十三話 夜
予約ミスしていました。
更新遅れてすみません。
静かな夜。ステラは装飾などはベッドのわきへと置き、白い寝巻のワンピース姿でベッドの上に寝転がりながら、毛玉姿のヒューリーの体を優しく撫でていた。
その手には、痛みを和らげる魔力の込められた白い手袋がはめられいてる。
だからこそ痛みはない。
けれど、先ほどの痛みによって、自分の存在について思い出さされたステラは、小さくため息を漏らすと、起き上がり、ヒューリーを膝の上へと乗せた。
「きゅ?」
夜の支度もすませたステラだから、もう眠ると思っていたであろうヒューリーはふるふると毛を震わせて首を傾げる。
そんなヒューリーをぎゅっと抱きしめて、ステラは言った。
「少しだけ、そのままの姿で、話を聞いてくれますか?」
「きゅ?」
人の姿のヒューリーに話す勇気が出ない。
ヒューリーの反応を見るのが怖くなったステラはそう呟くと、何度か息をつき、そして、ゆっくりとした口調で言った。
「私の昔話、聞いていて楽しいものでは無いけれど、少しだけ話しても、いいですか?」
「……きゅ」
同意するように鳴かれた声。
それに安堵しながら、ステラはぽつりぽつりと、自分の事について話し始めた。
「私は、人の国の貴族の娘として生まれました。……両親から愛されていたかは……わかりませんが、第二王子の婚約者となり、期待はされていたと思います」
一瞬、ヒューリーの毛が強張る。
それを撫でながらステラは言った。
「ある日、突然第二王子の婚約者に選ばれました。両親は喜びましたが……私には、その立場が重たくて、重たくて……ひたすら、頑張るしかなくて……でも、私は……」
唇をステラは噛むと、小さな声で言った。
「私は……王子様の婚約者になんて……なりたくなかったの」
涙が一筋零れ落ちる。
「ずっと、苦しくて……期待が重くて……」
また、涙が落ちていく。
「私は、何のために生きているのだろうって、何度も、何度も思って……」
重たい何かを吐き出すように、ステラは震える声でそう言った。
「けれど、そんなある日、突然私は、罪を着せられることとなりました」
「きゅ?」
「第二王子殿下が公爵家のご令嬢と……その、深い仲になり、子をもうけてしまったようです」
「きゅ!?」
ヒューリーが目を丸くし、ステラはため息をつきながらうなずく。
「ね? びっくりでしょう? ふふ、私も驚いて、そして……あぁ、私ってなんだったのだろうかと」
涙がとめどなくぽたぽたとあふれ出る。
「結局私は、公爵家と王家の体裁を守るために、罪人の烙印を押され、魔物の森へと捨てられました。そして、貴方に出会った」
そこで、ステラはぎゅ~っとヒューリーを抱きしめる。
「貴方に出会えて、私は、ここで、本当に、幸せなのです」
心からのステラの言葉であった。
ステラはヒューリーの温もりを感じながら、言った。
「私は、貴方に出会えて幸せ。本当に、今、私は幸せなんです」
ポタポタと涙をこぼしながら呟かれた言葉に、ヒューリーは人の姿に戻るとステラをぎゅっと抱きしめ返した。
「話してくれてありがとう」
「……出会ってくれてありがとうございます。……貴方になら、食い殺されても、私は後悔はないです」
潤んだ瞳でそう言われ、ヒューリーは微笑む。
「後悔はさせないさ」
「はい」
ステラはヒューリーの胸の中に抱きしめられて、心地良く目を閉じた。
そう。
けれど、その幸せなその時は、一瞬で消え去ることとなる。
「え?」
ステラは目を開き、息を飲む。
「ステラ!」
体の周りに魔法陣が浮かび上がり、そしてステラを光の渦の中へと引きずり込んで行く。
「いや! 何!?」
「ステラ! これは強制召喚の魔法陣だ!」
「ヒューリー様!?」
「必ず迎えに行く! それまで、まっ」
「ヒューリー様!? っきゃっ!?」
体が光の渦の中へと落ちていく。体が浮き上がる感覚と、そして、落ちていく感覚が体を飲みこんで行く。
一体何が起こっているのかが分からず、それと同時に、恐怖が渦巻いていく。
「怖い……怖い……ヒューリー様……ヒューリーさまぁ……」
何が起こっているのか分からないまま、そして光の出口が現れる。
そして、光を越え、ステラはその先の恐怖を見るのが嫌で、目を閉じて蹲る。
「聖女様?……聖女様。ようこそおいで下さいました」
その声に、ステラはびくりと体を震わせた。
「ここにはあなたを傷つける者はおりません。どうか、お顔を見せていただけませんか?」
恐怖が、脳裏をよぎっていく。
ステラは、震えながらも、どうにか顔を上げ、そして目の前で跪いている人を見て、目を見開いた。
「聖女様……どうか、この国をお救い下さい」
目の前にいた人は、かつて、ステラは一度だけ会ったことのある人であった。
「私の名は、ガントーレ王国第一王子、クリストファー・ルク・ガントーレと申します」
ステラは恐怖で、身動きが出来なくなった。
美しい金色の瞳と、髪をもつ青年は、優しげな笑みを携えていた。人に好かれるであろうその微笑ではあるがステラにとっては、アスランに似た恐ろしい存在にしか思えなかった。
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