ヵ所湯場があってね。そっちは開発計画に引っ掛かって、解体されることになったの。」


……作っては壊し、地球式といえる。


いや、湯場はドルイドのものだろう。とすると、ドルイドの土地に地球勢力が食い込んできていることになる。たった20年程で、こうも拡がるものなのか……。


「なるほど、その湯場の部材を、そっくりここに埋め込んだんですか。」

使われていたものならこの質感も頷ける。


「そこ、できてからすぐに周りの環境が良くなくなっちゃってね……。建物自体は3年くらいはあったと思うけど、実質ほぼ使われなかったみたいなの。」


なんと勿体ない……。地元の人たちも辛かっただろうな、せっかく地鎮した湯場なのに、そんなに早く仕舞う事になってしまったなんて。せめて、湯場の部材だけでも、ということか。その気持ちは良くわかる。


「表に移設してあった湯場は、どうしたんです?僕、あそこにいつもお世話になってて、お風呂もそうだし……脇に天幕張って寝泊まりもしてたんです。」


ガレは少しやるせなさそうにしていた。


「だいたい、同じ理由かな……。あれはまだ、土地開発にはかかって無かったんだけど、周辺住民の声がね……。男女混浴は風紀が乱れていかんとか……。はぁ……、誰も、あんたらに混浴しろなんて言ってないのにねぇ……。」


なんだか……、話に聞くかつての母星での他文化との衝突の序章に似ている気がして、寒気を覚えた。

この星に入植して60年程しか経っていないのに……、もうこんなことになっているのか。


「あ、いけない。」


ガレが沈んだ空気を敏感に察知して、明るく言い放った。


「とりあえず入ろ!まずは、身体と心を流さないと……難しい話はそれからよ。」


本当だ。こんな話を湯にも浸からずに垂れ流していたら、せっかくの湯場が泣くというもの。


「そうですよね!」

リヒトも表情を明るくする。内心、早く入りたくてうずうずしていたのだ。


ふたりで脱衣所に戻り、無造作に服を脱ぐ。

衣服籠に雑に服を放り込んで、ふたりともあっという間に裸になった。


「あ、忘れるとこだった。」

そう言ってガレは裸のまま台所に行って冷蔵庫を開け、冷えたハーブティーの入ったボトルとグラスを二つもって戻ってきた。


「これがないとね♪」

そう言ってボトルを掲げて見せた。

思わずリヒトも顔がほころぶ。


タオルを持ち、連れ立って湯場に入る。


ボトルとグラスは湯のかからないところに置き、早速湯を掬って身体にかける。頭からも被る。何度か身体にかけてざっと汗を流し終えると、ガレの方を見る。


ガレは、手早く長い髪を纏めて、頭の上にお団子を作り、髪留めで止めている……。


あ……!。


「その髪留め…」


古い記憶がよみがえる……。


「ああ、これ?」

そう言ってにっこり笑う。


「使いやすくて良いわよ、…ずっと使ってるの。細工も綺麗だし。」


これは、…僕が以前ガレに贈ったものだ。

おそらく「女性」に対して贈り物をした、生まれて始めての経験だ。


昔、巡礼に出ていた頃、立ち寄った村で購入した。


村の女性たちが集まって作っていた細工場で、ひと際目を引くものがあった。艶の深い漆黒の地肌に銀を埋め込み、色とりどりの糸を巻き付け、宝石をあしらった物だった。


当時、自分で使うことも無ければ、誰に贈る予定もないのに、心惹かれて買ってしまった物だった。

その時は、いずれこれを贈りたくなるような女性に出逢えれば……、そんな淡い期待を胸に抱いていた記憶がある。そんな理由だったが、巡礼から戻って家の戸棚に仕舞い込んでからは記憶からもすっかり抜け落ちていたのだった。


初めてガレとお風呂に入った時、ガレが無造作に髪を紐で縛って纏めていたのを見て、仕舞っておいた、この髪留めを思い出したのだ。


次に会った時に、思い切って手渡した。

彼女は喜んでくれた。

その時、受け取ってくれたことがあまりに嬉しくて、

僕は……涙を流してしまった。

数年越しで願いが叶うなんて、そんな経験は初めてだったから。



そして、それが……


僕はガレに向き直る。

「やっぱり綺麗だ、ガレさん……」


こんなに美しい女性だなんて、想像もしなかったから……。



彼女は微笑んでいた。


「……ありがと。でも……」

そう言って、僕の唇に指で触れる。


「ガ、レ……。ここでなら、いいでしょう?」

そう言って念を押す。


「ガレ、綺麗だよ……あの時も、今も。」

身体を寄せる。


彼女の手が、頬に触れる。

顔が近づく。

僕は彼女の背中に腕を回す。


背の高い彼女は、少し屈むようにして、僕に唇を重ねてきた。

味わうように、しばらく唇を動かしながら、お互いの感触を確かめ合った。

ほぅ……、と顔を離して呼吸を漏らし、お互いを見つめ合う。


そして、またしっかりと抱き締め合った。

次回もお楽しみに


書き溜めてある分が残っているうちは、毎日更新予定です。(時間は不定期です)


なお、この物語は、

法律・法令に反する行為、および、現代社会においての通念上好ましくないとされる行為を容認・推奨するものではありません。


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