アルフォゲル城
頭にすっぽり被さった大きな帽子に、水鏡の軍服。制服のプリーツ広めスカートを丁度いい長さに裁断してもらって着ている。船にいるときは全然気にしていなかったけど、とんでもなくヘンテコな服装であることを今になって後悔した。
「この者に似合うものを全て持ってこい」
「かしこまりました」
店にいた数名の店員全てが一斉に動き出し、端から端までドレスを確認していった。
年配の店員が軍服の上から採寸を行う。
「コルセットなどはいかが致しましょうか?」
「やめておきます」
手際の良い店員さん達は、すでに何着ものドレスをそれぞれの手に持っていた。
(これ着るのどれくらいかかるんだろ……)
正直にいうと、試着とかは苦手な方だ。何着もとなると無駄に疲れてしまうし、着れない時の精神的ショックは計り知れない。
しかし、今は着なければならない気がした。女王ダリア・アドニス=アルフォゲルの視線が背後から刺さり、チクチクと肌が敏感になっていた。
彼女は完全に捕食する側の人だと改めて思う。
獲物を見定めて、仕留める好機を狙う……獲物は勿論私だ。
尚更、怖い想像しかできない。
◇◆◇
「まあ! とてもお似合いで」
店員は手を握り合い、自分たちの仕事を讃えた。店内は黄色い声で溢れる。
濃淡の異なる青のドレスは幻想的な雰囲気を纏い、紺のレースで覆われたざっくりと開いた胸元は艶やかな大人の魅力を引き出していた。
膨らんだ袖から覗かせる白い手は緊張からかグッと力強く握られている。
「これではそなたの方が目立ってしまうな、どうしたものか」
ダリアはわざとらしく、そう言った。
「そっ、そんなことありません」
「褒め言葉は素直に受けとるのが良い。そなたは最も美しい存在だ」
美しい、彼女の容姿は誰もがそう思うものである。しかし、礼華はその言葉があまり好きではない。
「そう気を落とすな。何もわたしが容姿のみで人をみると?」
悪戯に笑みを浮かべるダリアは彼女の全てを見通していた。
「女王様は私を、見た目で選んだのではないのですか?」
キョトンと目を丸くしている彼女が、また愛らしい。
「勿論だとも」
「……ありがとうございます」
自分の中で何かが吹っ切れて心の底から笑顔になれた。
◇◆◇
「嘘でしょ!?」
持っていたティーカップをテーブルにゆっくり戻し、もう一度内容を確認し直した。
侍女から何気なく受け取った手紙、我が愛しの親友、礼華が女王の護衛に選ばれ、今日、国に到着することが書かれていた。
(さすがダリア様。れいちゃんが賢いってこともお見通しって訳ね)
「マヒロ様!? お待ちください」
共にいた侍女も気にせず階段を駆け降り、正面入り口を開けようと試みるもそれは出来なかった。
「どこに行く気だ?」
背後から声をかけられ、外出を断念せざるを得ない状況に陥る。
「……あはは」
束縛の強い公爵は1人で外出など許すはずもない。
出くわしてしまった以上、翌朝まで離してもらえないことは確かだった。
公爵は柔らかな笑顔を見せ、彼女に手を差し出した。
◇◆◇
手を引かれ、降りてすぐ目の前に広がる光景はなんとも現実離れしたものだった。
高い塀を越えると、高くそびえ建つ城の全貌が明らかになった。
神秘的なほどに真っ白で想像していた城のイメージとはかけ離れていた。歴史のある城だとてっきり思い込んでいた、否、この国の歴史はとても古い。
1000年前という遥か昔に建てられた城のはずが、汚れなどどこにも見当たらず、塗料を塗っているにしろこの光沢は移譲だった。
「驚いただろう」
「はい……てっきりもっと古いものかと」
「別の世界にも城はあったのだな」
城を見ながら会話を続けた。
「これほど綺麗ではありませんが、あるにはありました。国によって異なりますけど」
「教養のあるそなたであれば分かっているのだろう。この城が建てられたのは確かに1000年も昔のことだ」
ダリアは丁寧に説明を加える。
「この城を建てた者はその当時、この世界に遣わされた者達だ」
その話を聞いて衝撃を受けた。
「それって…まさか」
「そのまさかだ。そなたらと同じ別の世界から来た者達……一括りで言えば神の使いである」
(私たちが初めてじゃない……だから姉さんがわたしの話を信じてくれたんだ!)
「そのことは聞かされていなかったようだな」
ダリアは髪を耳にかける。
「我々王族も、帝国の二大宮家も、その者達の子孫だ」




