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空からの贈り物  作者: 麗蘭。
4番 伊藤礼華
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決意


「ナノハさん……私に戦い方を教えてください」


 あまりにも突然のことで、ナノハは困惑する。妹が自分のようにサーベルを振るって暴れる姿を想像してしまったからだ。


「いきなりどうして……っ!」


 礼華の美しい青い瞳の奥にメラメラと火が燃えたぎっていた。表情は真剣そのもの。それでもなお可愛い妹の姿をしかと目に留めておこうと決意した。そしてしばらくして……


「分かった。出来る限りのことは教える」


 その言葉を聞いた彼女はとても嬉しそうに小さくガッツポーズをとっていた。


「ありがとうございます!!」


(やっぱり、可愛い)


「何か経験とかある?剣を握ったとか銃を撃ってたとか……」


 ちらっと横目で見ると、例を出すごとに顔から笑顔が消えていく。


「……ないです」


 観念したかのように目を伏せてしまった。


「元から戦える人なんていないよ」


 反射的に頭を撫でていた。それも、彼女の髪を乱さない程度に。


「わたしもそうだったから」


「ナノハさんがですか!?」


 何をそんなに驚いたのか、彼女の大きな目がより大きくなった。


「能力は今になってようやくまともに扱えるようになったし、剣の腕なんて多分緑川以下だよ。銃なんて当たるだけで精一杯、まして狙撃なんて無理ムリ」


 自分のことを偉大な人とばかり思い込む彼女に、本当のことを一つ一つ伝える。彼女はその話を聴き入るように聞いていた。


「意外です……なんでも出来ると思ってました」


「そんな完璧なやつ、零士ぐらいだろ」


 零士、という言葉をやけに気にしているようだ。


「龍宮家と水鏡家って実は仲が悪いんだ。代々どっちが優秀かを競うようにして栄えてきたからな」


「そんな風には見えないのに」


 零士がやけに礼華に興味津々なのは気に入らないが、彼の人間らしい部分をそのとき初めて目にしたような気もする。それほど無機質な人だったはず……だった。


ーー彼女に出会うまでは


 一眼見て思った。ずっと男だらけの環境で嫌気がさしたとか、賑やかになったらいいとか、そういうのではない。


 特別な何か、を感じたのだ。もっと言えば運命的な何かを……


 妹が欲しかったのは事実である。両親は早くに亡くなり、兄しかいない寂しさを取り繕いたかった。


「ええと、私もナノハさんみたいに出来ますか?」


「そんなに悩まずとも礼華なら出来る。なんせ私の妹なんだから」


 何より、彼女の成長が楽しみだ。


 ナノハは心の中で彼女に何があっても守り抜くと誓った。


「それといっては何だが、教えるにあたって一つ条件がある……」


 

 ◇◆◇



「ハルさーん!!」


 小さな町の病院でハルさんと久々の再会を果たした。


「えっ!? 礼華さん、なぜここが……」


「姉さんに教えてもらったの、ここにハルさんがいるって」


 痛々しい右腕に巻かれた包帯や顔の傷を見て、申し訳なくなった。


「そんな顔しないでください。僕が弱かっただけですから」


 いつもと違う髪型だからか、余計に女の子のように見えた。


「ついにナノハさんのこと姉さんって呼んでるみたいですね」


 彼の愛くるしい笑顔は健在だ。


「はい。訓練していただく変わりにそう呼んでほしいとお願いされたんです」


「くっ訓練、礼華さんが……?」


「きっかけがあって……私、残りの30人を探すことにしたんです!!」


 ハルは口を閉じるのを忘れて目の前の少女の熱弁を聞く。


「だから、ええと……人を守れるぐらい強くなりたいと思って……」


 水鏡家の軍隊はどこかの国の戦争の終結に加担することが度々ある、それが大まかな仕事といってもいいぐらいだ。だが、そこには多くの犠牲が伴うし、血塗られた道であることには変わらない。目の前のこんな穢れも知らないような真っ白な彼女にその道を選ばせて良いのだろうか……彼個人からしても彼女が危険に巻き込まれるのは何としてでも避けたかった。


「覚悟はあるんですね」


 彼の目は本気だった。


 ふぅ、と一呼吸置いて自分の決意を固める。


「私は……私のやり方でみんなを守りたいです」


「なら僕からはもう何も言うことはありません」

 

 ハルは説得を諦めた。それは彼女の表情が全てを物語っている。


 形容し難いが、美しさに凛々しさが加わり、彼女をさらに輝かせている気がしたからだ。


「僕も怪我が治れば簡単なことは教えられます。こう見えてもかなり出来る方ですから」


 ハルは屈託のない笑顔をみせた。



 ◇◆◇



「聞いたぞ、あいつが訓練してること」


 船長室でアランが口を開く。


「呼ばれたと思ったらそのことか……」


 兄に隠し事をすることは出来ないなと改めて彼女は思った。


「あいつじゃなくて礼華だって」


「能力も持たない凡人には何も習得できない。ましてお前のめちゃくちゃ攻撃はな」


 アランはただ正論を述べているだけ、それは彼女も分かっている。


「確かにそうかも知れない……でも私と礼華は違う」


「なら今すぐ無謀な真似はやめろ」


 ナノハは誇らしげに笑う。


「礼華は天才だった」


 その態度が嘘偽りでないことは誰よりも知っている。


「……はあ。本当のようだな」


 アランは観念して考えを改めた。


「能力のある人間はいつでも大歓迎だ。正式に水鏡家として手続きを済ましてやる」



 ◇◆◇



 ナノハとアランが話をしている最中、話題の礼華は与えられた自室で机に向かっていた。


「よし!! これで全部」


 金属ペンを端に置く。


「早く見つかるといいな」


 礼華は小走りで部屋を後にした。部屋に残されたのは彼女のメモだ。


 そこには覚えている限りのクラスメイトの名前が書かれていた。

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