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三話 婚約者

朝ごはんってなんで同じメニューでも飽きないんですかね。

読んでくださってありがとうございます!

 シャーロットがいなくなってから、ステラの日常はさらに殺伐としたものに変わっていった。


 甘えることは許されず、休みも必要最低限。自由など皆無である。


 そんな中、ステラは月に一度は必ず第二王子アスランと共に時間を過ごすようになる。ただ、この時間もステラにとっては癒しの時間とはなりえなかった。


 アスランはステラと対面するといつもむすっとした表情を浮かべ、大きくため息をつく。


 そのため息に、少しずつステラはびくつくようになった。


「はぁぁ……何で昔の僕は君を選んだんだろう」


「も、申し訳ございません」


 じっとアスランは立っているステラを睨みつける。


 お茶会なのにもかかわらず、座っていいとも言わず、席に促すこともせず、ただ、じっと立っているステラを睨みつけるとため息を漏らす。


「はぁぁぁ」


 ため息が一つ聞こえる度に、ステラは目の前にいるアスランが怖くなった。


 短い時は一時間程度、長い時には三時間ほどこの無意味な時間を過ごすのだ。


 ただステラのことを見てため息をつく。不満そうに、納得がいかないように。そしてたまに小言をいくつか言う。


「お前、なんでそんなにびくつくんだよ。嫌だな。面倒くさい」


「も、申し訳ございません」


「はぁぁぁ。謝るくらいならしゃんとしろよ。あー可愛くない。もっと可愛い令嬢を婚約者に選べば良かった」


 一度決められた婚約は簡単に解消できるものではない。それでもアスランが面倒くさがらずにちゃんと婚約を解消したいと言い、別の令嬢を指名したならば可能であろう。


 けれど、アスランはそれすらも面倒くさいと、面倒くさいことをするくらいならばこのままでいいとしたのである。


 そしてそれから月日は流れ、ステラとアスランは十六となり四年年後に結婚式が行われることが決まった。


 その理由としては、第一王子が現在隣国へと留学中であり、一年後に帰国予定だからである。そして第一王子は帰国した後に公爵家の令嬢との婚姻がなされる予定である。


 その為、第一王子の結婚式が終わってからの、第二王子の結婚という流れになったのだ。


 ステラはこのままで本当に大丈夫なのだろうかと、寝不足の中でぼやっと考えるようになった。


 十歳から始まった妃教育はかなり過酷なものであったが、あと四年あればどうにか習得することが可能であろう。出来がよくないと言われ続けたステラではあるが、どうにかこうにかここまでたどり着いたのである。


 教師達や家族はそれを当たり前としたが、ステラにとっては死にそうなほどに辛い毎日である。


 朝起きる度に、また今日が始まったのかとため息をつき、夜やっと眠れる頃には、また明日がくるのかとため息をつく。


 慢性的な寝不足は、ステラの意識を低下させ、現状が正しいのか正しくないのか分からないほどにまで麻痺させていた。


「シャーロット……」


 ベッドから体を起き上がらせて、頭を押さえながらしばらくの間ぼうっとする。夢の中でシャーロットと一緒に過ごしていた気がする。


 シャーロットから手紙が屋敷に届いたようだが、ステラの手元には結局届くことはなかった。


 両親には目の前で手紙を燃やされ、甘えるなと叱咤された。


 最近のステラが思い出すのは、シャーロットと過ごした幸せな日々のことばかりであった。


「……懐かしい」


 辛い日々の中で、楽しいことが一つもなかったわけではない。


 お茶会の席に飾られた美しい花には心を奪われたし、温かなお茶の味と香りは少しだけ心を癒した。些細なことではあったけれど、小さな幸せこそが素晴らしいものであるとステラは思うようになっていた。


「お嬢様、朝の支度に参りました。入ってもよろしいでしょうか」


「えぇ」


 今日も一日が始まる。そう思い、ステラはため息と共に立ちあがると侍女達の用意したお湯で顔を洗い、着替えを済ませ、朝食へと向かう。


 侍女達は誰一人としてステラとは目を合わせない。


 シャーロットの二の舞にならないように誰もが必死であった。


 美しく髪の毛は一つの三つ編みにまとめられ廊下を歩く姿は、儚げでありながらも美しかった。ただ、その美しさを見ても心を動かされない者はいる。


 家族からの毎朝の小言は毎日の定番となっていた。六年も続けば慣れるもので、今ではステラも聞き流すということを学んでいた。


 ただ静かに嵐が去るのを待つ。


 けれど、その日の朝はいつもとは雰囲気が違った。


「ステラ。お前は貴族である」


「……はい」


「ならば、これから何があろうと、我慢せよ」


 意味が分からずステラは視線を母と兄へと向ける。


 すると、二人の顔は青ざめており視線が合うとぱっと目を反らす。


 昨日の晩まではまだ変わりがなかった。ということは夜中に何かがあったのだろうかとステラはぼうっとする意識の中でも思考を繰り返す。


 何があった?


 何が起こり得る?


 貴族?


 我慢?


 カチカチカチと、頭の中で歯車が重なり合い、動いていく。そしてそれらがぴたりと合ったと思った瞬間、ステラは静かに目を見開き、そして顔を上げると父に問うた。


「……アスラン殿下ですか」


 両親と兄は席を立ち、そして出て行ってしまった。


 ステラは目の前に並ぶ朝食を、ゆっくりと口の中へと運んでいく。


 静かに、味わいながらふと思う。


「今日も美味しいわ。料理長にありがとうと伝えておいて」


 侍女へとそう伝え、ステラは朝食を味わいながら食べ終える。最後にごくりとリンゴのジュースを飲むと、静かに席を立った。


 頭の中はやけに静かで、部屋に戻った後、いつもならば部屋に訪れるはずの教師達は現れることはなかった。その事実に、ステラは瞳をゆっくりと閉じる。


 時計の針が進む音が部屋に響く。


 ステラはゆっくりと立ち上がると、シャーロットとの思い出の品であるペンダントを胸元へとそっと隠し入れ、そして小さく呟いた。


「シャーロット……怖いわ」


 目には見えない何かが迫ってきているように感じる。


 何かが近づいてきている。


 静かな時間が、とてつもなく恐ろしい物にステラは感じたのであった。


 そして次の日、ステラは自分の命の軽さを身をもって知るのであった。


「罪人ステラ。そなたを連行する」


 騎士団の団服に身を包んだ騎士達が、ステラを押さえつけ、そして馬車へと押し入れると連行する。


「……お父様、お母様、お兄様」


 小さく、呟くようにステラは馬車の窓の外を見た。そこには、青ざめながらも騎士を止めることなく娘を差し出した者達がいた。


 あぁ、自分は売られたのである。それをステラは理解した。


 我慢せよと父は言った。


 母も兄も、青ざめるばかりで真実を口にはしなかった。


 きっと今日、騎士団がステラを捕えに来ると知っていたであろうに。


 唇が渇く。


 ステラは身が凍えるように、寒かった。

ブクマとか評価とかもらえると、どうしてこんなにうれしいんですかね?

不思議!(*^-^*)

ありがとうございます!!!

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