再び日常へ
「ダリア様、今日まで本当にありがとうございました」
「そうか……」
「はい! とても有意義な時間でした」
「堅苦しい仕事があったにも関わらず、わたしも楽しむことができた」
「それは……?」
「報酬だ。これくらいは用意せねばと考えてな」
「そっ、そんな恐れ多いです! ほとんど何もしてませんし……」
「わたしの頼みを断ると申すのか? それでは我が名が廃れてしまう。さて、どうしたものか」
「……ふふっ、やっぱダリア様には頭が上がりませんよ。分かりました、有り難く頂戴いたします」
「中に参拝許可証を入れておいた。好きなように使ってくれ」
「……ありがとうございますっ」
「もっと自分に自信を持て。親愛なるわたしの友よ」
◇◆◇
帰路の道中、馬車の中で夢を見た。大切な思い出になるだろう……この先も決して忘れることのない。
「お邪魔しまーす」
ここは龍宮家の本邸であり、零士さんが住んでいる。立派な門を抜けると、伝統的な日本庭園を少し抜ければ目的地に着く。
「おっ、礼華ちゃーん。久しぶりー」
「お久しぶりです。勝彦さん」
「会いに来てくれて嬉しいなー」
一見、少年に見えるこの人は椛峯勝彦。着物のような服を着崩し、幼さ残る顔だちと男性にしては低い背丈。こう見えて二十代後半で、姉さんはもちろんアランさんや零士さんより歳上の大人である。椛峯家は代々龍宮家に仕える一族で、彼も零士さんの補佐の役目を全うしている。
「まあ、でも会うなら若に会ってやってよ。ここんとこずっとしょげてたし」
「冗談ですよねー、零士さんが寂しがってる姿が想像できないんですけど」
「いやーそれがねー。ずっとこんな感じで物思いにふけったりさー」
勝彦さんはとても気さくで面白い人で、一緒にいるとついつい声を上げて笑ってしまう。歳上の相手のはすが、どこか親戚の男の子のような親近感が持てる。
「俺のこと忘れてるだろ、お前ら」
先程から横にいる青年は、元クラスメイトの木戸龍也。彼は零士さんによって保護され、それから神力の扱い方を勝彦さんに指導してもらっているそうだ。ちなみに勝彦さんも能力者だ。
ダリア様から聞いたところによると、神力と能力は似ているようで全く違うものらしい。大前提である神力は神の力と書くように、主に神様から与えられた力のことを指す。神力の器の大きさには個人差があり、それは生まれつき決まっているそう。そして、その神力をもつ者に呼応するかのように能力を持つ能力者が現れた。能力は神力と違い遺伝することがほとんどない。しかし、稀に先祖返りのように突然能力者が誕生することもある、と聞いた。水鏡の軍隊、ハルさんや勝彦さんはこれに当たる。能力は神力と違い、実に様々な種類があるという。
「龍也は調子どう?」
「最悪。稽古がスパルタだからな」
龍也とは正直それほど話したこともなかったが、今では少し話すようになってきた。
「おいおい、休む暇なんてお前にはないぞー」
龍也の神力は攻撃性の高いもので、制御が難しい。1ヶ月そこら前までは一般人だった人に魔法みたいな力を制御できる方がおかしいけど。
「じゃっ、礼華ちゃん。俺らこれから稽古なんで。若のとこに行ってあげてねー」
勝彦はひらひらと手を振りながら龍也を引っ張って行った。
今日ここに来たのはアランさんから零士さんへの手紙?を渡すためだった。久しぶり会ってやれ、と相変わらず素っ気ない態度だが、彼なりの気遣いなのだろう。ちょうど会いに行きたいと思っていたので都合が良かった。
(どんな感じで渡せばいいかな?)
いつもはこんなことで緊張したりはしないはずだが、久しぶりともなるとどうやって会えばいいのか分からない。まして、平常でも零士さんと会う時はいつもその美しさに気をとられてぼーっとしてしまう。これでは下心があるように思われてしまうだろうか。
「ないこともないんだけど……」




