共闘 其のニ
今度はダリア目がけて攻撃が飛ぶ。鞭のようにしなる木は上から叩きつけるようにして彼女に襲いかかった。
「ダリア!!」
ナノハの不安とは裏腹にダリアはそれを切り捨てた。
「生憎様だが、守られずともわたしは強い」
木はその内部を見せながら地面に倒れた。その断面は驚くほど滑らかで一刀のもとで仕留められたものだと分かる。
「……どうやらそうみたいですね」
女王の実力は本物であると確信したナノハは彼女の言葉に従うと決めた。
「サポートに回れ。此奴は仕留める」
相手の能力が植物系のものである以上、その養分となる水を注ぐことは火に油を注ぐようなもの。2人はこれを理解していた。
「これは……王宮騎士か?」
男は少し戸惑う。いかにも王宮騎士団と思われる制服を着たこの者が目の前にいること自体が不可解だ。
アルフォゲルでの被害は最小限にする。これが上からの指示であり、襲撃犯の目的である。
しかし、目の前の能力者であろう2人を殺してしまえば襲撃は失敗に終わり、自分が危険に晒される。
その後も殺さない程度の攻撃を続けるも相手には通じなかった。死角からの攻撃はもう1人によって塞がれる。
「ふぅ、今のは危なかった」
サポート役という不慣れな立場だが、ナノハはその役もしっかりとこなす。
「余裕が無くなっているではないか」
ダリアはククと喉を鳴らして相手を嘲笑う。それを男のプライドは許さなかった。攻撃を容易く斬られ、避けられ、防がれ、ついには自分まで馬鹿にされ……男は我慢が効かなくなった。
「……1人であれば大丈夫か」
無表情で男がそう呟くと石畳の地面のあちこちがウネウネと動き出した。パキパキと何かが折れる音も聞こえる。
「ここはまずいです」
ナノハはよからぬ何かを感じ取り、ダリアに逃亡を促す。
「どうやらこの勝負、わたしらの勝ちのようだ」
パーン
側頭部の衝撃により男の視界が反転し、暗く塗り潰された。
「……何が起きたんだ?」
突然横に倒れた敵と、その直前に聞こえた銃声の微かな音。
「また1つ彼女に借りを作ってしまったか……」
やはり手放すべきではなかった、と呟きながら家宝の剣を鞘に収めた。
「気を失ってるだけか」
男の様子を確認したナノハは、側にあった形の変わったゴム弾を拾い上げる。それは自分が妹に贈ったものの1つだった。
◇◆◇
「当たった。……それに倒れた」
双眼鏡を持ち、リラは状態を報告した。
「ふぅー。あとは姉さんとダリア様がなんとかしてくれそうだね」
実戦で狙撃が成功したのは大きな成果だ。しかし、今の自分の技術では2度目の狙撃はできない。
ガチャガチャ
約10秒かけて空薬莢の排出を行い、すぐさま銃と周りに散乱した小物の数々をケースにしまう。
(まだ時間がかかる……)
急ぐのには理由があった。今いる建物の上は見晴らしが良く人を探すのに最適だったが、予想以上に狙撃の音も響いた。他の襲撃犯に見つかると厄介だ。
立ち上がろうと足に力を入れるも、思うように力が出ない。両足が地面についている感覚がない。
「……大丈夫?」
リラの眉が少し下がっている。彼女の表情が初めて動いた瞬間だった。
「うん、大丈夫。早く逃げた方が……」
この場から離れようとするも、それはそう簡単にできないと思い知らされた。
「なんだ嬢ちゃんとガキかよ」
青年だ。同年代ぐらいの。
「ちょっと機嫌が悪りぃんだ。すまねえな」
手から噴き出たのは炎。
(能力者に出会うなんて……!)
最優先はリラを逃すこと。自分のことはどうでもいい。怖いが、そうするしかない。
「リラちゃん?」
リラがいつのまにか低い柵を跨ぎ、ギリギリの端に立っている。もうすぐ落ちてしまいそうだ。
「……大丈夫だから」
そこからはスローモーションみたいだった。リラは真後ろに倒れた。その後、少し遅れてリラの名前を呼ぶ声が聞こえた。
下を見る勇気のない私はガクガクと足を震わせ、柵に縋りついている。
もうなんでも良くなった。頭が真っ白になり、何も考えることができなくなった。
その場にへたり込んだところで誰かに腕を掴まれる。
「大丈夫って言ったでしょ」
聞き覚えのある声の方を向くと、落ちていったはずのリラが立っていた。
「リラ?」
「うん」
間違いなかった。朱色のボブに、濃い緑色の瞳。笑っているけれど、無気力さは抜けていない。
「じゃあ落ちてったのは?」
幻覚? ドッペルゲンガー?
「わたしだけど、落ちたのは男の人」
何を言ってるのか分からない。
「怪我はしてないよね、うん、良かった」
怪我は無さそうだ。
(あの人がいない)
襲い掛かろうとしていた男の人が消えていた。
(もしかして……)
今度は柵を乗り出して下を確認した。あの人が倒れている。この高さから落ちたにも関わらず、血も流れていなければ、体も原型をとどめている。
「これがわたしの能力。人やモノを入れ替えられるの」




