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婚約破棄され捨てられた令嬢は、魔物の森で毛玉を洗う  作者: かのん


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14/31

十三話 夜

予約ミスしていました。

更新遅れてすみません。

 静かな夜。ステラは装飾などはベッドのわきへと置き、白い寝巻のワンピース姿でベッドの上に寝転がりながら、毛玉姿のヒューリーの体を優しく撫でていた。


 その手には、痛みを和らげる魔力の込められた白い手袋がはめられいてる。


 だからこそ痛みはない。


 けれど、先ほどの痛みによって、自分の存在について思い出さされたステラは、小さくため息を漏らすと、起き上がり、ヒューリーを膝の上へと乗せた。


「きゅ?」


 夜の支度もすませたステラだから、もう眠ると思っていたであろうヒューリーはふるふると毛を震わせて首を傾げる。


 そんなヒューリーをぎゅっと抱きしめて、ステラは言った。


「少しだけ、そのままの姿で、話を聞いてくれますか?」


「きゅ?」


 人の姿のヒューリーに話す勇気が出ない。


 ヒューリーの反応を見るのが怖くなったステラはそう呟くと、何度か息をつき、そして、ゆっくりとした口調で言った。


「私の昔話、聞いていて楽しいものでは無いけれど、少しだけ話しても、いいですか?」


「……きゅ」


 同意するように鳴かれた声。


 それに安堵しながら、ステラはぽつりぽつりと、自分の事について話し始めた。


「私は、人の国の貴族の娘として生まれました。……両親から愛されていたかは……わかりませんが、第二王子の婚約者となり、期待はされていたと思います」


 一瞬、ヒューリーの毛が強張る。


 それを撫でながらステラは言った。


「ある日、突然第二王子の婚約者に選ばれました。両親は喜びましたが……私には、その立場が重たくて、重たくて……ひたすら、頑張るしかなくて……でも、私は……」


 唇をステラは噛むと、小さな声で言った。


「私は……王子様の婚約者になんて……なりたくなかったの」


 涙が一筋零れ落ちる。


「ずっと、苦しくて……期待が重くて……」


 また、涙が落ちていく。


「私は、何のために生きているのだろうって、何度も、何度も思って……」


 重たい何かを吐き出すように、ステラは震える声でそう言った。


「けれど、そんなある日、突然私は、罪を着せられることとなりました」


「きゅ?」


「第二王子殿下が公爵家のご令嬢と……その、深い仲になり、子をもうけてしまったようです」


「きゅ!?」


 ヒューリーが目を丸くし、ステラはため息をつきながらうなずく。


「ね? びっくりでしょう? ふふ、私も驚いて、そして……あぁ、私ってなんだったのだろうかと」


 涙がとめどなくぽたぽたとあふれ出る。


「結局私は、公爵家と王家の体裁を守るために、罪人の烙印を押され、魔物の森へと捨てられました。そして、貴方に出会った」


 そこで、ステラはぎゅ~っとヒューリーを抱きしめる。


「貴方に出会えて、私は、ここで、本当に、幸せなのです」


 心からのステラの言葉であった。


 ステラはヒューリーの温もりを感じながら、言った。


「私は、貴方に出会えて幸せ。本当に、今、私は幸せなんです」


 ポタポタと涙をこぼしながら呟かれた言葉に、ヒューリーは人の姿に戻るとステラをぎゅっと抱きしめ返した。


「話してくれてありがとう」


「……出会ってくれてありがとうございます。……貴方になら、食い殺されても、私は後悔はないです」


 潤んだ瞳でそう言われ、ヒューリーは微笑む。


「後悔はさせないさ」


「はい」


 ステラはヒューリーの胸の中に抱きしめられて、心地良く目を閉じた。


 そう。


 けれど、その幸せなその時は、一瞬で消え去ることとなる。


「え?」


 ステラは目を開き、息を飲む。


「ステラ!」


 体の周りに魔法陣が浮かび上がり、そしてステラを光の渦の中へと引きずり込んで行く。


「いや! 何!?」


「ステラ! これは強制召喚の魔法陣だ!」


「ヒューリー様!?」


「必ず迎えに行く! それまで、まっ」


「ヒューリー様!? っきゃっ!?」


 体が光の渦の中へと落ちていく。体が浮き上がる感覚と、そして、落ちていく感覚が体を飲みこんで行く。


 一体何が起こっているのかが分からず、それと同時に、恐怖が渦巻いていく。


「怖い……怖い……ヒューリー様……ヒューリーさまぁ……」


 何が起こっているのか分からないまま、そして光の出口が現れる。


 そして、光を越え、ステラはその先の恐怖を見るのが嫌で、目を閉じて蹲る。


「聖女様?……聖女様。ようこそおいで下さいました」


 その声に、ステラはびくりと体を震わせた。


「ここにはあなたを傷つける者はおりません。どうか、お顔を見せていただけませんか?」


 恐怖が、脳裏をよぎっていく。


 ステラは、震えながらも、どうにか顔を上げ、そして目の前で跪いている人を見て、目を見開いた。


「聖女様……どうか、この国をお救い下さい」


 目の前にいた人は、かつて、ステラは一度だけ会ったことのある人であった。


「私の名は、ガントーレ王国第一王子、クリストファー・ルク・ガントーレと申します」


 ステラは恐怖で、身動きが出来なくなった。


 美しい金色の瞳と、髪をもつ青年は、優しげな笑みを携えていた。人に好かれるであろうその微笑ではあるがステラにとっては、アスランに似た恐ろしい存在にしか思えなかった。


 

いつも読んでくださりありがとうございます!

ブクマ、評価本当にありがとうございます!(*‘ω‘ *)頑張ります!

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