春の女神
更新したつもりが更新されていなかったようです……
長らくお待たせいたしました!
現在、有難いことに作者多忙でございますので更新頻度はかなりゆっくりだと思っていただければと思います。
流石にこれほどは空かないと思いたい。
「……分かりました。本来ならば他の司祭に立ち会っていただくところですが、事情が事情ですので私たちだけで行いましょう」
ラリアは人差し指を口元に立てて、これから起こることを3人だけの秘密にすることを示した。
「ありがとうございます! 準備などはぜひ手伝わせてください、出来ることなら何でもします。」
念願の再会が果たせるのだ。再び彼女に会える喜びと今度こそ自分の力をはっきりさせようという使命感のようなものが礼華の中に混在していた。
「あくまで必要なのは私の意思だけですよ」
ラリアはもう一度ニッコリと微笑んだ。
◇◆◇
ラリアさんの言葉は聞いた。そこまでの記憶はちゃんと残っている。そう、私は神殿にいた。だが、今はかつて来たあの場所にいる。
「お帰りなさい」
あの子は優しくそう言った。
「いつかあなたが来てくれる、そんな予感がしてたわ」
あの時と同じ優しい笑顔の彼女はどこか寂しそうにそう言う。
「ただいま。今戻ってきたよ」
なんとも自然にその言葉が出た。それは、もう既に懐かしさを感じている自分がいるからかも知らない。
「戻ってきて早々なんだけど……お願いがあって」
まず第一にお願いすることは決めている。これは早急に解決すべき問題点だ。
「私の顔、元に戻らないかな?」
思っていたのと違う反応が返ってきた。女の子は目をパチパチさせながら首を傾げている。こちらが何か可笑しなことを言っているみたいに。
「どこか怪我をしちゃったの? ダメじゃない、せっかくこんなに綺麗なんだから」
「いや、そうじゃなくて……あの、私、あなたの力でこの顔になったんだよね?」
「何もしてないんだけど……」
お互いの言葉に戸惑いあうという何とも意味不明な状況になってしまった。
「じゃあ、私に与えられた力は?」
「成長よ」
返ってきた返事はまたとして予想外のもの。
「せいちょうって、言葉でしょ?」
「あぁ、ごめんなさいね〜。私、うっかりしててあなたに与えた加護のこと話せてなかったみたい♡」
納得のいく答えを得たらしい彼女はスラスラと自らが与えた加護について話し始めた。
「私の名前はアウクソー。あなたは?」
聞いたことのない名前だ。
「前は伊藤礼華で、今は水鏡礼華です」
「うんうん。とってもいい名前ね、れいちゃんって呼ぼうかしら」
この神様の距離感には相変わらずこちらが驚かされる。
「アウクソー様は私の担当神になるんだよね」
「えぇ、そうよ。それと、呼ぶ時はアーちゃんでいいわよ♡」
アウクソーこと、アーちゃんは決めポーズをとってウィンクをした。この際、このノリの軽さで良かったとさえ思った。
「加護のことだけど、私があなたに与えたのはあくまで概念ってところかしら? だってれいちゃん痛いのは嫌だって言ってなかったじゃない」
(私、そんなこと言ってたっけ?!)
どうにも思い出せない。しかし、ここに来たのは少なくとも2ヶ月も前のことのはず。その時にした会話を私が全て覚えているわけないだろう。何せ、夢はすぐに忘れてしまう。夢だと思ってしまっていたのなら仕方がないことかも知れない。
「私たち担当神はね、自分の力の範疇で加護を与えるの。例えば、れいちゃんがあの時私に感覚を無効にする加護を与えてくれといっても無理だったって訳。そこで、私が考えたのが私の概念そのものを加護にする方法! 私は美と万物の成長を司る神、よって成長の概念をれいちゃんに授けたわ♡」
どうだ、と言わんばかりのキメ顔。アーちゃんは神様というよりは一風変わった人間の女の子という方が近いのかも知れない。
「でもそれじゃ痛みは消えない気がするんだけど……」
「そう! そしてここで重要になってくるのがれいちゃんの存在。信じられないかも知れないけど、あなたは元々神力を持ってたのよ」
ここで今世紀最大の爆弾発言が登場。
「神力って神様の力のことでしょ? 私れっきとした人間なんだけど」
「私も始めは他の神様の守護を受けてるのかと思ったのだけど、どうやらそれも違うみたいでびっくりしちゃった。でもよく考えてみると、強ち間違ったことでもないわ」
アーちゃんは私の両手を掴んで
「あなたのご先祖様はきっと神様だったのよ♡ 人と神の種族を超えた禁断の恋……最高にロマンチックじゃない!」
と興奮気味である。
一方の私はもう意味が分からない。だが、目の前の神様はそれを信じて疑わないような目でこちらを見つめてくる。
「まあ、という訳で元々の神力の力をさらに引き出す形で、身体におけるダメージを軽減! といったところかしら」
「神様だから、全部お見通しってことか」
そういうことにしておいた。
「んー? でもそれとこの顔関係なくない?」
「れいちゃんは盛大な勘違いをしているわ。ほら見て」
アーちゃんが右手を広げたと同時に手鏡が現れる。そこには私の顔が映し出された。
「加護の影響で髪色とか瞳の色とかは反映されてるけど、私たち全然似てないわよ」
そう言われてまじまじと自分とアーちゃんの顔を見合わせた。確かに、美の系統が根本的に違う気がする。幼さゆえだろうか。私の肌は白いが、アーちゃんほどではない。むしろ人種が決定的に違う白さだ。よく見れば眉の形も目の大きさも鼻の形も輪郭も似ているようで全て違う。愛らしい美しさと大人びた美しさが違うのと一緒なのだろうか。
「初めて気づいたかも……」
「それにここに来た時から変わらないわよ。それ以外はね」
でもそれはあり得ない。もし私がこれほどの美形であったのならもっと注目されていたはずだが、その記憶もない。むしろ、典型的な地味子。いつも教室の隅っこで何人かのメンバーでいるタイプだ。
「なんか、こう、もっと醜かったと思うんですけれど……?」
「うーん。ここに来た時の反動かしら? こんな例は聞いたことないし」
今度は手鏡が一瞬で消え去り、アーちゃんは何か考え込む様子でそこら辺を歩き回っている。しばらくすると急に立ち止まった。
「ごめんなさい。私は名前だけ存在しているような神様だからその問題を解決できそうにないわ」
残念そうな顔も可愛いと思ってしまう。
「じゃあ、この現象って?」
「私たちの遊戯みたいなものかしら? 私自身も担当神に選ばれるまでただの噂だと思っていたもの」
(え、そんなに軽い気持ちで私たち呼び出しちゃっていいの?!)
この遊戯とやらを最初に考案した神様とやらの顔を拝んでみたい。
「アーちゃんでもよく分からないんだ」
「うん。ごめんなさい、役に立てなくて……」
相当落ち込んでくれているみたいだ。
「もしかして嫌だった? そうよね、普通。こっちの都合で急に人生めちゃくちゃにされたようなものだし、それに、それに」
「いや全然。むしろ最高。こっちに来れてほんとに嬉しい。マジで感謝」
予想外の回答に困っただろうと思ったが、アーちゃんはクスクスと笑いを堪えていた。
「やっぱり、人間って面白いね」
笑っている仕草でさえも上品なものに思えた。
「あなたの担当になれて嬉しいわ」
「こっちこそ、アーちゃんが担当で良かった」
短い時間の中でこんなにも気を許すことのできる神様など他にどこにいるのだろうか。その後もたくさん話をした。自分の今の境遇や憧れの人、ここでの生活や頑張っていることなどを一気に話した。アーちゃんはそれを自分のことのように聞き入っていて、喜んだり驚いたりしてくれた。元々話すのが上手な方では無かったが、彼女の前では何を話そうかとワクワクする。話していて楽しいと思える人が増えていた。
時間を忘れて……いや、ほんとに忘れてた!
気づけば優雅なティータイムを送っていた。
「私そろそろ帰らないと……」
もう少しここにいたいとは思うが、ラリアさんたちをずっと待たせている気がしてきだした。
「時間の流れは一緒だよね……」
恐る恐る口にしてみる。
「多分そうじゃないかしら?」
どうやら最悪なケースは免れたようだ。
「でも一つ問題があるのよ」
「問題?」
何やら怪訝そうな顔。
「帰らせ方が分からないわ」
ピシャーと雷のような衝撃を受けた。
「確かに……私何も聞いてない!」
まさかの最重要課題。この様子だと本当に知らなそうだ。今ここでそのことに気づいた。
「その司祭とやらの力にもよるのだけれども、こんな長くここにとどまれた例は聞いたことがないの。もしかしたら私の加護があなたの神力に馴染みすぎたのが原因かも知れないわ……!さすが私」
そのポジティブシンキングには敵わないと思った。
「帰りたいと強く願えば帰れるんじゃないかしら? そらで駄目なら私のお友だちに聞いてみるわ♡」
「強く願えば……」
その一瞬で、礼華の姿はたちまち消え、テーブルにはまだ湯気のたつティーカップが残されていた。
「あら、ほんとに帰っていっちゃった」
残されたクッキーを一口食べて呟く。
「今度からはもう少しいてもらおうかしら」
◇◆◇
「帰れる」
またいつのまにか戻ってきてしまった。全くもって瞬間移動している感覚も湧いてこない。気づけばまたあの礼拝堂だ。
「戻ってきたの?」
2度目となる不思議な感覚。最も、以前は空の上だったが。
「体ごと向こうに行けるなんて……」
礼華が消えた直後は実感が湧かなかった真凜もここで思い知らされる。目の前の彼女の脅威ともいえる神界への親和性と高い神力量に。
「お話は出来ましたか?」
「あ、はい。お待たせして申し訳ないです」
「いや〜、良かったです。正直を言うと、礼華様が消えた時はこちら側がヒヤッとさせられました。まあともあれ、帰って来てくださったのでこちらとしても安心です」
先ほどまでと違う飄々とした態度。おそらくこちらがラリアさんの素の状態なのだろう。
「お聞きしたいことは山ほどありますが、お疲れでしょうしまた日を改めます。真凜さんに引き続き案内を頼みますね」
「はい、喜んで」
こちらへ、と真凜は礼華の手を引く。
「あの、ありがとうございました」
ラリアさんにお礼を言って私たちは礼拝堂を後にした。それにしても有城さんの腕を掴む力が強すぎはしないかと思う。
礼拝堂を出てしばらく歩いたあと、真凜は足を止める。
「私が言える立場じゃないのは分かっているけど、水鏡に身を置くのは良くないと思う。だから……」
何か良くないことを言われるのだろうかと身構えてしまう。
「あなたがここに留まってくれるよう、神殿での暮らしの素晴らしさを教えてあげるわ!」
物事はいつもおかしな方へと進んでいくようだ。
◇◆◇
1人で考え込むラリアに声をかけるものがいた。
「お前が珍しく大司祭様をやってるなんて驚きだな」
「それはお互い様ですよ。司祭が盗み聞きですか、イワン」
「指定された場所に一緒にいた連中、関係者かと思えばまさかの身内だったとは心底驚かされる」
「彼女にも事情があってのことでしょう。それに、大切に扱われているようで何よりです」
「そうかよ」
イワンは呆れたようにため息を吐いた。




