神殿ツアー
お久しぶりです。
コツコツ貯めて書いていた文ですので、ご容赦を。
今回は強キャラ登場回です笑笑
彼女の活躍に乞うご期待。
その後というもの、とにかく人のいない道を案内されながら、私の宿泊先となる修道院のある一室に来ていた。修道院というのだから簡素な造りをしているのだろうと思っていたが、西洋風のフレームのついた大きめのベットや1人用のテーブルセット、はては綺麗に掃除されている洗面台までついていた。
「修道院はとにかく設備がいいの。更に私たちは自分のやりたいように生活できる……最高にいいでしょ」
私が与えられている部屋も似たりよったりの設備付きで、もう少し広いということは言わないでおこうと静かに思った。
「流石は帝国の二大宮家、こんな初歩的な設備は整っていると言っているような顔……」
考えていることが読まれた……!じゃなくて、
「いやいや、凄いと思っているよ。これみんなに与えられるんだよね」
「当たり前じゃない。神の使いなんてここでは超好待遇されるわよ。他の所じゃせいぜい良くても戦争の駒や囚われの身になっててもおかしくないし」
「やっぱりそうなるのか……」
世界中に散らばるみんなのことが余計に心配になってくる。
「大司祭様は私たちを見つける事に全力を尽くしてくださっているわ。だから、他の人もきっと見つかると思う」
先程から有城さんには私の考えていることがすぐに分かるようだ。考えていることが顔に出ているのだろうか。
「今現在、20人近くここにいるし」
「そんなにいるの!?」
「それも普通のことでしょ。神様なんてほとんど人間なんかに興味ないだろうし、ここを適当に転送場所にするのよ。私から言えば、伊藤さんたちの方がイレギュラーなんだから」
そういえば、転送場所がどうして空だったのか聞き忘れた。またやってしまった、と心の中で呟く。
「逆に人間に興味津々な神様もいる……よね」
真凜は頷く。
「そういった場合はその神力が上手く活用できる場所に連れて行ってくれるのかな?」
頭がこんがらがる。
いかにも思い当たる節が無さそうな反応から真凜はもう一つの仮説を呟く。
「それか、人との縁を下さる……とか?」
人との縁、それだったら当てはまっている。私が水鏡のみんなと出会えて家族になれたのも、あの場所に転送されたからだ。
「良縁成就ってところかしら」
真凜はふっと微笑んでから部屋の奥へと進み、備え付けのクローゼットから礼華に真っ白なワンピースを差し出しす。
「オシャレすぎたら目立つでしょ」
事情のある礼華への粋な計らいのつもりである。
「着れるかな?」
身長が平均よりも高く、痩せたとはいえ未だぽっちゃり体型を脱出できない私には少し小さいかもしれない。
「着替えたら、出てきてね」
数分後
ドアの開く音に真凜が振り向くと、そこには女神と言わんばかりの同級生が立っていた。
「綺麗すぎて逆に目立ってる……」
真凜はため息を吐いた。粋な計らいのつもりが、これではここの聖女と勘違いされそうな風貌になってしまった。
「えっ、そんなに目立ってる? やっぱり小さいかな?」
未だに自分の姿をちゃんと認識できていない彼女が余計に危うい存在に見える。
「ドレスなんて着せたらどこかのお姫様と間違えられそう」
「そんなことないよ。王族の人はもっと強くてカッコいいし、気高く美しくて……」
その後も美麗な言葉が続くも聞き流す。
(そう、ダリア様みたいに!)
「だいぶ偏ったイメージね」
誰か特定の存在のことを言っていることからも帝国外との王族と交流を持っているのだろう。まさに権力者がこぞって欲しがるであろうその容姿、帝国に置いておくのはやはり気がおけない。そして本人は気づいていないだろうが、ほんわかとしたその雰囲気に男も女も夢中になる。彼女とこんなにも長く話したのは初めてだが、なぜか話しやすいのだ。
「でもなんで急にそんな話をするの?」
「それはあなたが可愛いから」
「ちょっと、いきなりそんなこと言わないでよ……! まだ慣れてないのに……」
少し吹聴されただけでこの反応。口説くにはもってこいの逸材だろう。
「好かれてる理由がなんとなく分かる気がする」
「……どれもこれもこの顔のお陰ってことでしょ」
あぁ、そうか。彼女は自身に向けられた好意全てをその整いすぎた容姿からだと勘違いしているようだ。先程、大司祭様の問いに上手く答えられなかったのも納得いく。
「でもほんとは薄々気づいているんじゃない? 全部が全部そのお陰じゃないことぐらい」
「……そうだといいけど、なんかそれって恥ずかしい」
これだとまだ完全には理解できないか。
「さっさと着いてきて、案内済ませる」
ここの神殿は特に変わっていると個人的に思う。質素ではあるが食事もお腹いっぱいになるまで食べれるし、周辺の施設への出入りもし放題。肝心の祈りの方だが、修道女はただ神様の存在を信じて生活を送ればそれでよしだ。まあ、生活を送る上での仕事があるにはあるのだがそれも難なくできる内容。変わったところといえば、大半が身寄りのない孤児や事情を抱えた者であるところだろうか。だから皆が皆自分を受け入れてくれたこの場所に感謝して精一杯働いている。
宿泊者用の対応をただすれば良いのだが、私の目的は彼女にこの神殿にずっといてもらうこと。綺麗事だけではなく私情も少し入っている。
「何日ぐらい滞在するの?」
「うーん、そういえば決めて無かったかも。強いて言えば、みんなの暮らしぶりを確認できたら思い残すこともないと思う」
「そっか……」
それを聞いて、まず初めに同じく修道女として日々の生活を送っているメンバーのことを話したり、実際に仕事をしている姿を見てもらったりした。ここには1人を除いて変わり者はおらず、大人しい人が多い印象を受ける。
そう、1人を除いて。
「やっほー! 有城さーん」
よりにもよって通路の曲がり角で出くわしてしまった。
「ちょっと……! その挨拶はやめといた方がいいって、私たち修道女なんだよ」
「今は来客も来てないし、大丈夫、大丈夫〜」
まさにエセ修道女と言わんばかりの格好。いつの間にやら修道服を自分で改造したようで、襟元にはフリルのついた白い大きな布があてがわれ、ちゃっかりベールも可愛くなっている。極め付けはスリットの入った膝までしかないスカート。ふわふわフリルスカートはドレスだ、もうドレス。あれだけ露出は良くないと言ったのに。大司祭様が寛容な方じゃ無かったら絶対に追い出されているような格好だ。
「なっ……! その人誰?」
「一応私たちと同じ。名前は覚えてるでしょ? 伊藤さん」
あ、覚えてないんだ。
「お久しぶりです」
「ごめん、マジで分からん」
中学の時の同級生なんか、覚えている方が珍しいのだろうか。私は何となくみんなのことを覚えていた。それに……伊藤さんはそこそこ名前が知れてるだろう。この場合は覚えていない方が珍しい。
「改めまして、伊藤礼華です。確かあなたは……戸田さんだよね」
「はあ?! 何で私の名前知ってんの、いや、ってか覚えてるのか」
常時オーバーリアクションなのにはもうすっかり慣れてしまった。
「あんたはその持ち前の大声で目立つ存在だったでしょ」
「そうだっけ? そんな数年前のこと、思い出せないわ」
ガハハハと豪快に笑う姿は今も健在だ。
「面白い人だったのを覚えてて、声を聞いてすぐ思い出せた」
戸田七菜香、女子版クラスのムードメーカー。当時はバスケ部だったか何かでショートカットにしていたそうだが、今は若干長めのミディアムヘア。容姿も可愛い方に属すだろう。
「なにこの子優しすぎでしょ……みんな私にうるさいだけの馬鹿みたいなこと言うのに」
「いや、そんなこと無いと思うけど……」
「そうに決まってる。あと、名前は伊藤さんだから」
「流石に覚えてるって、心配性だなぁ」
ちゃんと覚えてくれたようでこっちとしてもありがたい。
「そうだ! 2人とも! 今から神殿病院で仕事たのまれてるんだけど一緒に来てくれない?」
唐突な勧誘。
病院か、まあ紹介がてらに丁度いいかも知れない。
「うーん、私に手伝えるかな? できること少ないかも」
「大丈夫、大丈夫!女の子も沢山いるしー」
「どうせ、断っても連れて行かれるだろうし、いいよ」
案内ついでに、だけど。
「やったー! 有城さんが誘いに乗ってくれるとか初めてかも、すごい嬉しー」
人によっては薄っぺらさ全開に聞こえるこの言葉もそのままの意味の褒め言葉なんだろう。
◇◆◇
「お人形さんみたい」
「すごいすごーい、キラキラしてる」
「ねぇ、おねーちゃんどこの人ー?」
神殿病院と呼ばれる場所に着くや否や小さな女の子たちにあっという間に囲まれてしまった。
「これっ! 伊藤さん困ってるでしょ。それに、初対面の人にはまず挨拶!」
「こんにちはー」
きちんとお辞儀をする子もいる。
「ねぇねぇ! イトウさんって言うの? 七菜香お姉ちゃんや真凜ちゃんといるってことは、同じシスターなの?」
「ううん。私はただのお客さん。今はお姉ちゃんたちにここの案内をしてもらってるの」
誤解を招くような言い方はくれぐれもしないように気をつけよう。
「お姉さんたちは今からお仕事だから、今日は構ってあげられないよ」
「えー、遊んでよー」
「また来るからその時遊ぼうね」
2人は子どもたちと親しいと見える。そう言われると子どもたちは渋々ながら違うところへ駆けていった。
「無理はしちゃダメだからね〜」
「はーい!」
そうか、ここは病院。あの子たちは何らかの病気や怪我を背負っているはずだ。そうとはまるで見えないほど元気に駆け回っている。
「神殿の近くには数多くの研究所があって、その中に医学の研究所もあるの。だからここに来れば少ない費用でも適切な医療が提供される。何かと遠い国から患者がやってくることが多いし……中には家柄のいい子もいるみたい」
ここは大陸でも有数の総合病院として機能しているみたいだ。それに加え、この敷地面積。広い庭のついた病院など元いた世界でも珍しいだろう。
「後は……治癒系の神力を持つ人たちもここで働いてるからそこまで大掛かりな手術は必要ないしね。それでも力及ばない場合もあるんだけど」
「す、凄いね。私も大怪我したらここでお世話になるかも」
そんな事態になりたいとは微塵も思わないが。
「なんかあったらここに尽きるよね。私も病気なったらここ来るだろうし」
「その前にちゃんと神殿のことをもっと学習してください」
戸田さんには何処か刺々しいというか、毒があるというか……でも言われている本人はちっとも気にして無さそうだ。その鋼のメンタルはぜひとも見習いたい。
「んで〜、頼まれてるのが昨日入院してきた子の様子見。なんか貴族の子らしくて、馴染めるか心配だから見てきてほしいだってラリアさんが」
親元を離れて入院生活を送るのは小さい子にとっては心もとないことだろう。
「要はコミュニケーションか……」
「私ほんと教養ないからさー、見下されないか心配で心配で」
病院の外観も綺麗だったが、中も広々として清潔感漂っていた。すれ違う看護師さんのような人たちと軽く会釈を交わしながら、目的の病室に着いた。スライド式のドア横には名札が1つ取り付けられている。
フェリックス=グラツィア
名前からして男の子のようだ。
トントントン
戸田さんがノックをして躊躇なく扉を開けて入っていく。私たちもそれに続いた。
「えーと、名前は……」
「フェリックス=グラツィエです」
ベッドの上に腰掛けていたのは私たちと同じくらいの歳であろう美形の青年だった。子どもの未熟さがまだ少し残る儚い声でそう呟いた。
右脚が吊るされているということは骨折か何かだろう。
「調子はどーですか?」
「足の痛み以外だったら何もない」
こちらには興味がないようでずっと窓の外に目線が向けられている。
「何歳だっけ?」
「もうすぐ16」
ということはだいたい一つ下ぐらい? 大して歳は離れていないようだが、その素っ気ない態度が妙に大人びて感じられる。
「お姉さんたちはここのシスター? それにしてはやけに奇抜な格好してるよね」
「オシャレな格好って言うんだよ年下くん」
こちらのことが窓の反射で見えているのだろうか。戸田さんのコスプレしたような衣装のことを気に留めている。
「いつになったら帰れる? あまりここに長居する訳にはいかないんだけど」
「治療困難だって診断されたばっかでしょ、安静にしときなよ」
青年はただ戸田さんとの淡々とした会話をするだけでそれ以上は何も話そうとしなかった。静まり返った病室に焦りを覚えたのか、戸田さんは目線でこちらに助けを求めてくる。
「……早く帰りたい」
「そんなに帰りたいんだ。何かしたいことがあるの?」
「お姉さんたちに言っても伝わらなさそうだし、いいよ」
「分かる、分かる。何とお姉さんたちはもれなく神様とやらの使い……」
すかさず戸田さんの口を有城さんが塞ぐ。
「こらっ、それは言っちゃダメだって」
「それって神力持ちってこと……?」
先程まで興味なさげだった青年はようやくこちらに顔を向けた。薄めの茶髪にまだ発展途上と思しき整った顔立ち。黄金色の瞳がそれに色を添えているようで美しかった。
やはり、美形。ここの男の人たちは本当に目に毒だ。
「まあ、そうなるね」
やってしまったとばかりに有城さんと顔を見合わせてた。
「こうなったらいいか」
「そーです。私らは神力持ち、だから少年の気持ちも他の人よりは分かるんじゃないかな?」
戸田さんは全く懲りていない。
「ふーん」
それに納得したのかポツポツと事情を打ち明けてくれた。
「足を怪我したの神力のせいなんだ。練習中に力が暴走したみたいで体がズタズタになった」
「ズタズタ……」
え、怖すぎない。神力って暴走するの?
自分の神力が危険度の少ないものだからか、その辺の心配というのは全くしたことが無かった。しかし、神力が危険な方に左右することもあるというのはよく聞く話だ。
「そのせいでこの様。足以外は時間経過で治ったけど、足は全く良くならなかった」
溜め息を吐きながら、
「最後にここに縋ったけど、治療困難だって匙を投げられる始末さ。まあ、痛みはマシになったけどね」
吐き捨てるようにそう言った。
「治癒系の神力もダメだったの?」
「まあね。特に神力でそうなった傷は治しにくいらしいし……一生このままなのかなって思って」
表情にも影が差したように思える。希望溢れる若者のする顔では無かった。
「まだ望みを捨てちゃダメじゃん。これから劇的に良くなるかもだし、そしたらしたいことすれば良いよ」
咄嗟にそんな言葉をかけられる戸田さんを尊敬した。
「そうなったら……騎士団に入りたいな」
ん?騎士団?
「フェリックスくん、出身は?」
「アルフォゲルのグラツィア侯爵家だけど……」
「もしや、ルヴァさんのとこの王室騎士団だったりしない?」
今まで以上に食いつかれた。
「お姉さん知ってるの?」
「ゆ、有名だからね」
しまった、先走りすぎた。
「でも何でそこだと思ったの? 騎士団なら他にもあるのに」
アルフォゲル城に滞在していた際に、主な貴族についての本を読んだなんて言っちゃダメだろう。そこに確かにグラツィエ家についての記述があった。
「この子、水鏡」
「……?」
有城さん……? 唐突なカミングアウトに驚かされるも、いつしか青年の目が輝きだしていた。
「ちょっ……有城さん……!」
「お姉さん! もっとこっち来て!」
戸惑っている暇もなく、有城さんと戸田さんはグイグイ私をフェリックスくんの前に押し出した。
「水鏡って何?」
その際、七菜香が小声で真凜にそう聞いた。
「帝国の王族」
真凜も小声でそう返す。
「すごい、全然そうは見えない」
いつの間にやら両の手をがっちり掴まれている。
「てっきり何処かの令嬢さんかと思ってた」
「ただ居候させてもらってるだけなんだけど……」
「右手が利き手? 人差し指の皮膚の皮が少し硬くなってるから銃火器を扱ってるんでしょ」
後ろからの視線が痛い。
「そ、そうだけど、まだまだ見習いで……神力もまだ使いこなせてないし……」
今日何か知ったところでどうこうできるものでもない。
「フェリックスくんならもっと強い騎士さんになれると思うよ」
「ほんと?」
「うん。絶対そう。早く怪我が治ってくれたらいいね。私も治れ〜治れ〜って応援するし」
幼稚すぎやしないかと思いながらも何重にも固定されているであろう包帯の上に両手を当ててそう願った。
「私もおまじないするー」
「あははっ、お姉さんたち面白い人だね」
ようやく明るい表情になってくれた。恥ずかしいけれど、これで少しでも元気になってくれるのなら願ったり叶ったりだ。
「すみません、面会はここまででお願いします」
いつの間にやらドアが開かれ、看護師さんが入ってきていた。あの恥ずかしいことを見られたのではないかと一気に羞恥心が湧き出す。
「はい。かしこまりました」
有城さんがそういうと、看護師さんは微笑んで巡回に戻る。
「お姉さん」
今度は腕を掴まれた。
「また来てくれる?」
そんな風にねだられてしまっては、私が断る訳ないだろう。
「しばらく滞在するから、明日また来るね」
安心したような笑顔を見れてこっちまで気分がいい。
◇◆◇
「久しぶりのお風呂だ〜、あったか〜い」
修道院の共同スペースの一つにこの大浴場が設置されている。ここは日々働く女性たちにとっても人気の施設だ。
「まさかシャワー付きでこんな大きなお風呂に浸かれるとは思ってなかった」
「テイコクってお風呂とかないの? それめっちゃ不便じゃない?」
水面から少し浮かび上がってきて七菜香が尋ねる。
「もちろんあるよ。でもね、こんなに大きくないし、シャワー室は実質男の人専用みたいなとこかな」
「確かにそこ使うのは勇気がいるかも」
3人とも白いタオルを頭に乗せながら談笑を楽しむ。
「お風呂は2、3日に一回、銭湯に行くんだけどちょっと行きづらい……かも」
「そりゃそんなどエロい体つきしてたら誰もが見るよ」
「こーらー、だから言葉使いをどうにかしなさい!」
真凜がすかさずチョップを放った、が、納得もいく。
「いやいや見た目のせいでしょ。ほら、私どう見ても外国の人にみえるもん」
「だーかーらー、そんなおっきいものぶら下げてるからだって」
「これでも頑張って痩せたんだよ」
「嫌味か、それは。お仕置きしてやる」
「ちょ、ちょっとやめてって」
笑い声と2人分の言い合う声が場内に響き渡る。真凜は内心、人のいない時間帯にこうして良かったと胸を撫で下ろしていた。七菜香の悪ふざけは留まることを知らず、どんどんヒートアップしている。
「どこ触っても柔らかーい」
いつの間にやら完全に水面から上半身を出す羽目になり、礼華は羞恥心でいっぱいだった。
真凜もその体をまじまじと観察していた。
「ほんとにっ、くすぐるのやめてっ」
2人の戯れる姿も悪くないなと思いつつ、女性としてこの光景をやましい心無しに見れることに感謝すらする。
「そういえば、家族がいるって言ってたっけ?」
その言葉に七菜香の動きがぴたりと止まった。
「うんうん。姉さんと兄さんがいる」
「お兄さんって……カッコいい?」
抱きつく形のまま、じっと礼華の顔を覗く。
「その部類に入ると思う」
「マジ! 行きたい! 帰る時連れてってー、おねがーい」
「どしたの?」
「また始まった……」
真凜はその様子に呆れてものも言えない。
「ここに来ちゃったからには人生楽しみたいじゃん、だからいいでしょ?」
彼女の夢は国宝級イケメンとゴールインを決めること。以前の生活では推しのアイドルとどうしても距離が生まれてしまうのが嫌だったが、この世界は物理的な距離しかないため恋愛も自由に行える。そしてこの戸田七菜香はイワンと同じ空間転移系の神力を所持しており、その力は未だ彼女にとっても神殿側にとっても未知数。それゆえ、大半の素行の問題は神殿側も目を瞑っているのだ。
「私は別に困らないけど……」
「謙虚な姿勢で過ごさせていただきますので、よろしくお願いしまーす!」
「せっかくだし、3人で行こっか」
「私も?!」
「多い方が楽しくなりそう」
真凜はこの短期間で礼華に逆らえないようになってしまった。
「別にいいよ」
「きっまりー!」
この調子ですっかり意気投合してしまった3人。彼女たちの珍道中はまだ続く。




