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八話 魔物の国

魔物は怒ったら怖いですよ

 王城の城の内部はとにかく広くて大きい。毛玉の姿はあんなにも小さくて可愛らしいのに、城の内部は竜一匹が悠々と通れそうな作りとなっている。


 廊下や扉も大きなもので、ステラでは到底一人では開けられそうもない。


 そんな扉を、皆軽々と開け閉めする物だからステラは魔物とは大層力持ちなのだなと思った。


「今日は父上と母上しかいないから」


「そうなのですか?」


「あぁ。では行こうか」


 扉をヒューリーは一人で楽々と開けると中へと入る。


 部屋はこれまたかなり広々としたものであったから、中央にちょこんとある机やソファがとても小さなものに思える。


 不思議なつくりだなと内心ステラは思いながら、国王と王妃の元へと運ばれた。


 二人は立ち上がると頭を下げて言った。


「聖女様。昨日はお疲れの所申し訳ありませんでした。ゆっくりできましたかな?」


「聖女様。本当にありがとうございます。貴方様のおかげで私達はこうして本来の姿を取り戻すことが出来ました」


 厳かな出で立ちの二人に頭を下げられ、ステラは目を丸くしながら首を横の降った。


「いえ、私はただ、綺麗に洗っただけで、何もしてはいないのですが……」


 そう言うと、国王も王妃も微笑を浮かべた。


「詳しくは座って話をしましょうか」


「はい」


 ステラはもちろんソファへとヒューリーによって降ろしてもらえると思っていた。しかし、ヒューリーはソファへと国王と王妃と対面して座る。ステラを膝の上に乗せたままである。


 きょとんとした表情でヒューリーを見上げると、とても爽やかな笑顔を返された。


「ステラは私の膝の上だよ」


「え? それは、えっと、どうしてでしょう?」


 何か魔物の国の作法でもあるのかとステラが困惑するとヒューリーは言った。


「魔物はね、独占欲が強いんだ。食い殺す相手とは出来るだけ傍にいたいんだよ」


「……なる、ほど」


 他の魔物にとられないようにするためなのかと、ステラは納得するが、何ともいたたまれない。


 そして国王と王妃の何とも言えない微笑ましげな表情が、ステラをさらにいたたまれなくしていく。


「聖女様。改めて自己紹介ですが、私はこの魔物の国の国王レルド」


「私は王妃のミーランでございます」


「そして私が王子ヒューリーだよ」


 仲が良さそうにそう言われ、ステラは笑顔を返す。魔物とは想像とは全く違うのだなと思う。


 レルドはそこで小さく息を吐く。


「まず、聖女様。この国についてお話をいたします。少し長くなりますが、よろしいかな?」


「はい」


 レルドは魔物の国について静かに語り始めた。


 魔物にも様々な種族がいるが、それは大きく分けて二つに分かれる。人間と同じように意思を持ち、趣向を持ち、知性を持つ魔人と獣と同等の魔獣。魔獣は肉食のものは確かに気性が荒く人も襲うが、大抵の魔獣や魔人は穏やかな性格をしており、争いは好まないのだと言う。


 そして約百年ほど前まで人間の国とは友好国であったという。


 しかし、ガントーレ王国の裏切りにより、魔物の国は穢れに染められ、魔人は魔力が弱まり、そして人の姿を保てなくなったのだ。


 そればかりか王国中が黒く穢れに染まり、泉は死へと導くものへと変わってしまった。


 そして、美しかった魔物の国は失われた。


 レルドが一口茶に手を伸ばし、ステラは疑問を口にした。


「穢れとは、何なのです?」


「穢れとは呪いのようなもの。人には害がないようだが、魔物に浴びせれば黒く染まり、魔力は弱まる。ガントーレ王国は魔物を恐れた故に、力を弱めようとしたのだろう」


 ヒューリーはステラの手をぎゅっと握った。


「けれどステラという聖女が私達を救ってくれた」


「え?」


 ずっと自分が何故聖女と呼ばれているのかが分からない。ステラはただ森で毛玉達を洗っただけである。大したことはしていない。


 ヒューリーはステラを愛おしげに見つめると言った。


「穢れは普通の人には落とせないものなんだ。穢れを洗い流せるのは聖女だけ。つまりステラは私達を救ってくれた聖女様なんだよ」


「突然のことで動揺されるとは思うが、これは真実。我々が元の姿に戻れたのが何よりの証拠なのだ」


 ヒューリーとレルドの言葉に、ステラは驚きながらも自分の外見が変わった事を思い出し、それがきっかけかと思い顔を上げた。


「私、元々くすんだ髪色をしていたんです。でも髪も目も色が変わって……これは関係がありますか?」


 その言葉に、ヒューリーは首を横に振った。


「それはきっとこの魔物の森の泉に体を浸したからだよ。本来の君の姿に戻っただけ。でもその泉を清浄なものに戻したのもステラなんだよ。私はステラが泉の穢れを涙によって祓うのを見ていた」


 ステラはその言葉に確かに最初は黒く泉が染まっていたことを思いだす。


 自分が聖女だということが信じられず困惑して視線が下がるステラだが、ヒューリーに優しく手を握られて顔を上げた。


「私達は皆ステラに救われた。その事実は変わらない」


 ヒューリーの言葉に、ステラは自分が役に立てたのだと、心の中がそわそわするような嬉しいような不思議な気分を味わっていた。


 今まで誰かに感謝されたことなどなかった。


 だからこそ自分の役目が出来たようで、まるで生まれてきて良かったのだと言われているようで、ステラは瞳に薄らと涙を浮かべる。


「あの……私にできることがあるなら、手伝います。いえ手伝わせてください」


 その言葉にレルドもミーランもヒューリーも嬉しそうに微笑みを浮かべた。


「ありがとう聖女様」


「これからよろしくお願いいたしますね」


「ありがとうステラ」


 ステラは頷く。けれど、少しだけ心配になり尋ねた。


「ですが、もしかして、その……姿が戻った今、ガントーレ王国と、戦争に……なるのでしょうか?」


 その言葉にレルドは首を横に振った。


「私達にとって百年など一瞬のこと。たしかに穢れには迷惑はしたが死者はいない。それにな、戦争とは面倒なものだ。私達はそんなものに興味はないんだ。すぐに憎しみ、復讐に駆られる人間とは違うのだよ」


「そうなの、ですか?」


「あぁ。だが、迷惑したのは事実。故に穢れを全て消えた暁には人間が魔物の森へは入れぬように封じを施すつもりだ」


 その言葉にステラはほっと胸をなでおろす。


 ガントーレ王国に未練はないが、人が死ぬのは恐ろしい。それに、縁を切られたとはいえ家族が死ぬのも嫌だった。


「私はこれから一体何をすればいいのですか?」


 その言葉にヒューリーは言った。


「魔物の国に数か所、穢れをまき散らすモノが存在する。この城にも、穢れた腕輪があり、その穢れを祓ってほしい。あと、私達の仲間もまだまだ穢れで汚れてしまっていて、それを洗い流してもらいたいんだ」


 自分に本当に出来るのだろうかとステラは不安に思いながらも頷いた。


「私に出来るのであれば、協力します。まずは何からすればいいですか?」


 そう尋ねると、ヒューリーは言った。


「まずはこの城の穢れを祓ってほしいんだ。お願いできるかい?」


「はい」


 自分に初めてできた役割に、ステラは気合を入れて頷いた。


 自分にもできることがある。


 それがとても嬉しかった。


 だからヒューリーがぽつりとつぶやいた言葉には気づかなかった。


「魔物が本気で怒るのは、大切なものを奪われたり殺された時ぐらいだから、安心してね」


 ステラの頭を優しく撫でながら呟かれた言葉。それにレルドもミーランも頷いていたことに、ステラは全くもって気づかなかった。




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