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空からの贈り物  作者: 麗蘭。
初めての仕事
12/29

前日の


 1年間12ヶ月365日、それはここも同じだった。元の世界で3月25日、こっちでも3月25日。そう、真紘の誕生日に合わせて結婚式が行われる予定だ。


 今日は3月24日。結婚式の前日である。


「本当に結婚するんだよね?」


 心なしか、疲労が溜まっているように見える彼女に聞く。


「うん、もう正式に婚姻は済んでるんだけど……一生に一度のことだから盛大に祝うって、あの人が……」


(一生に一度って、生涯を共にする気満々じゃん)


「いいなー、幸せで」


 私はともかく、他の転移者は元の世界に帰りたい。そう言うのが当然だと思っていた。皆それぞれ大切な存在がいたはずだから……


「それでね、相談があるんだけど……」


 真紘は膝の上の手をキュッと合わせた。今は、いつもの彼女ではなかった。


「相談?」


「うん。実は……」


 彼女の口から溢れた言葉に目を丸くした。


「嘘じゃないよね……」


 どう反応していいのかが分からない。


「多分……まだ診てもらってないんだけど、生理も来ないし、体調も安定しないし……もしかしたらって」

 

(もうそこまでいってたの……!?)


 2人の関係が予想以上に近しかったみたいだ。非常に幸せなことなのに、彼女の表情はいつになく曇っていた。


「自信を持てないの……もしかしたらって思っちゃうの、わたし汚れてるから……」


 今にも泣き出しそうに唇を噛み締める姿に心が痛む。


「相談してくれてありがとう」


 礼華は立ち上がり、震える彼女の手を包み込んだ。


「……」


 不思議な感覚だった。真紘に触れた途端、何かが見えたのだ。彼女のお腹辺りに白く輝く光が……


 見間違えではなかった。


「もしかして、アニールさんって神力持ち……?」


 それを聞いた真紘はバッと顔を上げる。


「なんで知ってるの」


 真紘は驚いた。ラヴィーネ公爵家が代々神力を受け継いでいるという事実は国の重臣にしか知られていない。


 どうして礼華が……? と言いたそうな表情をする彼女を見てある考えが確信に変わった。


「その子はまーひーとアニールさんの子どもで間違いないよ。だって今……神力が見えたから」


 以前、ナノハはこうとも言っていた。神力を光として見ることのできる者がいると。


「ううっ」


 真紘は大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。


(やばい! 嘘じゃないけど、こんなの普通信じれないよね……)


 言葉の選択を失敗したことを悔やみながら、真紘の背中をさする。


「クレイオー様がね……言ってたの……」


 少し息を切らしながら言葉を続ける。


「私の神力に色はないって……」


 涙を手で食い止めようとするも、あまりに嬉しくていろいろな感情が溢れた。


「だから……この子は……」


 今にも泣きそうになりながら、背中をさすってくれている親友を見てにっこりと笑って言った。


「ありがとう」


「えっ、えっ、急にどうしたの?」


 突然泣き止んだ理由が分からず、あたふたする。


「この子、絶対にアニールさんの子だよ」


 真紘はそう言うも、礼華は動揺しすぎて聞こえていなかった。


「目……! そう、目が赤く腫れちゃうよ。はやく冷やさないと……」


「ふふふっ」


 そのぎこちなさが面白くてつい笑ってしまった。



 ◇◆◇



 城内に設けられた来客用の宿屋。ここには結婚式とその後2日にわたって開かれる祝賀祭の警護を行う者たちが集められた。


「おい、あれが噂の水鏡だぞ……」


 無論、警護につくのは水鏡の軍隊だけではない。アルフォゲルの騎士たちも同じく護衛を任されていた。


 その異質さは他国の騎士たちも周知している。


 宿屋にしては豪華すぎるその広間の赤いソファーに、水鏡ナノハが座っていた。


「なんか俺たち睨まれてないか?」


「ばかっ、指差すのは失礼だろ」


 ナノハ自身、睨んでいる訳ではなかったが、その鋭い目つきは睨んでいるように誤解されやすい。


「……こんにちは、水鏡ナノハさん」


 そんな中で一人、彼女に話しかける者がいた。


「お前、誰だ?」


「失礼しました、王室騎士団長のルヴァ=ラヴィーネです」


 眩しい金髪の青年は深々と礼をする。


「思い出した、アニールの弟か」


 ルヴァ=ラヴィーネ、唯一の公爵アニール=ラヴィーネの弟で、ナノハと同い年の能力者である。


 人当たりの良い性格で、人望も厚く、理想的な団長であると言えるだろう。


「ようやく思い出してくれましたか、忘れられてしまったのかと思いましたよ」


「大きくなったなー」


 ナノハは立ち上がり、ルヴァの様子を隈無く確認した。


「誰かをお待ちなんですか?」


「まあな、妹を待ってる」


 礼華の事情は兄から聞いてすでに知っていた。


「マヒロさんの友達でしたっけ? 二人が結ばれたのはその妹さんのおかげだと伺いましたが……」


「それそれ、まさかあいつが結婚できるなんてなあー」


「兄に対して失礼ですが、わたしも未だに信じられません」


 ルヴァはてっきりアニールが独身主義者であると思い込んでいたが、突然の結婚報告を聞き、兄が病気にでもなったのではないかと公爵邸に押しかけた。その結果、見事に予想は外れ、今に至る。


「これで兄さんにまた先を越された訳だ」


ガチャ


「姉さん! ごめんなさい、遅くなりました」


 談笑をしたりして過ごしていた広間中の人の視線が一点に注がれる。


 青いドレスを身に纏ったその女性はコツコツと音を立てて水鏡ナノハに近づいた。


「会いたかったー」


「わたしもです。姉さんがいなくて寂しかった」


 久々の再会を喜ぶ2人は厚く抱擁を交わした。


「……アランさんは来てないんですか?」


「兄さんは船にいないといけないからな」


「残念です……」


「わたしがいるから大丈夫だって」


 ナノハは胸を張って宣言してみせた。


「元気そうでよかったです、そちらの方は……?」


「初めまして、ルヴァ=ラヴィーネです」


(ラヴィーネって、もしかして……)


「アニールさんの弟さんですか?」


「よくご存知で」


 端正な顔立ちはアニールさんにそっくりだが、アニールさんより細身の男性で威圧的な雰囲気は感じない。むしろ優しそうな人だった。


「似てるけど、似てないだろ」


 こくこくと頷く。


「ナノハさんはそればっかり言いますね」


 姉さんとルヴァさんは意外と仲が良さそうだ。いつものアランさんや零士さんへの態度と全然違う。


「ルヴァとは同い年なんだ」


「そうなんですか!」


 なんとなくだが、ルヴァさんの方が年上のイメージがあった。落ち着きがあるからだろうか。


「あ、姉さん。実は護衛の任務は明日までだそうで、残り2日は一緒に過ごせるみたいですよ」


「礼華とお祭りに……!」


「楽しそうですね、わたしもご一緒しても宜しいですか?」


 もちろんと言おうとしたが、その前に姉さんが即答した。


「絶対無理! 礼華と2人きりがいい」


「これは参りました……」


 拒絶されたルヴァさんは残念そうに頭に手をやる。


「姉さん、人数は多い方が楽しいですよ」


 これは経験論だ。もっとも、そこまで友達がいない私が言えることではないが……


「うーん、でもなぁ」


「それに、零士さんも来てくれるらしいです!」


 嬉しそうな礼華とは裏腹に嫌いな相手の名前を聞き、顔を顰めた。その変わりようは一瞬だ。

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