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空からの贈り物  作者: 麗蘭。
4番 伊藤礼華
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17番 田村真紘

性的描写少し含みます。



「まーひー、久しぶり」


 真紘は手を叩いて久々の再会を喜ぶ。


『私も嬉しい!』


 今は彼女に与えられた一室でかつての友と筆談を楽しんでいた。


『すごく変わったね』


 文字を書き終えるのを見計らい、すぐに礼華は言葉を返す。


「神様のせいだよ、自然とこうなったんじゃないからね」


『もしかして、担当神は』


 書く手をとめ、数秒考えてまた書き足す。


『アプロディテ様?』


「それって美の女神だったっけ、ギリシア神話の」


 世界史の知識を礼華は引き合いに出した。


 真紘は大きくうなづく。


『そう!私はクレイオー』


「神様の名前? まーひーの」


 礼華は首を傾げた。


『すっごく賢い神様でね、この世界とか、能力とか、簡単に教えてくれたの!』


 礼華のは? と聞くように真紘は期待の目で彼女を見つめる。


 わたしは、と渋々礼華は答える。


「夢だと思ってて名前も聞かなかったんだ」


『抜けてるところは変わってないね』


 肩を少し震わせて、礼華から視線を逸らす。


「笑わないでよー、もう!」


 部屋には1人の笑い声が響く。その声を聞いて安心し、温かい眼差しで礼華を見つめた。


『元気そうで良かった、一緒にいた人は?』


「手紙に水鏡って書いてたでしょ」


『あれ、結婚したんだと思ったww』


 一段と肩を震わせ、片手でお腹を抱えるほどになった。文字も最後の方はガタガタしている。


「彼氏もいたことないよ!? ……って、話が進まないにゃん」


 礼華が噛んだことで今度は顔が真っ赤になる。真紘の笑いのツボはかなり浅かった。


「水鏡家に妹ポジションで居座ってるの」


『二大宮家だよね』


「おっ、よく知ってるじゃん」


『この世界じゃ有名な家だから、良かったね』


「あー、ありがと……」


『結婚できて』


「前言撤回!!」


 あまりの面白さに足をバタつかせて喜ぶ。彼女はずっと友達に会いたくて、この時を待ち侘びていた。


『英語、やっぱり上手だね』


「ありがと、公爵に怒られるかと思ったけどね……」 


 苦笑いを浮かべる見違えるほど別人になった友達、でも、一眼会った時から不思議と礼華だと確信できた。


 綺麗な顔しておいて大胆な笑い方は何も変わっていない。


『公爵は優しい人だよ』


「……助けてもらったんだよね」


 真紘は俯いてしまった。


「ごめんね、嫌なこと思い出させた。詳しくは言わなくてもいいからね」


 酷い目に遭ったことは今でも夢に見るし、元の世界に出来るなら戻りたいと最近まで思い続けてきた。


ーーでもわたし、決めたんだ。


 何かを決したように再びペンを握って勢いのある字でこう書いた。


『わたし、ここで生きてく!!』


 目を丸くして礼華は驚いていた。


「そう……」


 礼華はゆっくり頷く。


「私も一緒!」


 その笑顔にどれほど救われてきたか、今ここで感謝の言葉を言いたい。


『アニールさんはね、助けてくれた後、この部屋を用意してくれたの。怖がるからって男の人の執事をここに近づけなかったり、本を沢山用意してくれたり……』


 真紘はだんだんと笑顔を取り戻す。


 礼華はただひたすらに頷きながら、彼女の書く字を見つめていた。


「まーひーは、公爵さんのこと、好きなんだね」


 真紘の顔はみるみる真っ赤になった。


「分かりやすーい」


『でも私なんか可愛くないし、身分もないし、きっと釣り合わない……』


 慌てふためいた様子で自分を卑下する言葉を書き連ねる彼女の手を止める。


「大丈夫! まーひーならきっと出来る!!」


 その言葉を聞いて彼女は過去のことを思い出した。


『受験の時も、礼華がそう言ってくれて合格できた』


 心で書くのを想像して、自分の中にそっと仕舞い込んだ。


「一言書くか言ってみなよ、ありがとうって。感謝されて嫌な人は誰もいないからね」


 その後は度々話題を変えながらいろんなことを話した。なにせ、会うのは中学校以来。知らないことをお互いで補完し合った。



 ◇◆◇



「またね、まーひー」


 真紘は半身を馬車から出す親友が見えなくなってからも手を振り続けた。


「帰るぞ」


 公爵に言われた通り、公爵邸に戻ると、親友の助言を早速試そうと心に決める。


「……会えてよかったな」



 アニールはボソッと呟いてすぐに後悔した。自分はこれまで誰にも関心がなかった、まして家族でさえも……


 だが、誰かを励ますような言葉をつい口走ってしまった。これはきっと彼女の置かれた悲劇的な境遇のせいだろうと彼自身を納得させる。流石の自分でもまだ人の情は残っているのだから。


 彼女は毎日のように執務室に来て、今日あったことを報告した。男になんて会いたくはないだろうに……侍女や下女とすれ違う度に会釈をし、時には仕事を手伝ったりしていた。しかも、執事から侍女や下女達から気に入られているという内容の報告を聞き、人として好感を持った……ただそれだけのことだ。


 アニールはらしくない自分に呆れていた。


「……」


 ふと彼女の方に目をやると、また話せもしないのに話そうとしていた。


 何度やっても同じ、と言いたいが何故か言わない自分がいた。


「……」



 アニールの言葉を聞いた真紘は必死にある想いを声なき声で伝え続けた。


(お願い! お願い!)


 何度も何度も心と言葉でそれぞれ違う言葉を唱える。









「……あ、ありがとう」


(言えた……?)


 小さな声だった、しかし、確かに今声が出た。


 咄嗟にもう一度声を出そうとした時だった。


(……!?)


 アニールは真紘を抱きしめた。


「アニールさん!? な、なっ、何して……っ」


 逞しい腕が彼女を離すことはない。


「……」


 彼は黙って彼女を担ぎ、歩き始めた。


「お、下ろしてください…」


 彼には何も聞こえていない。


 顔が至近距離すぎて死ぬほど恥ずかしい彼女は顔を真っ赤にしながら、手で目を覆う。


 抵抗もできないほどにただ、この夢のような出来事を噛み締めていた。




ガタンッ


 アニールは真紘を抱えたまま、寝室の扉を勢いよく閉める。


「きゃっ!」


 振り落とされたと思った彼女は、落ちた先がフカフカのベッドの上だと言うことに気づいたが、自分の部屋のものではないことに動揺した。


 彼がスルスルと上着を脱ぎ始めているところを目の当たりにして、初めて今から何をされるのかを理解した。


「アニールさん!! それは、ぜっ、絶対にダメです!!」


 必死になんとか説得しようとするも、頭はすでにオーバーヒートしていて適切な言葉が出ない。


 上半身を露わにした彼は彼女の腕を掴んで問いかける。


「私が怖いか……?」


 アニールは真紘をじっと見つめた。


「いいえ、決して……!」


 暗い過去を思い出し、泣きそうになるも、言葉を続ける。


「アニールさんのことが……好きです」


 言ってしまった……!と片方の手で顔を覆う。


「では、私のものになってくれ」


 唇に柔らかい感触を感じたと思えば、意中の相手に押し倒される。


 彼は長い長いキスをしながら、彼女のドレスを器用に脱がし始めた。


「……大好きです」


「私もだ」


 静寂の中、しばし2人だけの時間が流れた。

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