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空からの贈り物  作者: 麗蘭。
いざ、神殿へ
26/29

神殿ツアー 2日目

待っててくださった読者様!

大変お待たせしております。

なかなか暇な時間を有効活用できなくて困っている所存でございます。

急いで書いたため、誤字脱字などありますでしょうが、ご容赦を!


 神殿の朝は早い。起床時間はきっかり6時、朝食は食堂で7時と時間が決まっている。それはここの規律であり、従うべき規範である。


 真凜はいつもより少し早めに起床し、身だしなみを整えた後、礼華の宿泊する部屋の前に来た。


 あれほど目立たないようにと言い聞かせていたが、言うまでもなく目立っている。やはり食堂で一緒に食事を摂ったのが間違いだった。噂好きな修道女たちにとっては彼女自体が格好の話のネタになる。


 溜め息をついた後にゆっくり扉を開けると、そこには来客があった。


「あっ! 有城さんおはー」


 問題児がいる。


「おはよー、有城さん」


 少し遅れて女神は微笑んだ。


「おはよう……ってなんであんたがここにいるのよ」


 七菜香は寝坊の常習犯。朝食の時間を逃したりして朝食抜きになることも多数。なんとそんな彼女が起床時刻にすでに起きている。尚且つ髪型から服装までいつもの彼女だ。異常な事態に真凜は困惑気味である。


「いやー、なんか自然と目覚めてさ〜、することもないし伊藤さんと親睦を深めておこうと思って」


 慣れた手つきで彼女の髪を溶かしながら、こちらにはまるで興味が無さそうな素振りを見せる。


「全然起きなくて、ちょっと意地悪してたけどねー」


「ほんとにびっくりした……」


 また変態的なことをやってのけたのだろう。本当にどうして修道女なんかやっているのだろうと毎度のこと思わされる。


 伊藤さんは余程けしからんことをされたのか、恥ずかしそうに両手で赤くなった顔を隠している。


「神殿で何してるんだか……」


 驚き呆れるとはまさにこのこと。何をしてもこの暴走は止まることを知らない。


「有城さんが来たってことは、今日もツアーやるんでしょ?」


 突然、突拍子のないことを言い出すのもいつもの彼女だ。


「ツアーって、はぁ。伊藤さんが観光目的で来てるわけじゃないの分かってる? あくまで私たちの安全を確認しに来ただけなの」


 ここに来たのも彼女なりの理由があってのことだった。恵まれた環境に流されるだけの自分とは根本的に考え方が違うのだろう。それとも何かきっかけがあったのだろうか。ここに来て打ちのめされたことが、自分の無力さを思い知ることが……少なからずあったのかもしれない。


「いい人……」


「身支度、手伝いましょう」


 今日もそんな自分を奮い立たせるように修道女としての仕事をこなす。




 ◇◆◇




 食堂の隅で簡素な食事をとったが、ちっともお腹が膨れる気がしない。それを見かねた2人がパンと目玉焼きをくれて、とっても嬉しかった。まだ足りないけれど……


 早くも実家が恋しくなってきたのかもしれない。ここに来て初めて浮かんだのが優しい料理長の顔だというのは実に面白い話だ。何も仕事をせずともご飯にありつける環境というのが生優し過ぎたとも言えるだろう。


 そして、何より気になるのが他の修道女の方々の視線。すぐ余計な不安を抱えてしまう私にとってはとても痛々しい。観光客が出しゃばりすぎだとか、こんな小娘が高待遇を受けているのは可笑しいなどと思われているのかもしれない。


 ただ、有城さんはみんなが私が何者なのか気になるだけで心配する必要はないと言ってくれた。相変わらず共感力の高さというか細かな反応から何を考えているのかをすぐ感じとる能力を持っているというか、上手く人と馴染めそうで羨ましい。空気が読めないところがある私も彼女を見習いたい。


 戸田さんはこれまた神殿の周辺施設の一環である、美術研究所に私を連れて行きたいそうだ。彼女は修道女の傍ら服のデザイナーをしているようで元いた世界のファッションを広めているのだとか。本人はここの服は可愛くないからと思って始めたそうだが、彼女の先進的なデザインは主に若者を中心に世界各地で流行しているのだと有城さんが付け加えてくれた。もはや、ただの凄い人だ。


「たーのもー!」


 これまで規模の大きなものを目にし過ぎたからだろうか。一見すると普通のレンガ造りの一軒家。見た感じはとても研究施設とは思えない造りをしている。少々他の施設と比べると見劣りしてしまう。


「はーい!」


 建て付けが悪そうな大きな扉が音を立てながら開くと同時に、中からは同い年ほどの女の子が出てきた。その姿はまさに芸術家のもの。髪をバンダナで固定し、色とりどりの絵の具のついたダボダボのエプロンからも絵描きということが分かる。この子も元同級生だろう。


「えっと……」


 戸田さん以外に人がいることに驚いたのだろうか。キョロキョロと私たち2人を観察し始めた。


「どしたの? りこっち?」


 奥の方から人の声が聞こえる。


「やばっ、ごっつい美人おるわ!」


「え!?」


 ドタドタドタという足音とバンッと扉が跳ね返るほどの勢いでもう一人、女性が出てきた。


 私を見るなりぐっと大きなガッツポーズをして喜びに満ちた表情をする。


「この人絵に描いたらいいやん!なぁ!」


 興奮気味に先の女の子に話しかけていて、その子もコクッコクッと頷いていた。


「あの! わたし莉子でこの子は由良っていいます。ここで絵描いたりしとるもんで、ちょっとっていうかだいぶ変なタイプやけど……」


 エプロンの少女が恥ずかしそうに自己紹介をしてくれた。


「やっぱりお眼鏡に叶いましたか?」


 私が連れてきました!と言わんばかりの誇らしげな態度。


「ななかナイス! たまにはやるやん」


「たまにだとー、いっつもやっていますが、色々と」


 独特なイントネーション、名前。これで私の記憶違いではなさそうだ。


「このちょー美人は伊藤さんでーす」


「前田さん? 確か……」


 そんなに話したことはない、けれど面談とか何かの待ち時間の時に私にキャラクターの絵を見せてくれた。それがとても繊細なタッチで描かれていたのを思い出した、そして、この子は……


「いとーさーん!!」


 何故か私信者だ。


「そうだ、こんな汚い格好のまま近づいたらダメやよね、ちょっと着替えてくる」


 こちらに近づく様子を見せたが、すぐにその姿は部屋の奥へと消える。


「そういえば、あの子伊藤さんのこと大好きだったっけ? あま、いっか」


「職人さんもう来てる?」


「あー、うん。自分の服がめちゃくちゃ売れて嬉しいらしい。今日もデザイン考えて来なよ」


「では、行ってきまっす! 2人とも良い子にしてるんだよ〜」


 さすが自由人。案内すると本人は言っていたが、ここに私と有城さんを簡単に放置していく。


「さすが自由人」


 思っていることは一緒のようだ。


「まあまあ、あれはいつもの事じゃんか。ほら、2人とも中でゆっくりしていきなよ」


 中に入ってみると、美術室にあるようなキャンバスに描かれた風景画や人物画がところ狭しと並んでいた。モダンな雰囲気の室内をオレンジ色の照明がより引き立てている。真ん中には大きな木製のテーブルセットがあってもう1人の女の人、言うのを忘れていたが、この世界に馴染んだ茶色っぽい髪色に緑色の瞳をした方がそこに座るように促される。周りの絵に圧倒されていると、声をかけてきた。


「すごいでしょ、これ全部莉子が描いたんだ」


 芸術のことはよく分からないが、素人の私にもこの絵が評価されるべき絵なのが分かる。特に細かく書き込まれた風景画は他に類を見ないだろう。淡い水彩絵の具の良さが引き出された温かい印象のある絵だ。


「まさにここは天職か」


 有城さんも感銘を受けているようだ。


「私は渡辺由良、影響を受けて見た目が変わっちゃってるけど伊藤さんほど綺麗では無いのが残念」


 見覚えのある名前だ。


「元々絵を見るのが好きなんだけど、莉子の絵はその中でも別格。だからここで主に助手をしてる感じかな? ねぇ、莉子」


「うぅ、そう言われると余計にプレッシャーが」


 わざわざ飲み物を用意してくれたようでカタカタとカップを揺らしながら私と有城さんの前に置いてくれた。


「早速だけど、この子今絶賛不調中だから手を貸してくれないかな?」


「あっ、あの、もし良かったら伊藤さんの絵を描かせてくれたら……」


「頼まれるまでもないよ。前田さんに私なんかの絵を描いてもらえるだけで嬉しい」


 人に自分の絵を描いてもらったのは、小学生の時のデッサン以来だろうか。今や元の顔は跡形もなく消えているが、是非とも新しい自分を描いてもらいたい気持ちが先行した。きっと最高の絵が生まれるだろう。


「ありがとうございます! 家宝にさせていただきます」


「そこまでしなくても……」


「じゃあ、こっちに……」


 1番広い部屋を抜け、階段を通り過ぎ、奥の部屋へと手を引かれて案内された。そこは壁一面が窓ガラスで外の庭の風景を切り取った絵画の中のようなところだった。


「こんなに大きい窓、なかなか無いよね。私が無理言って作ってもろてん。そやとイメージがどんどん湧いてくるし、何よりここが私の原点やし……、あっ、ごめん、一方的過ぎてうるさいよね」


「ううん、全然。できればもっと聞きたいぐらい」


「中身も変わらず伊藤さんや」


 無性に嬉しい。


「道具とか持って来たよー、結構長い時間じっとしてなきゃいけないけど、大丈夫?」


 渡辺さんと有城さんがキャンバスや絵の具やら絵を描くための道具をわざわざ持ってきてくれた。


「立ったままは厳しいかも……筋力と体幹が足りないです」


「かっちょいい椅子あったかねー?」


 有城さんもわざわざ指示どうりにテキパキと動いてくれている。


「2人ともありがとう。 お客さんにまで手伝ってもらうのは流石に悪いわ」


「絵を楽しみにしているのは何も前田さんだけじゃ無いってこと」


「ふふふん、大作の完成のためには協力は惜しまないと決めてるわ」


 莉子の意思とは関係もなく、由良は彼女の作品で展覧館などを開くのはどうだろうかと想像を膨らませていた。


「はい、いつもの筆と、パレットと……配色はどうする? あとは水と入れ物だね」


「貝殻余ってたよね、それとあとはパール顔料……残り少ないけど、全部使う勢いで描かなきゃプラチナブロンドは表現できない。まだ粒が粗いからもっと細かくすり潰さないとそれに蜂蜜とか樹脂混ぜて絵の具を作って欲しい。その他は手持ちの絵の具でいけると思う」


「了解、ちょっと待っててー」


 有城さんこっちこっち、と忙しなく動いているはずなのにその表情はどこか楽しそうで幼くて、2人の真摯に作品に向き合っている姿勢が輝いて見える。


「なになに? どしたのあんたら」


 騒がしさが上の階に伝わったのか階段から戸田さんが降りて来た。


「伊藤さんの絵を描くことになったみたい、それで今用意してる最中」


「えー、何それ面白そうじゃん! やりたい、見たい、手伝わせてー」


 はいはーいと大きく手を掲げている。


「打ち合わせは終わったの?」


「いつもみたいにササッとね」


「貝殻ないー! とって来て七菜香、白いやつ」


 はいはーい、と声がすると、それが幻であったかのように淡く光を放って戸田さんの姿は消えてしまった。その様子に驚いていると、前田さんが戸田さんの能力について教えてくれた。


 それは超有能、空間転送系能力。とても恵まれた、当たりともいえる神力だ。よっぽど凄い神様に当たったんだろう。


 まあ、私も神殿に行く道中で体験してるはずなんですが……


「転移や保管の能力はめっちゃめちゃ珍しいし、役に立つんよ。他にイワンさんぐらいしかいーひんのちゃうかな? 前はアルフォゲルっていう国の王族さんがそういう能力使ってたみやいやけど」


「ダリア様……!」


「さすがいとーさん、詳しいね。現女王の名前知ってるんや」


 知り合いとまでは言いにくい。


「有名だしね、アルフォゲルはね……」


 少し不自然だったかもしれない。取り繕うのは相変わらず苦手だ。


「ここ座ってくれるかな?」


 小さめの木製椅子が少し斜めに置いてある。


「うん」


 すぐにそこに座ると、前田さんが緊張を交えながら、私とキャンバスとを交互に見つめ出した。


 それからさっさっさっさと乾いた音がしたとお前ば鉛筆で下書きを描いているみたいだ。


「まだ表情とかは楽にしててね、顔のパーツのだいたいの位置とか描くだけやし……」


 下書きの作業はほんの数分ほどでパパッと仕上がったようで、今度は絵の具を茶色くて丸いパレットに出して、色を混ぜ合わせる。それを水でさらに薄めて筆を変え変えしながら少しずつ、少しずつ、彩られていく。


「聞いたんやけどな、芸術の神様はいても、絵の神様は一筒ねんて。私ここに来るまでそれ知らんくて、気にしたこともなくてずっと不思議やってん」


 手は絶えず動かしたまま、前田さんは私の緊張をほぐすように話をしてくれる。


「なんか、なんとも言えへんねんけど、絵は人間だけのものっていうか、そやから神様は知らんとかじゃないんやろうけど……人間が見ている景色自体が神様にとってはどうでもいいと言うか、見慣れた景色だというか、ずっとこれまで長いこと生きているからその瞬間瞬間をわざわざ特別に感じることなんて無いのかな?って私は考えたりして……逆に人間は何かと残したがるねん。自分がいた証というか、自分が見た風景とかを、なんでそうなったのかは知らん……けど、きっと人間が最初に始めたんやないかって思うんよ」


 途轍も無く哲学的な話であるにも関わらず、私の理解は円滑に進んだ。普段なら理解するまでに幾重もの壁が介される。それも全て神という存在をこれまで以上に間近に感じられる日々を過ごしてきたからではないかと一旦結論づけることにする。


「あっ、めっちゃ喋ってもうた! ごめん、気持ち悪いよな」


 嫌われてしまわないだろうか、と莉子は顔を蒼ざめさせるも、礼華の反応は普通の女子高生のものとは違った。


「そこまで考えたこと無かった。凄いね、その考え」


 距離を置くどころか、目を輝かせて興味深そうに夢見がちな話を肯定する姿にありし日の彼女の姿を思い重ねた。


 その後も絵の具と人物画の製作が並行して行われていく中、作者と絵画モデルは再会するまでの一部始終を語り合った。


―――こうして、製作されたこの絵画。後に「女神のアレーヌ」と名付けられたこの作品は後世にまでその名を残す大傑作となる。



 ◇◆◇



 もうすぐ日が傾きかける。そんな時に私たちはまたフェリックスくんに会うために神殿病院にお邪魔していた。


「そんなに歩いて大丈夫?」


「うん、屈まなかったら平気」


 元気にそうは言ったものの、緊張で何時間も良い姿勢を心がけてしまった私の背中は悲鳴をあげていた。反り気味になってしまったようで、屈んだ拍子に激痛が走り情けない悲鳴を上げる姿を皆に見せてしまった。なんとも情けない。アーちゃんのおかげで物理的な衝撃に関しては大幅に耐性がついているものの、筋肉痛や頭痛といった体の内面から発生する不調に関しては専らその効果は及ばないようだ。


コンコンコン


 戸田さんがノックをしてから扉を開く。


「本当にまた来てくれたんだ」


 昨日とは違い、フェリックスくんは表情豊かな様子を見せている。前は物憂げな表情のミステリアスイケメンといった感じだったが今はいかにも万人受けしそうなキラキライケメンである。


「当たり前でしょ、そんなの」


 ニカッと笑う戸田さんはなんかカッコいい。


「ん? 足掛け無くなったの?」


 真凜がいち早く病室内の違いに気づいた。


「お姉さん達のお陰だよ。昨日のあれから信じられないぐらい痛みが引いていった。見てもらったら、本当に治りかけてるみたいで、治癒の効果が今になって出てきたってお医者さんは言ってたけど、絶対お姉さん達のお陰だと思ってる」


 みんなの想いがそれこそ神様に届いたのだろうか。奇跡を目の当たりにして、私はただ彼の回復を喜んだ。


「おー、やるじゃん!」


「良かったねー」


「やっぱり私たち、最強じゃん」


 戸田さんに至ってはグッと手を大きく掲げていた。


「じゃあより一層安静にだね。早く治して、目指せ!騎士団入団」


「あぁ、それなんだけど」

 

 フェリックスは至極表情を変えることなく今の目標を据えた。


「やっぱり、違う道を選ぼうかなと思って」


「ええー、なんで、怪我治りそうなんでしょ?」


 こらこらと真凜が七菜香の口を塞ぐ。


「アルフォゲルの王宮騎士団はレベルが高いのは確か。でもそれは一般人だけの話で神力持ちは団長のルヴァさん一人なんだよ。相当の使いなのは知ってるけど、それじゃ張り合いがない気がして……」


 彼のことだ。きっと他に自分の本当のやりたいことに気づいたんだろう。


「こうなったからこそ思ったんだ。奇跡的に回復したからこそ開けた道。欲しいものは全部手に入れたいから」


 皆が固唾を飲んで見守る。


「この滾る想いは止められない。だから、一旦考えることにするよ」


「決まってないんかい!」


 大きさは違えど、ここで戸田さんと有城さんがシンクロした。


「あはは、ごめんね。ここまで聞いてもらったのに」


 大切だからこそ、時間を設ける。彼らしいとても賢い決断だと思う。気づけば、夢を追うのっていいなとしみじみと考えたりしていた。


「もう2、3日もすれば迎えが来るらしいからお姉さんたちにこれだけは伝えておきたくて。ありがとう、僕を元気づけてくれて」


 そんなことを言われて感動しない子はいない。


「なんて良い子なの!? もう少し遅く生まれてたらすぐ求婚したわ」


「七菜香お姉さん、それは勘弁してよ」


「冗談よ、冗談」


 でもこんな可愛い子なかなかいないよー、と七菜香は続けて茶化した。彼女の結婚相手の一つの条件は自分と同じかそれ以上の歳であることだ。他にも独自ルールはちらほら設けられている。


「あれ〜、有城さん目が潤んでるよ」


「元からこうです」

 

「こんなこと中々無いし、嬉しいもんね」


 キッパリとそう言い切る有城さんも、やはり嬉しかったのだろう。


「……礼華お姉さん、何処か調子悪いの? 大丈夫?」


 嬉しさのあまり、調子に乗って2人とハイタッチしたのが良く無かった。背中がジンジン痛む。


「慣れないことしてちょっと背中痛めちゃって」


「絵のモデルしてたんだわ、この人」


 彼をいつぞやの時の様に再び目を輝かせた。


「絶対傑作になると思う。それでも無理は禁物、僕の二の舞にならないでね」


 心に誓います。


「よっと」


 突然、彼がベットから立ち上がると礼華を含めた3人は驚愕した。その理由は、まだ立ち上がれる状態では無いと思い込んでしまっていたため。そして、真凜と七菜香は女性の中では十分高身長といえる礼華より高い上背に驚く。年下であるからこそ、余計にその差が際立つように感じられた。


「えっ、えっと……まだ立たない方がいいんじゃないかな」


 一方でそれが日常である彼女は足の怪我の方を気にするだけだった。


「もう殆ど大丈夫だから」


 腕を引かれたかと思えば、綺麗なフェリックスくんの顔がもの凄く近いところにある。そこで理解が追いつかなくなって、ただただ心臓が強く拍動していることと、腰にまわされた手の感触だけは感じていた。触れられた部分から必然的に熱が広がっていく。


 しかしその時間は予想だにしない人物によって阻害されようとした。




「ひぃぃ!」


 上擦った悲鳴をあげた真凜が、すぐさまフェリックスに向かって強烈なタックルをお見舞いしたのだ。衝撃により、その場に座り込むことになった彼は唖然としていた。


「ああっ! ご、ごめんなさい!」


「ちょっと!? 大丈夫?」


 起こったことで思考がフリーズした者と気が動転してしまった者、予想外の事態に驚嘆する者ともう病室は混沌を極めていた。


 真凜は即座に自分の犯したことを申し訳なさいっぱいで謝り、フェリックスを立たせる手伝いをした。


「ありがとう、真凜お姉さん」


「どこも痛くない? 平気? 怪我は悪化してない?」


 依然パニック気味である。


「痛いの治ってる……」


 その場を落ち着かせたのは背中をさすっていた礼華の一言だった。


 ……ということは、と3人は顔を見合わせた。


「ごめんね、急に。初めからそうするのが目的だったんだ」


 苦笑しつつ、誤解を招くような真似をしたことを自ら先に謝る。


「謝らないといけないのは私の方だよ、ごめんなさい」


「まさか突き飛ばされるとは思わなかったけどね」


 真凜は修道女としてあるまじき破茶滅茶な行動を恥じるに恥じる。内心彼女もなぜ自分があのような行動をとったのか分からずにいた。


「ちょっと! どうされましたか!?」


 騒ぎを聞きつけて以前と同じ看護師さんらしき人が今度は鬼の形相で部屋に駆けつけてきた。


「す、すみません、ちょっと騒いじゃいまして……」


「修道女が何をおっしゃいますか! ここは貴族のご子息の病室ですよ、騒ぐのでしたら帰ってください!」


 半ば強引に看護師さんに押されながら病室から追い出されるのかと思えば、まさかの病院自体から追い出された。それに加え出禁をくらってしまった私たち。


 クビになるかもと顔面蒼白になりながらぶつぶつ独り言をいう真凜と結局お別れの挨拶も出来なかったと悔やむ七菜香、思い返して真っ赤に照れて何も話さない礼華と見るも異様な雰囲気を醸し出しながら残りの時間を過ごした。

【小話①】

主人公ちゃんのモデルは筆者のイマジナリーフレンド。

親に聞いても、私は幼少期から変わり者だったとよく言われます。(今も絶賛続行中)

今は彼女の声を聞きたくても聞けませんが、どこかで楽しく過ごしてくれてると嬉しいですね。


これからも投稿頻度は不定期です、申し訳ありません。

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