古代文明の同性愛 ~冬月助手の憂鬱~
かつて南米大陸に存在した古代文明ウジュルマカラ。
国技である『闘球』で三回ゴールを決めた者は英雄となり、王となる資格を得る。
「はぁ……」
冬月真理は資料を見ながらため息をつく。
ウジュルマカラの研究を進めている彼女だが、どうも腑に落ちない。
8代目の王ヴァルハの愛妾が同性の親友だったことが分かった。残された碑石からそのことを読み解いた彼女だが、学会に発表しようとすると待ったをかけられる。
ウジュルマカラでは同性愛を禁止しているのが通説であり、それを覆すような発見だからだ。
世紀の発見としてすぐにでも発表したかったのだが、教授は慎重になれと言う。きちんと下地を固めてからでないと発表しても無視されるのだとか。
冬月はため息をついて、資料が山積みになった研究室でコーヒーをすする。
遺跡のある国の情勢が不安定で、ここ最近はずっと日本に閉じこもっている。
……退屈だ。
「冬月さーん、どうしたんですか?」
研究室に女の子が入って来た。
よく冬月に会いに来る。
長い栗色の髪がとてもきれいな、ゆるふわ系の女の子。
冬月はひそかに彼女へ思いを寄せている。
衝動的に後ろから抱きしめたくなったのは、一度や二度ではない。
「ちょっとね……研究者にもいろいろあるのよ」
「ふぅん……」
両手に資料を抱える彼女は、げんなりする冬月の顔を不思議そうにのぞき込む。
「もしかして……誰かに恋してます?」
そう言われてドキリとする。
「え? どうしてそう思うの?」
「なんとなく」
そう言って彼女は悪戯っぽく笑う。
これが魔性の女という奴か……。
「おじいちゃんがハットトリックを決めた話でも聞きます?」
「もう何度も聞いたわよ、それ」
彼女は何度も祖父の話をする。
その人にあこがれてサッカーを始めたとも。
「昔は私もすごかったんですよ~。
ハットトリックを決めたことなかったんですけど」
「そう……」
楽しそうに話す彼女の話を聞くだけで、私は幸せだ。
この恋が叶うことは無いと思うけれど。
「あっ、雪が降ってますよ!」
「え? もう?」
窓の外を見ると、灰色の空から白い雪が降り注いでいた。
「綺麗ですねぇ」
そう言って景色を眺める彼女を横目で見ながら、あなたの方がずっとキレイよと心の中でぽつりとつぶやく。
ウジュルマカラでは同性愛が禁止されている。
そんな国で心を通じ合わせた王とその親友は、いったいどんな関係だったのだろう。
クリスマスが近づいた雪の降る日。
遠い過去に思いをはせる。