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第一話 「孤独の翼」 ~慣れない理由~

 ……僕もきっと同じように不満を持つだろう。彼らの不満は至極当然だと思う。


 こんな時は、イバタの顔がよぎる──。

 受けるべきは堂々と享受し、断るべきは毅然と断る。持つべき誇りはきちんと誇り、受けるべき批判は甘んじて受け止める。

 それがイバタだ。


 彼のように生きられたら、そう思うことはある。いや、あったと言うべきか。

 今は、そんな甘い空想さえ自分の興味を引くことはない。


 彼のように、期待され業績をあげ称賛された自分、までは想像できたが、……彼のように、責任を受け止め、非難を受け入れ、理不尽を受け流し、不運を笑い飛ばす自分の姿は想像できなかった。

 彼と自分の決定的な違いはそこなのだろう。


 かつては僕も、彼を目指し、憧れ、嫉妬し、……時には少しだけ疎んだことさえあった。

 だが、頂点とは──英雄とは、それに憧れを抱く者が思うほど、良いものではない。

 以前は、共に飛び、共に働き、彼を支え、もっともっと近くで感銘を受けたい、そう思って生きていた。だが、彼を、彼の間近で見つめるほど……、彼の、彼に向けられる、期待の大きさが、責任の重さが、羨望と嫉妬、称賛と非難が───。


 近くで見ている僕の方が逃げ出したくなる程だった。そして、僕は……、実際に逃げ出したのかもしれない。


 脱衣所で服を脱ぎ、男用の施術服を着る。服と言っても短いスカートのような、薄い布切れだ。腰ひもで固定する。


 湯場に入ると、人妻が10人ほどいた。施術を受けていたと思われる男も2人ほどいたが、僕が来ると追い出されるように出ていった。また、ちくりと心が痛む。


 入り口の長椅子に座らされると、

 「じゃあ、さきに注射しますね~」

 と言って、付き添いの人妻が自分の手を消毒し始める。脇にいた長身の人妻が、消毒液を僕の腕に吹き掛けて、こちらも消毒を済ませる。そして、血管の位置を確認した後、上腕をゴムバンドで縛る。

 付き添いの人妻が、

 「じゃあ、ちくっとしますよー♪」

 と、なぜか嬉しそうに、短いチューブの付いた点滴針を刺す。すぐにチューブに血液が流れ込む、手慣れているようだ。血管にうまく入っていることを確認し、ゆっくりとピストンを押して、ピンク色の活性剤が注入されていく。


 入れ終わると、空のシリンジを外し素早く「二本目」のシリンジに付け替える。黄緑色の液体の入ったこの薬は今まで見たことがない。活性剤としか言っていなかったが2本も打つものなのだろうか。


 疑問に思って聞いてみると、

 「薬が新しくなったんです、身体の負担が軽くなるそうですよ。」

 と言った。いまいち納得しかねたが、そういうものなのだろうと思うことにする。


 二本目も注入しおわると、隣の長身の人妻がテープを貼って止血する。

 「効果が切れたら勝手に剥がれるからね」

 そう言った。小さいが創傷用の生体テープなのだろう。


 「さて、と。」


 長身の人妻は、向き直って、

 「先に汗を流そうか?」

 と、聞いてきた。長身できりっとした印象的な、美形の人妻だ。思わず見とれいてしまいそうになる。そういえば、午前中に仕事をしてシャワーも浴びずにここに連れてこられたのだ。せめて身体を清めておかないと、施術してくれる女性たちに申し訳ない。そうします、と答えると、

 「それじゃ、こっちにきて」

 そう言って手を引かれ、洗い場のある方に連れていかれる。


 人妻たちは、それぞれ湯着やガウンを脱いで施術衣姿になる。人妻たちの施術衣は、最低限正面から見えなければ良いだろう、というような申し訳程度の布地しか無いものだ。胸は乳首を含む乳房の中央1/3程度がやっと隠れる短冊状の布が首から下がっているだけ。股間も、前後に三角の薄い布が腰の前後にぶら下げてあるだけだ。どちらも横からは丸見えである。

 活性剤が効いてきたせいもあるだろうが、魅惑の曲線を帯びた肌色の景色に頭がぼぅっとしてくる。


 「はい、じゃあここに座って」


 美形人妻が指す椅子に、僕は腰掛ける。そして彼女自身も、キャミソールのような湯着を脱いで施術衣姿になる。

 そうして座っている僕を4、5人の裸同然の人妻たちが取り囲む。手には石鹸やシャンプー、タオル、スポンジ、シャワーノズル等を持っている。


 ……だめだ、こればかりは何度経験しても慣れない。

 「あ、あの、自分でできますから。」


 そう言って一応、抵抗はしてみたが、

 「いいからいいから♪」

 人妻たちはそう言って容赦なくシャワーをかけると、泡立てた手とスポンジで僕の身体を洗い始めた。


 はぁ…諦めよう、ここはこういうところなのだ。

 右手、左手、右脚、左脚、頭。それぞれがそれぞれの人妻に洗われていく、これも前回同様だ。しかし、頭を洗い終わると目隠しをするようにタオルが頭に巻かれる。

 はて、前回はこういうやり方はしなかったはずだが。何かマニュアルに変更でもあったのだろうか。人妻によって微妙な違いはあるが、基本的に誰がやっても毎回手順は同じだった。こう、はっきり違うのは珍しい。


 しかし、その後はまたいつもと同様、背中お腹と泡立った手が這い回って洗い始める。変更は頭のタオルだけか、そう思っていると、不意に手がお尻の方まで降りてきた、そしてそのまま前方まで侵攻しようとしている!


 ちょ、まっ……!そこは立ち入り制限区域です!!


 驚いた拍子に手がバタついてしまったのだろう、人妻が、がしっと左右の腕を押さえる。あぁ…これは……。程なく左右の脚も拘束されてしまった。

 そして、お腹を這い回っていた泡の手が下に降りてきて、ついに前方からの侵攻も許してしまう…。


 「……」


 優しい手付きで隅々まで綺麗にされてしまいました。

 先生すみません、ここの診療所へは、ますます足が遠のきそうです……。

 ……そういえば、前回来たときと椅子の形が違っていたような気がする。


 しばし放心していると、目隠しのタオルがはずされた。

 しかし、これで終わりではない。

 本番はこれからである。


次回もお楽しみに


書き溜めてある分が残っているうちは、毎日更新予定です。(時間は不定期です)


なお、この物語は、

法律・法令に反する行為、および、現代社会においての通念上好ましくないとされる行為を容認・推奨するものではありません。


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